過去企画 | ナノ

半ば魔法使いに仕切られる形でシンデレラも舞踏会に行ける事になりました。
さて、そんな舞踏会は盛り上がり真っ只中。
ただ一人王子だけが浮かない顔をしておりました。

「ねえきーちゃん・・・じゃなくて王子、折角王子の為に開いた舞踏会なのにそんな浮かない顔をしているの?」
「そうだぞ涼太、この中から一人選んでその無駄に良い顔で落としてこい」
「赤司っち無駄って何スか!?」
「僕は王だ、その名を呼ぶのはアウトだよ涼太」
「そういう赤司っ・・・王様はどうなんスか!?」
「・・・僕の言う事は?」
『ぜったーい・・・』

王子だけでなく王妃も一緒に賛同した事に満足した王様。
話は脱線しましたが王様はそんなやり取りを無かったが如く、華麗に軌道修正しました。

「兎に角涼太、お前にも好み位はあるだろう?
どんなのでも良い言ってみろ」
「・・・黒髪が映える白い肌に、名前が"散葉"な女の子が良い・・・」
((滅茶苦茶出来レース!!))


二人はてっきり『ソクバクしない女の子』だと思っていたので王子のこの返答に愕然してしまいました。
・・・後王子、何度も皆に言っているけど名前は"シンデレラ"だよ。
本名は出来るだけ控えてほしいな。

「スマッセン!」

うん気を付けてね。

「ほら涼太、どうでも良いけど早く相手を見付けて僕達の前に連れてきて」
「・・・」
「返事は?」
「・・・はいっス」
「頑張ってきーちゃん!」



  ♂♀



所変わって此方、シンデレラサイド。

「うう・・・頭と肩と腰が痛い・・・ドレスの所為で動きにくい・・・足がふらつく・・・」

コルセットなんて嫌いだ、とぼやくシンデレラの声は舞踏会会場に響く音楽によってかき消されます。
まだ到着して間もないのにも関わらず既に憔悴しきっているのはきっと気の所為でしょう。

「とりあえずタッパーに食べ物を詰めようかな。
私なんて王子様のお眼鏡に適う訳無いし、ダンスなんてしないで魔法使いさんが言ってた十二時までに何とか食べ物を詰めまくったら後はトンズラすれば良いし・・・あ、後お義姉様達には会わないようにしないと。
絶対にややこしい事になるし・・・」

因みに彼女と一緒に来た(というより連れてきた)鼠から青年に変身した紫色の鼠と金色の鼠はそれぞれ豪華なお菓子とシンデレラの継母に会いに単独行動をしていたのですが深く突っ込むとまた脱線してしまうので割愛しておきます。


「・・・ていうか王子の相手を探す為の舞踏会だよね?
何で男性も混じってるんだろ・・・?」

女装するのなんてぶっちゃけイザ兄だけで一杯なんだけど・・・あれもしかして王子様ってソッチ系?


シンデレラがとんでもない可能性を考えています。
あらぬ誤解を招く前に早く王子、シンデレラの元に行ってきなさい。

「何その無理矢理感!」

行くったら行くんです。ほら早く、話がこじれる前に。

「オレが招待状を配った訳じゃないのにっスか!?」
「良いから行って下さい黄瀬君・・・いえ王子(笑)」
「ほら早く行けよ黄瀬ェ」
「ちょ黒子っちに青峰っち、二人共オレの従者っスよね!?
何スかその他人事みたいな言い方ー!」
『早く行って下さい王子(笑)』

どんっ、と背中を押された所為でたたらを踏む王子。
従者二人の暴挙に思わず涙目で振り返るも既に二人の姿は雑踏の中に紛れ込んでいて姿を見ることは叶いませんでした。
が、代わりに彼の前に現れたのは言わずもがな、シンデレラです。

「・・・あの、大丈夫ですか?涼・・・じゃなくて」
「・・・散葉?」
「え、あ、うん。えっと・・・」

此処では彼女は彼の事を王子とは知りません。
なのでどう呼べば良いのか考えあぐねている間に王子の表情は輝きを増しました。

「っっ散葉可愛いっスー!!
否元から可愛いしオレの自慢の彼女だけど!誰にも見せたくない位可愛い!!
普段化粧なんてあまりしないからその分惚れ直したっていうか!緑間っちナイス!
ていうか攫って良いスか攫って良いっスよね勿論答えは聞いてない!」
「お、落ち着いて涼太君んんんん!!」

閃光の如く抱き着き、ご乱心した王子にまたもや全身全霊で突っ込むシンデレラ。
彼女のツッコミスキルが向上しているような気がするのは俺だけじゃ無いと思う。

・・・余談だけど王子は敢えて身分を隠して舞踏会に参加しています。
でないと王子、きっと花嫁を探すどころじゃなくなるからね。
閑話休題。話を戻そう。


「えーと・・・とりあえず貴方の名前は何ですか?」
「オレは涼太っス!
・・・どうかオレと一曲、踊って貰えないっスか?」
「否・・・折角の申し入れは有難いんだけど、私ダンスは苦手で・・・」

シンデレラの脳裏には継母の馬鹿にしたような笑いが蘇りました。
ダンス位は、と継母に教えられていましたが彼女のやる気にも関わっていたのでしょうがどうも苦手意識が拭われる事はありませんでした。
しかし、王子にとっては折角のチャンス。
それも意中の彼女と何としても踊りたかったので何とか彼女を説得する事に成功したのでした。



  ♂♀



「散葉ー顔を上げないとダメっスよ?」
「むむむ無理!
だってただでさえ慣れないヒールを履いてダンスしているのに、上なんて見たら涼太君の足を踏んじゃ・・・!」

至近距離も相俟ってシンデレラは心臓が爆発寸前でした。
しかし素直にそれを言うのは言いたくなかったので代わりに放ったのは先程の言葉。
シンデレラは赤い顔を隠す為に俯いてはいましたが王子は黒髪の間から覗く耳が赤く染まっていた事に勿論気付いていました。

「それ位大丈夫っスよ!
ほら散葉、顔を上げてオレだけを見て?」
「・・・っ」

ビクリ、と華奢な両肩を震わせたシンデレラに妖艶に笑う王子。
ただでさえ近い距離なのに王子が顔を近付けるのでその距離は更に小さくなります。
二人の唇が重なろうとした瞬間―――。

ゴーン・・・ゴーン・・・

"その時"がやって来ました。
これに慌てたのは勿論我らがシンデレラ。
性差なんて何のその、シンデレラは渾身の力で王子と距離をとると文字通り脱兎の如く走りました。


「(はっ)ご、ゴメンッ・・・!」
「え、って散葉、待っ」

王子は咄嗟の判断でシンデレラを追いかけました。
伊達にエースと呼ばれている訳ではありません、持ち前の運動神経をフル活用しシンデレラを捕まえようとするその姿はまさに物語を無視していると言っても過言ではないでしょう。

「五月蝿いっスよナレーターさん!!」

・・・散葉、このままだと物語に支障が出るからプランAを展開して。

「ちょ、そっち(ナレーターが指示する事)の方が物語が崩壊するっスよ!?」
「分かった!」
「え゛!?」

一瞬、王子の体が強張りましたがシンデレラはそんな事は気にしませんでした。
それよりも重要な事があるのですから、彼の様子なんて知った事ではありません。
否本当に。

「ゴメン涼太君、しっかり受け止めてね!
否別に受け止めなくても良いけど!」
「どっちっスか!?って、散葉何を振りかぶって・・・ぎゃー!!」

勢い良くシンデレラが投げたものは何とガラスの靴でした。
王子は(物語の進行上)大事な物だったので何とか傷一つ無く受け止めました。
・・・手掛かり一つなく探すというのもまた面白そうだったのに、・・・残念。

「ホントにナレーターさん、オレに何か恨みでもあるんスか!?」

うん。

「まさかの肯定!?」



  ♂♀



「黒子っちー青峰っちー!」
「・・・どうかしたんですか?」
「折原に拒絶でもされたかザマァ」
「青峰っち酷い!じゃなくて、これ!
このガラスの靴の持ち主を探したいから協力して欲しいんスよ!」
「・・・どういう過程を経たらそうなるんですか?」
「だりー」

胡乱気な表情を浮かべる従者と面倒臭いという表情を前面に押し出している従者に王子は必死に説得しました。
すると、其処にやって来たのは王子の両親でした。

「話は聞いたよ涼太」
「きーちゃんに漸く好きな人が出来たんだもの!私も応援するからね!」
「桃っち、赤司っち!」
「げ」
「赤司君、桃井さん」
「皆此処では僕達は王様と王妃だ。間違えたらいくらお前達でも・・・」
『すみませんでした』

王様の謎の圧力で今にも土下座しそうな王子と従者達。
・・・というより王様、凶器を納めて下さい。
幾ら王様でも犯罪だから。

「(無視)それはそうと涼太、これがお前の意中の人が住んでいる住所と地図だ。
それを持って早く行け」
「・・・王様、仕事が早すぎます」
「これ、もしかしなくてもさつきの情報か?」
「勿論よ!」
「・・・あの折原さん相手によく辿り着いたな・・・」
「全てに勝つ僕は全て正しい(キパッ)」
『・・・・・・』

自信に満ち溢れた王様を見て皆は改めて思いました。
絶対に彼だけは敵に回すまい、と。

そして勿論彼女も。

「きーちゃん、絶対にその娘(こ)を花嫁にしてきてね!」
「桃っち・・・、その心は?」
「散葉ちゃんの持つ情報源も合わせれば、きっとこの国に敵はいなくなるから!」
『・・・・・・』

・・・近い将来近隣国はこの女性二人に乗っ取られそうだな、と王子達が思ったのは決して間違いではないでしょう(俺もそう思うし)



それから王子は両親の協力のもと、地図に書いてある場所に向かいました。
そして遂に王子と面白半分で着いてきた従者達はシンデレラの住む家に辿り着くのでした。


「すみません、この靴の持ち主を探しているんですが・・・貴女のですか?」

「・・・(クル姉どうしよう、こんなに早く探し当てるなんて予想外だよ!!言うべき!?言うべきなのかな!?)」
「静・・・黙」
「そ、・・・そうだね!私達の大事な散葉姉は渡さないよ!!」

「・・・なあテツ、アイツ等筒抜けだって事言った方が良いのか・・・?」
「・・・いえ言わないであげましょう。可哀想ですし」
「ちょ、二人共!
そんな事はどうでも良いから早く散葉を出して貰うように頼んで下さいっス!」

シンデレラが此処にいる事を確信している王子達に対し、継姉達は必死にシンデレラという存在を隠そうと躍起になっていました。
その継姉の心意気は格闘技を駆使する勢いです。

・・・と其処へ誰も敢えて割って入りたいと思わない空間に一人踏み入れたのです。

「お義姉様方、お客様でもいらっしゃったので・・・って、」
「!」
「あ」
「散葉ー!!」
「わぁああ!?」
「あああーー!!」
「・・・」

ひょっこりと現れたのは、やはりというかシンデレラ。
目敏く見付けた王子は一秒も惜しいとでも言うかのようにシンデレラに抱き着きました。
・・・何故でしょう、王子は確かに人間なのですが何処からどう見ても大型犬にしか見えません。

「・・・もう少し時間がかかると思いましたが、そうでもありませんでしたね」
「だな。
おーい黄瀬、その辺にしないと折原が潰れるぞ」
「嫌っスよもう二度と離したくない・・・!」
「ちょっと散葉姉・・・じゃなくてシンデレラに何すんのー!」
「・・・離・・・」
「ねーイザ兄いつまでも奥に引っ込んでないで手伝ってよー!!」

継姉が継母に助けを求めてから数秒後。
何を血迷ったのか、継母はファー付きの黒いコートを纏いながら登場したのです。

「俺にとってはドレスを着るという選択肢を選ぶ方が血迷っていると思うんだけど」
「・・・折原さんそれは駄目です。世界観は守って下さい」
「それを言ったらあの魔法使い君だって違う魔法世界の呪文を唱えたじゃない」
「それはそれ、これはこれです」

従者の一人と継母が静かなバトルを繰り広げていますがその間もシンデレラは王子の力強い抱擁を受けています。
誰か助けてあげて。

「イザ兄ー!」
「兄」
「何九瑠璃、舞流?あー散葉なら大丈夫だよ。
寧ろ持って帰ってくれて構わないから。
ああでも、たまには返してね。俺の大事な助手だから」
「良いんスか!?」
「イザ兄、此処でまさかの裏切り!?」
「どうせ今日断ってもこっちがOKを出さない限り、毎日通われるのは目に見えてるからねぇ」

まさかの継母のGOサインに継姉達とシンデレラは茫然としました。
勿論王子達もです。
しかしそんな彼等も何のその、継母は動じません。

それからきっちり十秒後、王子は問答無用でシンデレラを城に連れて行き、あれよあれよと両親に挨拶に向かうのでした。
当然、嫁ぐ準備どころか家族にきちんと挨拶さえ出来なかったシンデレラが烈火の如く怒り、王子に一撃をかましたのは余談ですが、まあ一応ハッピーエンドという事にしておきましょう。

Next≫

  灰かぶり劇場

お待たせしました、一周年企画第三弾は雷香様に捧げます!
因みに配役は以下の通り。
シンデレラ:主人公 王子:黄瀬 継母:臨也 義姉:舞流・九瑠璃
王様:赤司 王妃:桃井 従者:黒子・青峰 魔法使い:緑間 
鼠:紫原・静雄 ナレーション:幽

滅茶苦茶楽しかったです、が・・・こ、こんな感じで良かったのでしょうか・・・?
演劇風という言葉を唱えながら書いてましたが(汗
これからも宜しくお願いします!

20130818