あなたが、生まれた日3



――気に入らねェ。


目の前で涙を滲ませながら、謝罪の言葉を口にするこの女が――



「気にいらねェなァ……」

「……マリク……」

「別に、食い物なんかどうだっていいんだよ……!!!
ッ……――――」


咄嗟に吐き出してしまったが、そのまま続きは飲み込んだ。



――くだらねェ。


オレは何を言おうとした……?

くだらねェ……




********************



互いに、胸のうちにしまった言葉を飲み込んだまま、沈黙がその場を支配していく。






――やがて。



「マリク……
と、とりあえず……、この手のやつ、外してくれない……?」

「……嫌だねぇ」

「ッ……!!!
ひどいよ、マリク……!!!!」

「酷いのは貴様の方だろ!!!」

「うっ……、だから、それはゴメンて――」

「そういう事じゃねえんだよ!!!!」

「!!!???」


マリクが荒げた声に少しだけ肩を震わせる私――


「な、ん……」


恐る恐る覗いたマリクの顔は、苦しそうに歪んでいて――


「マリク……」

「フン……!!!」

「ッッ!! やぁっ……!!!」

マリクの名前を呼んだところで、いきなり服の上から胸の膨らみを鷲掴みにされた。


「った……!! まりっ……!!! 痛い、よ……!!!」

力任せに揉みしだかれた膨らみが、服の上からでもわかるほど形を変えていた。


「マリク……、どうして、そんなに……!!!」

「貴様までオレの存在を否定しやがるからだろうがぁ……!!!」

「!!!!!!」


ガッ、と顎を掴みあげられ、予期せぬ言葉が鼓膜に突き刺さる。


見開かれたマリクの眼は闇に塗り潰され、頬には血管が浮き出ていた。


「そんな……!! 違っ、そんなこと……!!!」

「主人格サマの前であんなにはしゃいでてよく言うぜぇ……!!!!」

「なっ!?」

「オレを呼び出すことを拒み――
主人格に向かってニコニコしやがってよォ……!!!

貴様は……!! オレよりも、主人格のマリク・イシュタールの方がいいってんだろ……!!!」


「!!!!!!!!!」


――止まる呼吸。


瞬きさえ出来ずに、ただマリクから発せられた言葉を頭の中で反芻する。


「クハハハ……!!!

だがなぁ……、こうやって捕まえちまえばオレだけのモノなんだよ……!!!!

オレの痛みを……貴様にもわからせてやる――!!!!」



「……待って」

「うるせェよ……!!
殺されたくなきゃ大人しくしてるんだなぁ……!!!」

「っ、ちがう!! マリク!! 誤解してる!!!」

「ッ――!」


胸の中で何かが弾ける。


「マリク……!!!
私がマリクを呼ばなかったのは……っ!!!!

マリクが……っ

マリク、と――――」


必死に言葉を紡ごうとするも、胸に迫ってくる感情と狭まる気管が、言葉をいちいち途切れさせる。


「マリクと、ふたりだけで……過ごしたかった、から――

っ……、誕生日おめでとう、って……

私だけ、言いたかったから……マリクに……っ!!!!

だから……だから……!!!!」


震える唇。溢れて零れ落ちる涙。


こんな無様なところを、こんな体制でマリクに見られるなんて屈辱的すぎる。


でも――――


マリクの本心がどこから来ているのかを知ったら、ただ嬉しくなって――


堪えきれずに自分もまた、抑えていたものが理性を押し流し、奔流となって、口から流れ出したのだった――――



「……きさ、ま……
主人格の方が好きなんじゃねえのか……?」

「っ……!! ちがう、よ……!!!

私が好きなのは……っ、
今、目の前にいるマリクだよ……!!

主人格のマリクは、良い友達だけど……っ、でも……!!!
こんなヒドイこと、されても……っ、嫌じゃない、のは……!!!

マリクが、マリクだからだよぉ……!!!」


視界が揺らぎ、マリクの顔がぼやけていく。


「バカっ……! マリクのバカっ……
一緒に居たかったけど……っ、みんなに悪いと思って……、せっかく我慢してたのに……っ!!!

こんな、こんな形で……っ!!!
ばか……っ、ばか……!!!」


唇は勝手に身勝手な言葉を吐き出していく。


ひとしきり吐き出したところで、深呼吸をして、唇を噛み締めると――――


手首の拘束が、解かれていた――――



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