お酒のチカラ〜盗賊王の夜は更けて〜



「ヒャハハハハハ……!!!
今日も大猟だったぜ……!!!

見ろ、この宝の山を……!!
酒や食い物に換えてもまだこんなに残ってやがる……!!

ヒャハハハハハ……!!!」


「は、はは……
良かったですね……バクラ様っ!!」


月が煌々と輝く夜。


しこたまお宝を奪った盗賊王バクラと傍らに寄り添うアイレンは、星空の下で火を焚きながら二人きりの夜を過ごしていた。


「ハハハ……最高の気分だぜ……ヒック……

酒がうめえ……ヒック……」

「バ、バクラ様……?」


だんだん怪しくなっていくバクラの眼に、アイレンは軽い目眩と既視感を覚える。


宝を奪ってご機嫌なバクラ。

そして、祝杯をあげ――酔っ払うバクラ。

そんな時の彼は、いつもと少し違っていて――――


「んだよ……フフフン

もっとこっちに来いよアイレン……ヒック」

「…………」


腰に回された手がぐい、とアイレンの腰を抱き寄せ、(やっぱり……)と、予感が当たったことに頭痛を覚える彼女。


「なに固くなってんだよ……おら、オマエももっと呑みな」

「あ、はい……」


不敵な笑みを浮かべているバクラは、アイレンの持つ中身の減った杯に酒を継ぎ足した。

アイレンはバクラに腰を抱き寄せられたまま、素直にそっと杯に口づける。
お宝と引き換えに手に入れたお酒はなかなか美味で、喉を通って全身を駆け巡っていった。


身体が暖かい――そして、だんだんと頭がぼうっとしていくのを感じ、これはいけないとアイレンは小さくかぶりを振る。


――夜空を見上げ、バクラが口を開く。


「アイレンよォ……オレ様のディアバウンドは最強なんだぜ……

どんなヤツだって……
王宮の神官たちだって……敵いやしねぇ……」

「は、はい……」


揺らいだ瞳で夜空を見上げながら語るバクラの横顔を遠慮がちに見つめながら、アイレンは相槌を打った。


「んでよ……
オレ様のディアバウンド……どう思うよ……」

「え……」

「カッコイイだろうが……」

バクラの褐色の手が今度はぐい、とアイレンの肩を抱き寄せる。


「っ……か、カッコイイ……と、思います……!」

「だろ……? ヒャハハハハ!!!
よくわかってんじゃねーか……!!!

さすがは……オレ様の女だぜ……」

「ッッ……!!!」


ドキ。

オレ様の女という言葉に心臓が跳ね、アイレンの胸を締め付けた。


「ヒャハハハ……!!
何照れてやがんだよ……
ハハ……

本当に……

オマエは…………

可愛いぜ……」

「ッッッ!!!???」


また派手に跳ねる心臓。

頭はカアッ、と瞬時に沸騰し、口は言葉を失った。


酔った戯れ事だとわかっていても――

こう、いつもの、甘い言葉など望むべくもないぶっきらぼうなバクラの口から、「かわいい」などという単語が出た日には――
ましてや、それが、自分に向けられたものだとはっきりしていた日には――

アイレンはもう、言語も呼吸さえも忘れて、ただ目の前のバクラという存在の一挙手一投足に全身全霊で注目するしかないのであった。


「ケッ……そんなに顔を赤らめやがって……ヒック
いまさら何を照れてんだか……

そんなに期待されちゃあな……

オレ様のディアバウンドで遊んでやるしかなくなるじゃねえか……」

「…………バクラ様?」

ふと我に返り、頭に疑問符を浮かべたアイレンが引き攣った微笑みをバクラに投げかける。


「螺旋波動を食らわせてやるよ……ヒャハハァ
覚悟しな……アイレン……」

「バ、バクラ様っ……!!
だ、だめです……っ!! 正気に戻って下さい……!!」

「うるせえ……」


半分閉じられたバクラの眼が、月明かりと揺らぐ焚火に照らされて怪しい光を放つ。

今度こそ真面目に我に返り、バクラ様!! と吐き出したアイレンの唇は――

薄く浮かべた笑みとともに、バクラの唇によって塞がれたのであった――――








「んっ……! やっ……!! ふぅ、ん……」

「ん……アイレン……、」


アイレンの唇を吸い、舌を絡めとるバクラのそれはいつもより熱を帯びていて――

鼻孔をくすぐるアルコールの香りと、クラクラするような情熱的な唇にアイレンは自身の身体がみるみる火照っていくのを感じていた。


「ぷはぁっ……、はぁ……はぁっ……
バクラさ、ま……」

「フフン……」

上気した顔で切なげに呟いたアイレンの姿に、バクラは満足げに薄く嗤う。


「ハッ……モノ欲しそうな顔しやがって……
お前も酒で身体が火照ってきてんだろ……?
ククク……」

「!!!! ばっ……バクラ様っ……!!!」

「んだよ……! 図星だろうが……!!
オレ様のディアバウンドが欲しくてたまんねーんだろ……? フフフン……」

「あ……ぅ……」


バクラは目を細め、アイレンを腕で抱き寄せながら耳元でゆっくりと囁いた。

アイレンの顔はすっかり熱くなり、鼓膜を震わせるバクラの言葉全てが媚薬に変わっていくような錯覚を覚える。

「…………、てめ……
その顔卑怯だろ……
目茶苦茶にしてやりてえ……」

「……!! な……」

「ハハッ……!!
覚悟しなっ……アイレン!!」

「ッッ……!!!!」


互いの脳を侵食したアルコールが、理性というタガを緩ませていく。

それは、夜闇の元でさらに増幅され――――



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