1/5
Cleaning beauty
大切な人を思い浮かべてみて下さい。
その人は 今 ドコにいますか。
――――…
「あッ ちょいタンマ!!てめェ今カードすりかえただろ?!」
「てねェよ!目の錯覚じゃねーのー?」
ジープの一番後ろ 悟空と悟浄は、カードをして騒いでいる。那都はモコナと遊び、嵐詩は騒がしい声を聞きながらぼォっと空を見上げ、冬夜は短くなったタバコを咥えながらうつらうつらと船を漕ぎ、椿姫は黙って悟空と悟浄の様子を眺めていた。
“すりかえた”そうだが、椿姫には それがよくわからなかった。すりかえる必要もわからないが、きっと勝つためのイカサマというやつなんだろう。
『(孫も目いいな…)』
「じゃあ、今捨てたカード見せてみろよッ」
「ケッ ヤダね」
「〜〜〜このエロ河童ぁ!!」
ジープの音をBGMにいつも通り加速していく悟空と悟浄の言い合いにもすでに慣れた椿姫は、ウルサイ……と視線を遠くへ移す。
「ああっ!!やるか チビ猿!!」
「やらいでか!!」
『おっ!もっとやれー!悟空もイケー!!』
「モコナも応援!」
このように“それ”に荷担して煽るなんてこともよくあることで、慣れてきた椿姫は意地でもそちらにか関わらないように前方を見た。その賑やかさに反応した嵐詩は見世物をみるかのように笑って見守る。
「降りてやれ 降りて!!」
三蔵の怒号。それに船を漕いでいた冬夜はビクっと体を揺らすと、咥えていた短くなった煙草をケータイ灰皿へつっこんだ。そして 目を擦る。
「今日もまた賑やかですねぇ」
『ですね〜』
うおおおりゃあああっなんていう悟コンビの声をBGMに八戒は笑顔で、冬夜もいつもの様に返した。そんないつもと同じやり取りをしながら今日も今日とて西へ向かうジープが揺れる。椿姫は小さくため息を吐いた。
――…こんな調子で、本当にいいのか…?
一応任務なのにな、と仕事を依頼してきた神様の姿を思いだし、まああれなら大丈夫か…と目を伏せる。言い合いから取っ組み合いにまで発展したじゃれあいに 走行中のジープが揺れる。寝ぼけ眼の冬夜は漠然と思った。
『(……嫌な予感がする…)』
「あッ バカ 危……」
その時どっと悟空が前のめりに運転席の方へ倒れ込む。八戒も三蔵も、嵐詩も那都も焦り、椿姫はハッと目を見開き、冬夜は諦めたようにあちゃーとヘニャりと笑った。
「うお?」
『げ』
『ぎゃあ!?』
「あら?」
『あーー……』
川のそばを走っていたジープは、ズルッと滑り、全員を乗せたまま グラッと車体が傾く。
「『!!どうわああああ!!』」
悟浄、嵐詩、冬夜たちの方はすでに背面間近へと迫る さらさら流れる川。椿姫たちから見れば、目の前に広がる川。
「ぶっ」
ザボン
とても良い音を出しながら、8人(とモコナとジープ)は、その川へと飛び込んだ。大きな水柱があがり、少しの間 静寂が流れ、水面にブクブクブクと気泡が現れ始める。
「『ぷっはあッ!』」
「だぁぁ 冷てぇッ」
『しゃっけーー!』(※(とても)冷たいの意)
ザバァァとまた音をたてながら、全員が川から顔を出した。人間にしてみれば浅瀬だったが、モコナには深い。プカーと浮かんできたモコナを冬夜はすくいあげて、白竜は八戒がすくいあげてくれる。
「おいッ てめーのせいだぞ このバカ猿!!」
「何でだよ!元はといえば お前が…」
『お前らのせいだわ!あほ!!』
また飽きもせず悟浄と悟空が言い合いをしだし、それに巻き込まれてイラついた嵐詩も混ざった。そんなやりとりに怒っている人が2人。
「死ね!このまま死ね!!」
『うるさい!!』
ほぼ同時に三蔵と椿姫は怒鳴る。悟コンビの頭を三蔵が、嵐詩の頭を椿姫が掴み水中へと押し込んだ。がぼぼごぽご…と溺れかけているのではという音も聞こえる。それを生あたたかい目で見守る那都。
『大丈夫です?モコナ』
「うん!へーき!!ビックリしたけど…」
両手に乗せたモコナと会話をした冬夜は、その返事に微笑み、モコナを肩に乗せると鬱陶しく顔にこびりついた髪を後ろへかきあげた。
「くす くす くす」
ひとりの笑い声。一行の誰のものでもない 女性の笑い声に聞き覚えのない一同はその人物の方を見た。
「あ…ごめんなさい。あんまり楽しそうだからつい…」
川のそばで笑い泣きしている女性が、一行のことを見ていた。そんなに泣けるほど面白いことをしていただろうか、と椿姫は首を傾げ、立ち上がって濡れた服の裾を絞る。
「俺をこいつらと一緒にしないでくれ」
と三蔵は頭を抱え、冬夜はイイ笑顔で『似たようなモンですけどねー』とつっこみ、濡れた服が重いようで裾を持ち上げながら立つ。
突然の女性の登場のおかげで、頭から手が離れたことにより 川から頭をあげることができる3人は、心の中で少しは 助かった…と思っていただろう。
「もしかして、洗濯にいらしたんですか?スミマセン 水汚しちゃって」
八戒は人の良さそうな笑みを浮かべて、女性が持っているおそらく洗濯カゴであろうそれを見て申し訳なさそうにする。
那都は『センタク……?川で…??』ときょとんとしている。
「…それよりどーすんだよ 替えの服までズブ濡れじゃんか」
悟浄は、替えの服などを入れているカバンを川底から持ち上げて あーぁと言った。嵐詩も自分達の服が入っているカバンが濡れていることを確認してはーとため息を吐いた。
「――あ 服を乾かすなら、ウチの村まで来ませんか?笑っちゃったお詫びに熱いお茶でも」
女性は身を翻し、こっちです と道案内をしますと微笑んだ。
← | →
back