「花宮くんっ」
「・・・んだよ」
休み時間、廊下を歩いていた名前に呼び止められる花宮。
手には小さなタッパ、さくらんぼが入っているようだ。
「あのね、あのね、桐皇のマネージャーの子が、さくらんぼの茎を舌で結べるんだって!」
「へぇ・・・だから?」
「だから、私もできるようになりたいなーって!」
「勝手にやれよ」
どんっ、と名前を押しのけ教室に戻ろうとする花宮、
の腕を名前が掴む。
ぶーっと頬を膨らませ、今にもさくらんぼを投げつけそうな勢いだ。
「まだ話は終わってないの!でね、練習したらできるようになったの!」
「何が?」
「さくらんぼの茎!舌で結べるようになったんだよ!」
と言ったあとにベーっと舌の上に乗る茎を見せる。
呆れた瞳で見つめる花宮。
だがそのあと、何かを思い出したようにニヤリと笑う。
「おい、そのさくらんぼ、落とすなよ」
「え?どういう・・・っ!?」
ぐっと腕を引かれたかと思えば、ぐるりと変わる視点。
首と膝裏に回される腕。
いわゆる、“お姫様抱っこ”の状況である。
いつの間にかチャイムは鳴っていたようで廊下には誰もいない。
「ちょっ、花宮くんっ、降ろしてっ!」
「誰が降ろしてやるかよ、バァカ」
じたばたと暴れる名前を押さえ込み、屋上まで連れてきた花宮。
案外優しく降ろした名前を壁に追い詰める。
「ちょ、なにっ・・・」
「なぁお前知ってんの?」
「知ってるって・・・なにを?」
「それ、さくらんぼの茎」
落とさなかったさくらんぼのタッパに視線を落とす花宮。
入っているさくらんぼは、あと3つ。
花宮はこのさくらんぼをどう使おうか、なんて考えているのだろうか。
「舌で結ぶの!すごいでしょ!」
「違ぇよ、それできる奴って、キス上手いらしいぜ?」
「はぁっ!?なにそれっ・・・」
唇が触れそうなほど近づく顔、息がかかり名前の頬が赤く染まる。
気恥ずかしいのか、視線を下に落とす名前。
視線の先には、さくらんぼ。
「・・・何、食いてぇの?」
「違う・・・っ」
「じゃあ俺が食う」
持っていたタッパを奪い、ぱくりと一つ。
あっ、という顔をした名前を花宮は見逃さなかった。
茎を持ち、ゆらゆらとさくらんぼを揺らして。
「食べたいなら、お前からキスしてみろよ」
「っ・・・花宮くん意地悪・・・」
「意地悪で結構、で。どーすんだよ」
バカと言いたそうな顔で、花宮の頬にちゅっと触れる。
不満そうな花宮に向かって、名前は言い放つ。
「こっちにキスして欲しいなら、さくらんぼ返してよ」
人差し指を唇に当て、自信満々の顔で花宮を見る。
少しだけ、悔しそうな顔で、さくらんぼをひとつ。
口移しで、名前に渡した。
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