過去企画 | ナノ

昔々、あるところに散葉・・・じゃなくて"シンデレラ"という名の凄く可愛いらしい女の子がいました。
彼女は可愛らしいだけでなく不器用ながらも優しく、そしてお菓子を作るのが得意で毎回俺にも御裾分けしてくれて、「おーい話がそれてるぞー」・・・あ。
・・・話を戻して(コホン)、諸々の事情によりシンデレラは継母と継姉にいびられる日々を送っておりましたが、心根も美しいシンデレラは健気に謙虚に、暮らしておりました。
そして今日も薄暗い台所の隅で空腹と涙をこらえながら継母達に命じられた仕事をこなすのです。
・・・散葉、俺の所に来たら良いのに・・・。


「散葉姉・・・じゃなくて、シンデレラ!シンデレラー!?」
「姉・・・」

継姉達の声がシンデレラ達の屋敷に響きます。
後、二人共役に徹してね。本名は控えて貰うに限るから。

「はいっ気を付けま、(ベシンッ)うっ・・・」
「黙」
「い、痛いよークル姉!」
「・・・」
「・・・・・・ド、ドレスは仕上がったのーシンデレラ!
お城で開かれる舞踏会は今夜なんだからどうしても必要なのー!」

シンデレラの姉の一人、九瑠璃の圧力に屈服した舞流は台詞通りに口を開きます。
額に手刀を喰らった継姉は微妙に冷や汗が出ていますが其処は割愛。

「そう何度も言わなくても聞こえているよ九瑠璃、舞流・・・じゃなかったお義姉様方。
・・・えーと・・・あの、お、おか、・・・お義母様、は・・・?(ふるふる)」
「(ぶっ)お義母様は・・・」
「・・・」

シンデレラと継姉は何故か笑いを堪えています。
まぁ俺も正直失笑を隠せないし気持ちは分かるから敢えてノーコメントで。

「・・・散葉、九瑠璃、舞流。
お前ら後で覚えておけよ・・・」
「「あははははは!!!」」
「・・・・・・」(ふるふる)

徐に登場したのはシンデレラと同じ、黒髪紅い瞳を持った眉目秀麗を具現化したような・・・訂正、容姿端麗の女性が現れました。

・・・君(ナレーター)も覚えておきなよ・・・
・・・で?ドレスは出来たのシンデレラ?」
「・・・そ、其処にある、けど・・・ぶふっ」
「・・・散葉?」
「ごめんなさい」
「・・・・・・其処、って・・・・・・散葉何コレ?」
「イザ兄ーシンデレラって呼ばないと!」
「五月蝿い」
「何ってドレスだけど」
「これの何処がドレス?否ちゃんとしたドレスを出されても着ないけど。
どういう事か説明して」
「素人の私がドレスなんて作れる筈がないだろ。
それに日頃の行いが悪い人のドレスを一から作る気なんてさらさら無いよ」
「こっちも着る気は無いよ」

ばちばち、と火花が散る継母とシンデレラ。
・・・さっきは健気に謙虚に、と言ったけどどうも訂正した方が良さそうだ。
シンデレラは継母に対しては強気です。流石。

「着る気ない人にどうしてドレスなんて作らないといけないのさ」
「話の都合上仕方無いんだよ、この馬鹿妹」
「そうだ舞流、九瑠璃・・・じゃなくてお義姉様方、お茶はいかが?」
「え!良いの!?」
「姉・・・作・・・茶・・・好」
「九瑠璃、此処では私が義妹だからね」
「是」

自分をそっちのけで会話を進めるシンデレラ達にぶつり、と堪忍袋の尾が切れたらしい継母。
心なしか青筋が立っているのは・・・気の所為じゃなかったようです。

というのも継母がこれ程までに躍起になっているのはちゃんと理由がありました。
今夜はお城の舞踏会。
流れに流れた噂ではその舞踏会で王子のお嫁さん探しも兼ねているとの事。
つまり自分の娘を玉の輿にのせ、左団扇で暮らしたいという魂胆です。

「・・・兎に角こんなくだらない劇をとっとと終わらせる為にも、散葉!
さっさとドレスを仕上げておく事!
でないと散葉の情報を流すからね!」
「誰に!?そして何の情報!?」

よく分からない脅迫を受けたシンデレラは絶叫しましたがこの家では継母のいう事は絶対です。
しかしドレスを作った経験は皆無な彼女は途方に暮れました。

「イザ兄のドレスを着る所は何としてでも見たいし一眼レフを抑えてでも見たいけどもう時間が無いし・・・くっ何で舞踏会が今日なんだせめて明日・・・否三週間は先伸ばしにしてよ気が利かないな全く!」

怒りの矛先を王族に向けたシンデレラ。
それでこそ俺の知るシンデレラだ。

「ていうか何で皆舞踏会なんて行きたいだなんて思うんだろ。
何が楽しいのか全く分からない私ってやっぱりヘンなのかな・・・。
まぁ舞流達に万が一誘われても私は留守番しておこう・・・あ、タッパーでも持たせてご馳走を詰めて貰おうかな。
そしたら食費が浮くし・・・」

何と此処でシンデレラは年頃の女子にあるまじき発言。
しかし突っ込んでくれる存在は残念ながら皆無です。
舞踏会においての優先順位がまさかの食事とは、やはりシンデレラは一味も二味も違う模様です。

―――と此処で、彼女ではない別の者の声が響きました。


「困っているようだな折原・・・ではなくシンデレラ」
「・・・どちら様?」
「心配はいらないのだよ、話は全て聞いた」
「・・・いやいやどうやって話を聞いたのさ、もしかしなくても犯罪者なの?」
「オレは魔法使いだ」
「無視?・・・登場の仕方は確かにそれっぽいけど右手に持っているゲージに入った鼠は一体・・・」
「これはオレのラッキーアイテムなのだよ」
「どっちが!?ゲージ!?それとも鼠!?」

全力で突っ込むシンデレラの疑問は尤もです。
しかしこの魔法使いは少々・・・否かなりズレていたので彼女の渾身のツッコミはスルーされてしまいました。

「・・・その、心優しきシンデレラ。
今夜はお前のどんな願いも叶えてやるのだよ。
か、勘違いするなよお前の為ではない、オレの為なのだからな!」
「(ツンデレ・・・)う、うん分かった。
えーとお願いかぁ・・・そうだね舞踏会会場を無かった事に、」
「・・・もっと平和的な内容は無いのか?」
「ドレスなんて重いし動きにくいしヒールのある靴なんて以ての外だし」
「・・・・・・話が進まん!
お前の願いは舞踏会に行く事だな!
よしその願いを叶えるのだよ!」
「え゛!?」

勝手に内容を書き換えられ、思わず耳を疑ったシンデレラ。
魔法使いに慌てて訂正しようと口を開きますがそれよりも早く空気を震わせたのは継母達の声でした。


「シンデレラー!」
「イザ・・・じゃなくてお義母様!?」
「さぁドレスは出来たかどうか見に来たよシンデレラ・・・へえ、よくあの短時間で出来たね流石俺の妹」
「は?」

シンデレラは継母が何を言ってるのかよく分からなかったのでとりあえず継母の視線を辿ると其処には光り輝くドレスが複数。
・・・継母は着るのでしょうか。
個人的に凄く気になるんだけど。

「本当に余計なお世話だよナレーター」
「・・・これが君の力なの魔法使いさん・・・?」
「ああ。因みにオレの姿はアイツ等には見えん。
このドレスはオレからのプレゼントなのだよ」
「有難う。ついでに一眼レフもくれると嬉しいな」
「・・・その願いを聞き入れた時点でオレの死亡フラグが確立するから却下だ」
「・・・」

「すっごーいさっすが散葉姉・・・じゃなくてシンデレラ!」
「姉・・・凄」
「うん二人共いい加減役名で呼ぼうね」

そういうシンデレラも人の事は言えないよ。
さてそんなこんなで継母と継姉は舞踏会に行ってしまいました。
・・・行くまでに継母が相当葛藤していた事は内緒です。
更に言えば継姉(舞流)が武力行使する一歩前まで、だけど。



  ♂♀



さて家に残ったのは勿論シンデレラと魔法使い。
魔法使いは再びシンデレラと向き合いました。

「これで継母達の問題は無くなった。さて本題に入るぞ」
「本題?」
「お前の願いを聞く事なのだよ、シンデレラ」
「・・・あ、お義姉様達にタッパーを渡すのを忘れてた!
じゃあ魔法使いさん、これ(タッパー)を三人に、」
「タッパーから離れるのだよ折原!」
「タッパーに笑う者はタッパーに泣くんだよ緑間君!」
「・・・ちゃっちゃとカボチャの馬車に乗って、ちゃっちゃと舞踏会に行くのだよ!
アバダ・ケダブラ!」
「緑間君それ死の呪文だよね!?」

絶叫するシンデレラ。
しかしそんな彼女のツッコミも何のその、魔法使いは鼠に向かって緑色の閃光が特徴の魔法を放ちました。
閃光が止んだ後、シンデレラが再度視線を向けるとゲージの中に鼠はおらず、代わりに紫色と金髪の青年がいました。


「・・・よぉ散葉・・・じゃなくてシンデレラ」
「ミドチーン、いきなり魔法使わないでよー吃驚するじゃん」
「いきなりじゃない魔法などあるか紫ば・・・ではなく紫鼠。
シンデレラ、紫原と平和島さんに馬車をひいて貰って舞踏会に行くのだよ」
「流石にそれは図々しいから!
ていうか何様のつもりだって言われても可笑しくないよ!?」
「オレは高尾に似たような事をやって貰っているが」
「止めてあげようよ!?」
「ねー何でオレがそんな事をしないといけないのさーミドチン」
「ほら!
静雄さんだって嫌ですよね?寧ろ嫌だって言って!」
「話の都合上仕方無ェし・・・つかノミ蟲のドレス姿を拝みに行きてェから早く行くぞ散葉」
「っ出来たら一眼レフで撮影をお願いします静雄さん!!」


話の展開において全く関係のないところで結託した兄貴・・・ではなくて金色の鼠とシンデレラ。
残るは唯一行く気が皆無な紫色の鼠でしたが此方は魔法使いの懐柔により何とか舞踏会に行く事が出来たのでした。

因みにその時の会話↓

「紫原、行かないといつまで経っても物語が終わらないのだよ」
「でもさー・・・」
「仕方が無い・・・ではこれをやるから行ってくるのだよ」
「っまいう棒の新作・・・!」
「無事任務を終えられたら追加報酬を、」
「行ってくる!!」
「・・・」

こんな会話があったとか無かったとか。

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続きます!

20130818