・・・劣情

aaa:高校生


私は誰よりもあなたが好きなのに、あなたが好きなのは私じゃない。


「…虎徹、お疲れ様」
「おぉ!aaa!」
仕事帰りの虎徹がビルから出てくると、aaaはぱたぱたと虎徹に駆け寄った。
虎徹はaaaの頭を撫でる。
「いつも悪ィなぁ!」
虎徹の仕事終わりの時間とaaaの学校が終わる時間が同じ頃で、学校の場所も会社と近いからと一緒に帰っていた。
虎徹が悪びれたふうではないのは、いつものことだ。
「…私が一緒に帰りたいんだもん」
aaaが歩き出すと、aaaの歩く速度に合わせて、虎徹も歩き出した。
「aaa、ありがとな」
虎徹はaaaと手を繋いだ。
「…虎徹!」
「んー?」
ふわ、とあくびをする虎徹を見上げたaaa。
「今日、頑張ってたね!」
今日は強盗が発生して虎徹とバーナビーが捕まえに行っていた。
惜しくも、バーナビーが捕まえてしまったけれど。
「んー…でもバニーちゃんにとられちったしよぉー」
はぁ、と溜息を吐く虎徹は肩を竦め、耳の垂れた犬さながらにしょんぼりとしていた。
「次、頑張ればいんだよ!それにとるとらないの問題じゃないし!」
aaaは虎徹の手を握り締め、笑いかけると、虎徹もつられたのかへらりと笑った。
「そうだな」
「あっ、あとね、虎徹」
「おう」
勇気を振り絞って、aaaは口を開いた。
「い、家泊まっていい…?今日は親がいなくて……」
緊張で声が震えているのがわかる。
「……おう」
少しの沈黙の後の返答に、aaaは戸惑いながらも虎徹の家に向かった。

「虎徹の家って…初めて…」
「あれ?そーだっけ?」
虎徹は冷蔵庫を漁り、ミネラルウォーターを出した。
「ほいっ」
「わ!」
ぽい、と投げられたミネラルウォーターが、aaaの手の中で跳ねた。
aaaは虎徹の家の、リビングを見渡しながら、ぷし、とミネラルウォーターを開けた。
「……」
虎徹と奥さんであろう人の写真や子供の写真。
父親だ、なんて思いながらもaaaは虎徹との関係に思考を巡らせた。

妻を忘れられない、否、いまだ愛している虎徹を、愛してる私。
それはただの独りよがりか――。

aaaはミネラルウォーターを嚥下すると、虎徹の左手の薬指にある指輪を見た。
「ねぇ、虎徹。私、虎徹のこと好き」
「ん?、お、おぉ」
急な告白に、虎徹は戸惑いながらも、どうしたと笑った。
「虎徹は…?」
「は?……好きだけど」
きょとん、と目を丸くして言った虎徹に、苛立ちが増した。
「……虎徹が好きなのは私じゃないよ」
「?」
「奥さんのこと好きなくせに、それなのに私に好きなんて言わないでよ!」
一気にまくし立てたaaaの目からは涙が、それに気付いた虎徹がaaaに歩み寄った。
aaaは歪んだ顔を見られまいと顔を背け、床にしゃがみ込んだ。
「aaa」
「…虎徹は悪くないよ」
ぽつりと呟いた言葉が虎徹の耳にまで届いたかはわからない。
「……確かに、まだ、忘れられねぇし、忘れるつもりもねぇけど、aaaのこと好きっつーのも、嘘じゃねぇよ」
虎徹はaaaの横にしゃがみ込み、aaaの頭を撫でた。
「傷つけたなら悪ィ。でも、愛してるから。……aaaのこと、愛したい」

申し訳なくて涙が溢れ、固く結ばれた唇から小さな嗚咽が零れ出た。

誰よりも私を好きになってほしくて。
・・・劣情。



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