古代への陶酔



「……う〜ん……、次は、と………」


未だ見慣れない街並み。

それは、自分がいた世界とは全く違う景色で――

視界いっぱいに広がる、太陽と砂と異文化な雰囲気の街を目にしながら、私はため息をついた。



……わけもわからず、この世界に来てから、はや一週間。

運悪くいきなり悪人たちに襲われそうになった私は、運良く……
否、運悪く、盗賊を名乗るバクラという男の人に助けられる形で攫われ、何やかんやでバクラの奴隷にさせられて、今――

こうしてお使いを命じられ、街に買い出しに来させられていたのだった。


バクラは横暴だし、変な力を持っていて怖いし強いし、そもそも……

攫われた直後に、彼に自分が何をされたかを思い出せば、とてもじゃないが正気でいられないのだった。


「………っ」

あの日バクラにされた事を思い出し、カッと頬が熱くなる。
呼応するようにバクラのあの、獣のようなギラついた眼が脳裏に浮かんで心臓がドクリと跳ね、私は思わずぶんぶんと頭を降った。


あれから一週間……
と言っても、カレンダーがないから正確な日にちはわからないけど――

バクラはあれこれと私に雑用を押し付けはするけど、あれ以来私に手を出してくる事はなく…、そこだけは意外というか、拍子抜けした部分なのだった。

もちろん、そちらの方が大いに有り難いのだけど……。


「このまま何事も起こらず、明日起きたらちゃんと元の世界に戻ってた!
とかだったら良いんだけどな〜〜」

毎日そんな事を考えながら朝、目を覚ますけど、やはりそこは毎日見慣れない異文化な世界のままなのだった。





「えーと、次は……」


ありえないことに、どう見ても異文化なこの世界の言葉を私はどういうわけか理解できるのだ。

しかし、元から着ていた制服はところどころバクラに破かれ、その後何とか繕ったものの――

さすがに制服のままでは目立ちすぎるということで着替えさせられ、更に周りの人間より白い肌を隠す為に私は、口元を隠す布とフードがついたマントを羽織らされているのだった。


今更あれこれ深く考えても仕方ない。

とりあえず、頼まれたものをちゃんと買って行かないとバクラに怒られるだろう。

彼はあまり人の多い繁華街には顔を出したくないらしく、今はこの場所には居ないのだ。




「らっしゃい……! 何をお探しで……?
……あぁ、それならこれだよ!! お代は……

…………おっと、それだとこっちが商売あがったりだよ〜
もうちょい良いモノを出してくれなきゃこいつは売れないよ!!」

「えーと……」


いろいろなお店というか、屋台が立ち並ぶ雑然とした市場で、バクラから言い付けられたものをお店の人に伝える私。

未だ貨幣の流通が覚束無いこの国では、主に貴金属がお金の役目を果たすらしい。

しかし……、お店の人は、私がバクラに言われて持たされた貴金属だけでは足りないと言う。

(どうしよう……)

困惑し、無言で固まる私の眼をジッと覗きこんでくるお店のおじさん。

ヒゲを湛えた口元が、何かを確かめるようにゆっくりと動く。

「あんた……異国人か……?」


――まずい。

背中を、冷たいものが伝っていく。

どうしよう――

その時だった。


「君、大丈夫かい……?
……おっちゃん、こいつを追加すれば足りるだろ……?
あんまり悪どい商売してんじゃねぇぞ」

「……っ!? あ……」


突然現れた見知らぬ若い青年。

こちらの返答を待たずして、お店の人と話を進めてしまう。

「へ、へぇ……まぁ、これなら……
っ、まいどあり〜!!」

「……っ、ちょ……! 困ります……!!」


突然の事に頭がついて行かないが、やっとの事で声をあげて若い男性を遮る。

しかし、「いいっていいって……! ほら、他のお客さん来ちゃったし、それ持って早く行こう!!」

「え、あ……!!」

お店の人から品物を受け取ると、すかさず青年にもう片方の手を掴まれ引かれていく。




「ちょ……、離して下さい……!」

「ごめんごめん」

人込みを抜け、ようやく掴んだ手が離される。


「あの……、すいません、私……! 受け取れません……!!
あの、一体、どういうつもりで――」

「はは……! いいんだって!
君が困ってたみたいだからつい助けちゃっただけなんだ……!

君、まだこの街は慣れてないの……?
もしかして一人きりで困ってたんじゃない……?」

「あ……」

「声と目元だけでわかるよ……可愛い人だってね!
もしボクで良ければ、力になるよ……? 何でも言って!」

「っ…… あ、ありがとうございます……
でも……」

青年の優しげな口調に、戸惑いだけだった心が少しほぐされていく。

しかし、何故……


「あ、もしかして疑ってる……?
困ってる女の子がいたから助けつつ、ついでに仲良くなれたらな〜
なんて思って声かけたんだけど……

あはは、ボクみたいのは好みじゃなかったかな……?」


え…………

こちらの疑念を見透かしたように、苦笑いを浮かべながら頭をかく青年。

もしかして……

これって、ナンパ……??


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bkm


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