孤独な華。 | ナノ

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sunset




 「それは あたたかくて 優しくて でも切ない。そんなものでした。」



――――…
 冬夜と嵐詩は、まだ寝ているふたりとモコナを置いて起こさないように部屋を出る。約束を守る為に旬麗のところへ行った。旬麗は、本当に来たと嬉しそうに笑って、これ持ってくれる?と洗濯物をふたりにも分けた。3人は川で洗濯をしながら他愛ない会話をして、その流れで冬夜は切り出した。


『そういえば、茲燕さんってどんな方なんですか?見た目とか…』
「えっ」

 例えば身長とか髪型とかと例をあげて、にこっと微笑む冬夜に対し、何故か旬麗は顔を赤らめて、えーっと…と言葉を探し選ぶ。好きな人を思い出すだけで顔を赤くするものか、と嵐詩は他人事(実際そうだけど)のように考えた。


「そうですね…子ども好きで、友達思いで何よりこの町を愛してくれていて……」


 旬麗はその人を思い浮かべるように言葉を紡ぐ。それが愛しげで、本当に好きなんだと 冬夜にも嵐詩にも伝わった。


「ああ、えっと…見た目、ですよね。八戒さんぐらいの身長で、短い銀髪なんです」
『へぇ、』
 

 冬夜は笑顔のまま頷いて、少なくとも嵐詩の兄とは別だなと判断する。嵐詩もその特徴を聞いて、僅かながらにあった自分の兄かもしれないという可能性は消えただろうと安堵する。

――兄貴は、元々悟浄よりもでかかった気するし、髪は染められるけど色違うし、まず妖怪ではねぇし………つかそもそも、こんな美人捕まえられねぇ



『きっと旬麗さんがそんなに大切に思ってる方なんてすから、良い人なんでしょうねぇ』
 
 ニコニコと微笑んで冬夜は洗濯物を洗いながら旬麗の、ほうを見ると、旬麗ははにかんで ええと恥ずかしそうにした。


『そりゃいいな、そいつは 幸せモンだ』

 そうして3人で和やかに洗濯物をすませると、干すために庭のほうへ歩く。御詫びに申し出た以上、と 冬夜と嵐詩で半分にして持ち、旬麗はふたりを先導して歩く。
 

「これが終わったら、すぐにご飯にしますから!」
『おー』
『それは楽しみですねぇ』

 そんなことを話ながら家の角を曲がろうとしたその時、曲がり角の向こうから話し声がした。


「しィッ!そんなこと旬麗の耳に入ったらどうするんだい!?」


 ひそひそと奥様方が井戸端会議をしているようだが、その内容に3人は歩みを止めた。嵐詩も冬夜も思わず 会話のなかで名前の出た旬麗のことを見る。


「そんなこと言ったって…まさか…西の森で人を襲った妖怪が茲燕だっただなんて――」


 その言葉に時が止まったかのようだった。
 嵐詩たちは昨夜のことを思い出す。3人組のことを。あの中に銀髪ははたしていただろうか。あれは銀髪だったか。暗かったせいで近くで見ていた嵐詩も自信がない。



『…旬麗?』

 冬夜がそっと声をかけると、ずっと黙り動かなかった旬麗が


「行かなきゃ」

 と呟くと、くるっと方向を変えてばっと走り出した。咄嗟のことに傍にいたふたりは えっとそれを見送る形になってしまう。嵐詩が反射的に彼女の腕を掴もうとしたがそれは間に合わず空を掴んだ。


『旬麗!!』
『ッ待て!』

 冬夜と嵐詩の大声に井戸端会議していた奥様方は、旬麗が近くにいて聞いてしまったということにも気づいただろう。冬夜たちは仕方ないと、洗濯物のはいった篭を地面に置いて追いかける為に走り出した。




―――――…
 
 椿姫と那都は起きて出る支度をしていた。モコナはお腹すいたーと変な歌を即興で作りながらベッドをごろごろ転がっている。一応、そろそろ旬麗たちのほうへ行くかと椿姫が言い、那都のフードにモコナを入れてふたりは部屋から出た。
 そこでバン!と乱暴に扉が開かれる。半だ。


『あ、おばちゃん おはよー!』
「あぁ!おはよう……ってそれどころじゃあないんだよ!旬麗を知らないかい?」
『…外で洗濯をしているはずだが』


 半に尋ねられ、椿姫は訝しげに、那都は不思議そうな顔をする。


「それがどこにもいないんだよ!村のウワサ話聞いちまったみたいで……アンタ達の連れの2人が追いかけてったらしいんだけど…」

 半の焦りように 椿姫たちもただ事ではなさそうだと気づき、那都はええ!と大きい声をあげて『どうしよう椿姫ちゃん!』と椿姫のことを見上げた。


『玄奘たちを起こしてこい、那都』

 椿姫は三蔵達の寝ている部屋を行ってこいと指差すと、那都は『アイアイサ!』と元気よく部屋に飛び込んだ。それに続くように半まで部屋に「起きとくれ!」と飛びのみ、椿姫はこれはすぐ起きるなと静観する。


―――…冬夜たちが追いかけているなら 大丈夫だとは思うが

 世話になった恩もある。少々、心配している椿姫をよそに半の大声の「起きろーーー!」と布団剥ぎコンボを喰らった4人は起き出した。半と那都がさっきした話をもう一度する。


『それで 噂って?』
「ウワサ?」

 椿姫と三蔵の問いが被る。それを気にも止めずに半は説明を続けた。



「昨晩、西の森に現れて人間を襲った妖怪が 茲燕によく似ていたって……」
『えっ、それって』
「――まさか 旬麗はそこへ…!?」



―――――…
 
「もうちょいスピード出ねぇの!?」
「いっそげー!!」

 悟空とモコナの声が森に響く。そして、それをかき消すぐらいの音でジープは森のなかを疾走していた。さっき起こされた6人とモコナはジープに乗り込み、旬麗の向かった森を走っているのだ。彼女を探すために。
 ついでにそれを追いかけたふたりを拾うために。


「これでも最速なんですけどね」

 八戒は苦笑しつつアクセル全開でハンドルをきる。悟空と那都は気持ちがはやっているのか席に座っていられないのか立ち上がって辺りを見回していた。


「村人の噂通り、その妖怪が茲燕だとしたら…尚更 旬麗と会わせる訳にはいかんな」
『冬夜たちがすぐに追っているなら、無事だとは思うが』
 
 椿姫がそっと懐にしまっている愛銃を確認し、『それでも心配だよ!』と那都は不安そうに言う。


「〜〜何考えてンだよ 旬麗は!?」
「俺が知るかよ」

 悟空は心配と焦りから荒い口調でがなり、後ろからのその声に三蔵が顔をしかめた。そして悟浄は座席につき煙草を吸い、落ち着いた様子で優しげに笑う。


 

「なぁんも考えちゃねーだろよ。愛しい男のこと以外はな」



 

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