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『どんだけ高いところから落としてくれたんだ、あのクソババァ』
仮にも神様である観世音菩薩を“クソババァ”呼ばわりするなんて嵐詩はなんと罰当たりなのか。
『まぁー、曲がりなりにも天界から突き落とされたんですから……それなりに高いでしょう。』
ニコニコと微笑み、もうここは自分の部屋ですと云わんばかりにくつろいでいるように見える冬夜は、フ、と上を見上げた。
そこに広がるただの空と雲……冬夜は、誰も気づかないようにため息をついた。
――死なないようにはできるけど、観世さんも無理矢理だなぁ……。
『……あぁ、人がゴミのようだ、な。』
椿姫は ふぅ、と息を吐き、面倒そうにしている。それを聞いた冬夜はハハハッと笑い
『椿姫にしては珍しいユーモアですね。』
と言う。椿姫は半目で冬夜のほうを見た。
『……からかうな。……なぁ、こいつどうにかなんないのか。』
と次に横でクルクル回っている那都を指差した。嵐詩はモコナを握ったままそっぽを向き、冬夜は冬夜で肩を竦めた。
「クルクル回って面白いねー那都ッ!!」
そんな中で、握られたままキャッキャッと楽しげなモコナ。
『笑わないでぇーー……ヴッ』
気持ち悪そうな那都は吐きそうだ、と口を手で押さえながら、クルクル回り続ける。残念だ、止まらない。
『あぁ、喋ると吐いちゃいますよ?』
と苦笑いした冬夜は、手の平を前方……つまり地上の方へと突き出した。その間も那都は顔面蒼白である。
冬夜が何も言わなくても 手の平を中心に魔法陣があらわれた。
『何する気だ。』
『さぁ?』
椿姫と嵐詩がそんな話をしてすぐ風が4人の身体を包むようにしてあらわれ、ゆっくりと地上に向かい降りていく。
『『『!?』』』
「おおお!」
『とりあえず、死にませんからそこは安心して下さい』
風に驚く3人…いや、4人を余所に、よいしょって身体を起こして体制を整えた冬夜はニコッと微笑み、それにより大丈夫だ、という雰囲気を作った。
『すっげ……やっぱ、お前ってなんでもアリ?』
嵐詩も体制を整えると感嘆の声の後に口元をひきつらせる。冬夜はそれに対しても微笑む。
『なんでもは無理ですよ。できることだけ』
と どこかで聞いた事のあるような言葉で返答し、嵐詩は「さいで」とだけ返す。
『ま、これで死ぬ事は無いわけか。』
椿姫も何とか2人に続いて体制を直す。冬夜は無言で頷き、椿姫もそうか、と目を瞑り頷いた。
『……あれ、バカ猫?』
嵐詩が そういや、と那都のほうを見る。未だに口元を抑えている那都は口を開かない。
モコナも不思議そうに那都を見て、みんなの視線が集まる。が、那都はプルプル震えたままだ。
『……相当ヤバそうですね』
「これは危険だね!」
『吐くか?』
『……死んだか?』
冬夜は フム、と顎に手を添えて、モコナは嬉々としていて、椿姫は面倒臭そうに目を細め、嵐詩は嵐詩で呆れモード全開だ。
だが、それを気にする余裕も無く那都は力尽きそうである。
『縁起でも無いですよ。……あぁ、でも、そのほうがいっそ楽かもしれませんねぇ。』
『サラッと恐ぇこと言ってんなよ、那都(チビ)ビビらせてどーすんだ。』
『貴女が言ったのに……。』
嵐詩がオイ、と冬夜の頭にチョップをし、冬夜は眉は八の字にし、口を尖らせ、えーと不服そうだ。
それを椿姫は無言で聞き流し、那都を一瞥してから地上を見下ろした。
――…冗談じゃなく、これはマズいかもな。
「那都だけでも地上に降ろしちゃうとかできればいいけど……」
モコナが ボソッと呟いた言葉に椿姫たち3人の視線が集まる。
『それ、しちゃえば?一気に叩き落とすのは、コイツが無理だけどよ…』
嵐詩は冬夜を見て、椿姫も同様の意見らしく目だけで冬夜を促した。
『……地上のモノと交換って形なら、なんとかなるかも……』
冬夜は、少し考えてから、人差し指を立てて言った。モコナは首を傾け、
「交換?」
と聞き返す。こんなゆっくり会話してる間も彼女たちは落ち続けている。那都の具合は一向に良くなるわけでもなく、悪くなる一方だ。
『えぇ、同じ質量くらいのものと那都を入れ替えるんです。そうすれば、那都は先に地上に……』
『それでいい。やってやれ、コイツもう保たないぞ。』
『ですよね。』
椿姫の言葉に これ以上考えてる時間は無いか、と冬夜は那都に向けて手をついっと伸ばした。
モコナと2人は黙り、那都に至っては発言権、とゆうよりは、もはや気力もない。
『……ご無事で、那都。』
冬夜の言葉とほぼ同時に 魔法陣が那都の下にあらわれた。
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