――気に入らねェ。
目の前で涙を滲ませながら、謝罪の言葉を口にするこの女が――
「気にいらねェなァ……」
「……マリク……」
「別に、食い物なんかどうだっていいんだよ……!!!
ッ……――――」
咄嗟に吐き出してしまったが、そのまま続きは飲み込んだ。
――くだらねェ。
オレは何を言おうとした……?
くだらねェ……
********************
互いに、胸のうちにしまった言葉を飲み込んだまま、沈黙がその場を支配していく。
――やがて。
「マリク……
と、とりあえず……、この手のやつ、外してくれない……?」
「……嫌だねぇ」
「ッ……!!!
ひどいよ、マリク……!!!!」
「酷いのは貴様の方だろ!!!」
「うっ……、だから、それはゴメンて――」
「そういう事じゃねえんだよ!!!!」
「!!!???」
マリクが荒げた声に少しだけ肩を震わせる私――
「な、ん……」
恐る恐る覗いたマリクの顔は、苦しそうに歪んでいて――
「マリク……」
「フン……!!!」
「ッッ!! やぁっ……!!!」
マリクの名前を呼んだところで、いきなり服の上から胸の膨らみを鷲掴みにされた。
「った……!! まりっ……!!! 痛い、よ……!!!」
力任せに揉みしだかれた膨らみが、服の上からでもわかるほど形を変えていた。
「マリク……、どうして、そんなに……!!!」
「貴様までオレの存在を否定しやがるからだろうがぁ……!!!」
「!!!!!!」
ガッ、と顎を掴みあげられ、予期せぬ言葉が鼓膜に突き刺さる。
見開かれたマリクの眼は闇に塗り潰され、頬には血管が浮き出ていた。
「そんな……!! 違っ、そんなこと……!!!」
「主人格サマの前であんなにはしゃいでてよく言うぜぇ……!!!!」
「なっ!?」
「オレを呼び出すことを拒み――
主人格に向かってニコニコしやがってよォ……!!!
貴様は……!! オレよりも、主人格のマリク・イシュタールの方がいいってんだろ……!!!」
「!!!!!!!!!」
――止まる呼吸。
瞬きさえ出来ずに、ただマリクから発せられた言葉を頭の中で反芻する。
「クハハハ……!!!
だがなぁ……、こうやって捕まえちまえばオレだけのモノなんだよ……!!!!
オレの痛みを……貴様にもわからせてやる――!!!!」
「……待って」
「うるせェよ……!!
殺されたくなきゃ大人しくしてるんだなぁ……!!!」
「っ、ちがう!! マリク!! 誤解してる!!!」
「ッ――!」
胸の中で何かが弾ける。
「マリク……!!!
私がマリクを呼ばなかったのは……っ!!!!
マリクが……っ
マリク、と――――」
必死に言葉を紡ごうとするも、胸に迫ってくる感情と狭まる気管が、言葉をいちいち途切れさせる。
「マリクと、ふたりだけで……過ごしたかった、から――
っ……、誕生日おめでとう、って……
私だけ、言いたかったから……マリクに……っ!!!!
だから……だから……!!!!」
震える唇。溢れて零れ落ちる涙。
こんな無様なところを、こんな体制でマリクに見られるなんて屈辱的すぎる。
でも――――
マリクの本心がどこから来ているのかを知ったら、ただ嬉しくなって――
堪えきれずに自分もまた、抑えていたものが理性を押し流し、奔流となって、口から流れ出したのだった――――
「……きさ、ま……
主人格の方が好きなんじゃねえのか……?」
「っ……!! ちがう、よ……!!!
私が好きなのは……っ、
今、目の前にいるマリクだよ……!!
主人格のマリクは、良い友達だけど……っ、でも……!!!
こんなヒドイこと、されても……っ、嫌じゃない、のは……!!!
マリクが、マリクだからだよぉ……!!!」
視界が揺らぎ、マリクの顔がぼやけていく。
「バカっ……! マリクのバカっ……
一緒に居たかったけど……っ、みんなに悪いと思って……、せっかく我慢してたのに……っ!!!
こんな、こんな形で……っ!!!
ばか……っ、ばか……!!!」
唇は勝手に身勝手な言葉を吐き出していく。
ひとしきり吐き出したところで、深呼吸をして、唇を噛み締めると――――
手首の拘束が、解かれていた――――
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bkm