ねぇ、聞いてる?

「…ねぇ、聞いてる?」
―――ヒソカ。

初めて見る彼の、ヒソカの寝ている姿は意外と普通の人間だった。
起きる様子もなくただぐったりとしてベッドに体を預け、ヒソカは眠っている。
奇術師メイクはなく、髪もシャワーを浴びたんだろう、下ろしてある。
「…ヒソカ」
aaaはそんなヒソカを見下すようにベッドに腰をかけ、ヒソカの頬を撫でた。
気持ち良さそうに、ヒソカが微笑んだ。
「好きだよ、ヒソカ」
髪をさらさらと梳いて、それから頭を撫でた。
可愛いヒソカ。
殺人鬼ではないヒソカ。
「ねぇ、ヒソカ。昨日一緒にいた人って、誰?」
aaaは昨日の記憶を手繰り寄せた。

aaaが買物をしていた時に、ヒソカらしき人物を見かけて、思わず目で追いかけていた。
髪は下ろしてあって、メイクはしていなかったけれど、間違いなくそれはヒソカだった。
――自分とは違う女性の肩を抱いたヒソカだった。
そのままヒソカは高級そうなホテルに向かっていった。
aaaは唖然としてそこから動けなくなり、叫びたくなったが理性を取り戻して買物袋を提げて家に戻った。
その日、ヒソカは帰って来なかった。

夜が更けて翌日になったあたりで、ヒソカは家に帰ってきたらしく自分の隣で寝ていたのに気づき、aaaは今、寝ているヒソカに尋問しているのだ。
ヒソカを起こさないのは、自分の憐れな嫉妬に気付かれないため。
(どうせ、ヒソカは本気じゃないし。まだ十代の私なんか遊びでしかないんだろうなぁ)
じんわりと視界を支配した涙を拭って、aaaはヒソカを見つめた。
「ヒソカ……やだ、ヒソカぁ…」
枕にのせてあったヒソカの手をぎゅうと握り、aaaは小さく言葉をこぼした。
「…ねぇ、私のことほんとに好き?、私たちってほんとに恋人なの?、ヒソカ…!」
ぽろぽろと溢れる涙を止めることも出来ず、aaaはヒソカの頬にぽたりぽたりと水滴を垂らしながら嗚咽した。
「…ねぇ、聞いてる?」
ひっく、としゃくり上げながら、aaaが涙を拭った。
すると、寝ているはずのヒソカが、ヒソカの手がaaaの手を握り返した。
「…聞いてるよ◆」
「ヒソカ…!!」
ヒソカの声にaaaが枕元を見ると、ヒソカは微笑みながらaaaを見ていた。
「aaa、なんで泣いているんだい?」
ヒソカはぎこちなく起き上がると、aaaの頬に触れた。
「や…っ!」
ぴし、と思わずヒソカの手を叩いてしまっていた。
「…aaa」
ヒソカはaaaの手を力強く握って、顔を近付けた。
「なんで、泣いているんだい?」
aaaの目尻にちゅっと軽いキスを送ったヒソカは切なそうな顔をした。
「っ!、ひ、ヒソカが…昨日、浮気したからぁ…!!」
aaaはヒソカの顔を見ないようにそっぽを向いて泣きながら言った。
「昨日、浮気…?、あぁ、あれか◆」
ヒソカはaaaを抱き寄せると、テーブルにあるリモコンを取って、テレビをつけた。
「やだっ、ヒソカ!」
「こら、暴れないの」
抵抗して腕を振り回すaaaを抱きしめ、ヒソカはテレビを指差した。
「ほら、今やってる事件。あれ、ボクがやったんだよね◆」
aaaが振り返ってテレビを見てみると、そこにはaaaが昨日見たホテルの映像と女性の写真。
「ちょっと頼まれ事してて◆ あの女とその父親を殺さなくちゃいけなくてね」
にこ、と笑うヒソカは、aaaの唇にキスをした。
「浮気は、してないよ◆」
賑やかなテレビを背に、ヒソカはaaaをベッドに押し倒した。
「わ!、え…えっちなこととかしてない?」
「してない。というか、aaa以外に勃起しないんだよね、ボク◆」
aaaに馬乗りになったヒソカはaaaのパジャマを捲り上げ、下着の付けていない胸をぺろりと舐めた。
「ぼっ…、ていうかヒソカ裸じゃん!なんで!」
「シャワー浴びたら眠くなってさ、そのまま寝ちゃった◆」
aaaに頬擦りをするヒソカ。
「ヒソカ…」
aaaはヒソカの頬を優しく撫でた。
「…aaa、大丈夫だよ◆ ボクはaaaを愛してる◆」
にこ、とヒソカは屈託のない笑顔をaaaに向けると、唇に軽くキスをした。


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