と安堵
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Act-2



そして現在。

「違いますよ?珠紀さん」
「えっ!?」
「ここはもっと、こう・・・」
「あ・・・卓さん・・・」

茶のいい香りが漂う大蛇宅の居間では、俺の目の前でピンク色の甘ったるい空気を纏った二人が会話に花を咲かせている。

「湯の量はこのくらいで」
「はい」

柄杓を握る珠紀の手に自分の手を添えて指導にあたる卓。

近すぎだろ。
ぜってー大蛇さん、ワザとやってるな。

二人の仲を見せつけられているようでイライラする。

「上手になりましたね」
「ありがとう・・・ございます」

卓からの賛辞に、顔を赤らめる珠紀。

やっぱ面白くねぇ。

下降する気分を隠そうともせず、バイク雑誌に目を向ける真弘。
するとそこへ

「はい。真弘先輩」
「・・・は?」

珠紀が、満面の笑みで和物茶碗を俺に差し出す。

「今までで一番の出来なんです」
「お・・おぉ」
「先輩の為に立てたんですよ?このお茶」
「俺・・に?」
「はい。召し上がってくれますよね?」
「さんきゅ」

素直に嬉しい。
俺の為に立てた茶が今までで一番の出来だと言う珠紀。
恥ずかしそうに目を伏せるその表情は、可愛いとしが言いようがなかった。

「・・・美味い」

口内に広がる茶の苦味に、胸が温かくなるのを感じた。

「本当ですか!?」
「あぁ。美味いよ」
「よかったっ!」

俺の感想に喜ぶ珠紀を見ていると、先程まで下降していた自分の気分も一気に回復してくる。

「おや?鴉取君もお茶の味が分かる年頃になったんですね?」

折角浮上した俺の機嫌も、大蛇さんの一言で一気に地へと落ちる。

「大蛇さん・・・」
「はい?」

俺が溜め息と共に睨みつけても、大蛇さんはなんでもない様子でニコニコと黒い笑みを俺に向けている。

大人のヨユーってヤツかよ。

「俺だっていつまでもガキじゃねぇよ」
「そうですか?」
「あのっ・・二人とも?」

雲行きの怪しい俺と大蛇さんに、心配そうな表情を浮かべる珠紀。

悪いな珠紀、ここは引けない。

「もう少し鴉取君には大人になっていただかないと」
「俺がガキだってことか」
「すぐそうやって熱くなる所とか・・・ですかね?」
「大蛇さんだって結構熱くなってねぇか?」
「私がですか?まさか」
「どうだか」

フンっと鼻で笑い、大蛇を睨み付ける。

「はぁ、鴉取君?」
「なんだよ」
「それでは女性に嫌われてしまいますよ?」
「それと今の話と、何か関係あるんすんか」
「もちろん、ありますよ」

真弘の台詞に、呆れたようにため息を吐く卓。

「男性が子供では、女性に呆れられてしまいます」
「・・・・・」
「頼りがいが無いと思われてしまいますし・・・」
「・・・・・」
「ようするに、このままでは鴉取君は・・・」
「ちょっ!待ってください卓さん!」

深刻な表情になりつつある二人の会話に、珠紀が割り入る。

「真弘先輩は子供なんかじゃありません」
「・・・珠紀?」

悔しそうに眉を顰める珠紀に、真弘が首を傾げる。

「真弘先輩は凄く優しいし、とても強くて頼れる人です」
「珠紀さん・・・」
「たっ確かに、たまに子供だなぁと思うこともありますけど・・・遠くを見つめてる時の横顔なんて凄く大人びていて、実は私なんかより沢山の事を考えてくれています」

「守ってくれた時の背中は大きくて、凄く逞しいし・・・」
「た・・珠紀さん?」
「真弘先輩は、男らしくてかっこいいんですっ!」

流石の卓も、勢いよく捲くし立てる珠紀の迫力に苦笑を浮かべる。

「ご馳走様です」
「・・・え?」

苦笑を浮かべたまま、卓が珠紀の後ろを指差す。

「・・・っ!」

そこには耳まで顔を赤く染めた真弘が口元を押さえ視線をさ迷わせていた。

「まっ真弘先輩っ」

真弘の存在を忘れて、恥ずかしい台詞を連発した珠紀。
聞かれてしまった事に顔を真っ赤に染めた珠紀がどうしようかとうろたえる。

「お前・・・」

負けじと紅潮した顔のまま真弘が立ち上がり、珠紀の腕をぐいっと掴む。

「来い」
「真弘先輩!?」
「いいから来いっ」

うろたえる珠紀を引きずって、真弘は卓宅を後にした。






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