短編 | ナノ

嵐のような(ワートリ)

「最近やけに近界民(ネイバー)多くない?」

トリガーを解除しながら隣の姉を見てみると、ようやく戦闘が終わって緊張が解けたのか、すごい勢いで安堵のため息をついていたもんだからつい笑ってしまった。
私だって未だにあの戦闘が始まる前の緊張は苦手だというのに。





この姉妹が住んでいる地域の名前は、三門市。人口28万人が在住している大きな市だ。ある日この街に異世界への門が開く。
《近界民》
後にそう呼ばれる異次元からの侵略者が門付近の地域を蹂躙。街は恐怖に包まれた。
こちらの世界とは異なる技術を持つ近界民(ネイバー)には地球上の兵器は効果が薄く、誰もが都市の壊滅は時間の問題と思いはじめいた。その時、突如現れた謎の一団が近界民を撃退しこう言い放つ。

「こいつらのことは任せてほしい」

「我々はこの日のためにずっと備えてきた」

近界民の技術を独自に研究し「こちら側」の世界を守るために戦う組織。
界境防衛機関「ボーダー」
彼らはわずかな期間で巨大な基地を作り上げ近界民に対する防衛体制を整えた。

──それから4年。
門は依然開いているにも拘わらず、三門市を出ていく人間は驚くほど少なくボーダーの信頼に因るものか、多くの住人は時折届いてくる爆音や閃光に慣れてしまっていた・・・。





「で、とりあえず本部に行くけど奈々はどうする?」
「私はもう少し見回りしてから本部に行く。まだイレギュラーな門が開いたら嫌だしね」

私の言葉を聞いて有理は嫌な顔をした。たぶん私が本部に面倒くさいから行きたくないというのがバレているのだろう。いつものことだし。
ただもう一度、近界民が現れたら嫌だというのも本音だ。

しばらく黙っているなーと思い始めた頃に、「分かった。けど、いつも私が口酸っぱく言ってること覚えてる?」余程心配なのか戸惑いが含まれた声色が耳に届く。
大丈夫、忘れるわけがない。

「『無理だと思ったらその場から逃げるか緊急脱出』」
「おっけ、じゃあ本部行ってくるからある程度したら帰ってくるんだよ」
「分かったおかん」
「おかん違うし」

そう言い残し、本部へと向かい始めた有理の背を送りつつ、瓦礫の山を踏み鳴らす。
報告は姉に任して私は周辺検索といきますか。何か変わったモノ・場所はないか、それを見逃さないようガサガサ手荒に探していたら(有理がいたら本気で怒られそう)、見知った顔が。

驚かせてやろうとおもったがこっそり行くのが大変そうだしどうせバレてるので、そのまま近くにまで行けばやはり分かっていたのか、彼は楽しげに笑う。

「よう、奈々。ぼんち揚げ食う?」
「食べる、誰その人ら」

袋ごと奪えば俺のぼんち揚げ!と悲しそうな声が聞こえたけど無視無視。副作用で知ってたんだろー?と茶化せば「まあね、実力派エリートなもんで」聞いていないことまで言ってくれた。

「眼鏡かけてる方がC級隊員の三雲 修くんとその同級生の空閑 遊真。遊真のほうは近界民ね。そして2人ともうちの支部に入る予定だから」
「へぇ、眼鏡のほう弱そうな雰囲気…」
「そう言ってくれるな」

眼鏡掛けている方がダラダラと冷や汗をかいているから大丈夫かと心配になってたら、白髪のほう…くが?が声を掛けてきた。お前も眼鏡のほう心配してやれよ。

「ねぇ、あんたは俺が近界民って聞いて怒ったり怖がったりしないの?」
「別に私に危害を加えようとしない限り怖くないし怒ったりもしないけど、口の聞き方には気をつけてほしいなぁ。いくつ?」
「俺は15歳だけど?」
「私の方が年上だ。んー、敬語はいらないけど、あんたっての止めてくれない?気分悪い」
「ふむ、それは失礼しました」

ぺこりと頭を下げ謝罪を述べたので中々良い奴だななどと考えていたら、眼鏡くんがこっそり息を吐くのを見てしまった。あの類のため息は先ほど見た。本当についさっき実の姉がついていた、ため息と同じ。

「…まあ、眼鏡くん。色々大変だと思うけど、頑張れ」
「え、あ、はい」
「ところでオネーサンは名前なんていうの?」
「あぁ、私は橘奈々。姉が1人いて、有理っていうんだ」
「ほうほう、奈々さんに有理さんね。覚えた」

ポンと肩に手を置かれる。
振り返れば今まで放置されていた人物、手に目薬を持ち偽の涙を流した迅がいた。

「なに」
「冷たくない?俺の扱いヒドくない?」
「苦情なら有理へどーぞー」
「いつか本当に言うからなー」

空になったぼんち揚げの袋を迅にあげ、くが?に視線を向ける。

「くが?だっけ?」
「うん、遊真でいいよ」
「じゃあ私も奈々で…近界民なら強い?」
「まあ、それなりじゃない?」
「へー…あ、ごめん。一戦やりたかったんだけど、本部から呼び出しだわ」

じゃーねー、あと近界民がやたらと多い理由分かったなら後で連絡くれ。そう早口で伝えて本部へと向かう。
嵐のようなやつだろ?という迅の言葉を背にしながら、私は本部にいる人たちからの小言を想像して、走る速度を緩めた。



‡‡‡‡‡‡



後にこれの続編(というか元にして)書いているが夢主の性格がさっぱりさっぱり〜な状態なので、設定だけもらったと感じてくれれば←

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