みにくい

※シリアスver.


ヒソカから甘い匂いがする。
女の、香水の匂いなんじゃないかと思う。
「ねぇ、ヒソカ。今日どこ行ってたの?」
私はヒソカを睨むが、しかしヒソカは口元を緩めたままだ。
「仕事だって、事前に言っておいただろ?」
「…どんな仕事?」
殺気を放ちながら私は言った。
ヒソカも同じく殺気を放つ。
しかし、人を殺す時の重苦しいそれとは異なり、欲情した時のそれと酷似していた。
こちらを奮起させる、そんな殺気。
「人殺し◆」
にっこりと笑ったヒソカ。
「…ふうん。女と寝るのも仕事と関係あるんだ」
「…なんのことだい?」
ヒソカが少し怪訝そうな表情をした。
「……香水くさいよ」
「そう?、シャワー浴びてきたんだけどな◆」
その一言に、私は眉をぴくりと上げた。
「ヒソカ、最ッ低!」
私はヒソカを睨むと、荒々しく扉を閉めて部屋から出ていった。
「◆」
ヒソカは自分の体臭を匂うと、そうかなと呟いた。

私はヒソカがそんなやつだと知っておいて付き合っていたのに、それなのに、ヒソカを怒ってしまった。
ヒソカは確かに私のことを愛しているけど、ほかの女とセックスするのは止めないし、人殺しも止めたりはしない。
そんな男だと、知っているのに。
いつの間にか私は、私は―――いつから独占欲なんかあったんだろうか。
ああ、もう、こんなの私じゃない。

私は自分の家のマンションの屋上に立っていた。
そこはフェンスがあるわけでもなく、屋上の縁に誰でも行けてしまう。
もちろん、私も。
遠く下の道路では車が行き交っている。
夜明けが近付いているのか、空は少し明るくなっている。
私は低い段差に上る。
一歩歩けば屋上から落ちてしまうところで私は明るくなる空を眺めていた。
背後に気配を感じて、私は拳を握りしめた。
「何をする気だい?」
「見てわからない?」
私はヒソカを見ない。
ヒソカは多分、私の背中を見つめていると思う。
「私、ヒソカが最低だって知ってたのに、なんでヒソカを好きになったのかなあ。ヒソカのセックスが上手かったから?愛されてるって勘違いしてたから?、私……傷付くってわかってたのに…」
私はくるりと振り返り、太陽を背にして、ヒソカを見た。
「醜いね、私…」
涙が、なんでか知らないけど流れた。
そして私は後ろに体重移動をした。
ゆっくりと屋上から落ちていく体。
日が昇って、日の光でヒソカの顔が見えなくなる。
私は目を閉じて、死を待った。
しかしやってきたのは死ではなく、なにかに引っ張られる感覚。
「うっ!」
私はコンクリートにたたき付けられた。
ヒソカと距離があったはずなのに、と考えていると、視界にヒソカの念が見えた。
いつのまにか私の体にバンジーガムを付けていたみたいで、それで私を引っ張ったようだ。
私が打撲して痛む体を無理矢理起き上がらせている間に、ヒソカは近くにやって来ていた。
「死なないでくれるかい。楽しみがなくなるだろう?」
「…そっちの勝手な都合で助けないでよ!」
私はヒステリックに叫んだ。
「ボク…、キミとのセックスが一番好きなんだ◆ 」
くっくっ、と喉で笑ったヒソカはじっと私を見つめていた。
ヒソカは私が何をしたって変わらないし染まらない。
そんなやつのために死ぬなんて滑稽だ――。
「ヒソカ…見にくい…」
涙で滲んであなたが見にくい。

みにくい

私もあなたも同じくらい、みにくい。


end




※シリアス甘ver.


「ヒソカ…」
「なんだい?」
仕事帰りのヒソカは血の匂いにまみれた快楽殺人鬼。
それでもって私の恋人、の、はずなのに、ヒソカから違う女の香りがする気がする。
でも血の匂いが濃くて、まぎれてる。
まぁ、だから匂いは女のカンってやつなんだけど。
(ン?)
ヒソカの首になんか赤いものがある気がして目を凝らしてみると、やっぱりそうだ、服から見えかくれするキスマーク。
浮気して帰ってきやがったこいつ。
しかもこんな飄々とした表情で。
ヒソカは自分の首を見つめる私を訝しげに見ている。
「……ヒソカ、浮気したでしょ!」
びし、とヒソカを指差して私は言った。
「うん?してないよ?」
さらっと否定するヒソカ。
「うっ嘘つけ!その首のキスマークはなんだあ!」
ヒソカの胸倉を掴んで、首についているキスマークを指でぐりぐりと押した。
白状しやがれこのピエロ。
「ちょっと、ボク、首弱いの知ってるだろ? くすぐったい◆」
ヒソカは私の手を掴んで首から離した。
そんなことはどうだっていい。
「――じゃないっ!こら、このキスマークはなに!」
精一杯ヒソカを睨んで私が叫んだ。
「……キスマークごときで、浮気と断定するのかい?」
急にヒソカの雰囲気が変わって、私は身震いした。
殺気というか、念というか、いやただ空気が重いだけなのかもしれないけど、肌を触れる空気が冷たい。
「…仕事だよ」
ヒソカの切れ長の目が私を舐めるように見た。
「…証拠…は?」
「それはない◆」
にこ、と笑ったヒソカ。
「じゃあ信じられるわけないじゃない!」
大声で叫んだ。
胸が張り裂けそうなくらい、痛い。
「だって普通キスマークなんかあったら浮気って思うよ!それにっ…、仕事でもセックスしたら、私を、…裏切ったことになる…って、思わない…かなぁ…!!」
ひっく、と嗚咽が止まらなくなって、視界が涙で滲んでヒソカが見にくくなる。
「うぅ…」
涙を何度拭っても頬は濡れたまま、私は膝から床に崩れ落ちた。
「……泣くなよ」
ヒソカも腰を下ろして私の頬を優しく撫でた。
ダメだ、ヒソカが見れないし見えない。
「…セックスはしてない」
「…?」
私は鼻を鳴らしながらヒソカの言葉を聞いた。
「仕事中に、依頼主に襲われちゃってね◆ 都合もあって殺すわけにもいかなくて、流れに身を任せてたんだけど…」
ヒソカは続ける。
「勃たなかったよ、見事に◆ それでボクはキミのこと大好きなんだなって再度確認して…それで、依頼主殺して帰ってきちゃった」
ヒソカは私を抱きしめると優しく背中を撫でてくれた。
「うぅ、ヒソカぁ…」
「ごめんね◆」
当の私は想像の相手に嫉妬してる醜い女。
ヒソカは私の額や頬、鼻や目元や唇にまでキスの雨を降らせている。
「私こそごめんなさい…!」
「いいよ◆」
ヒソカの胸でいっぱい泣いた私は、腫れた目でヒソカを見た。
「…やっと見てくれた」
そう言ったヒソカは甘いキスをたっぷり堪能した。
そして唇を離してから、ヒソカが言った。
「ねぇ、消毒してくれないかい?、このキスマーク、不快で仕方ないんだ」
「…うん」
ヒソカの奇術師の服を脱がすと、キスマークに唇を寄せた。
見えないけど、ヒソカは恍惚とした表情をしてるんだろう。
私の腰をがっちりと抱き抱えて、ヒソカは私の服を脱がしにかかった。
「ボクもうキミでしか勃起しないと思うなぁ◆」

みにくい

あなたは私を信じてたのに。
私はなんて醜いの。


end


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