春歌は目の前に倒れている奇妙な存在に気付いてから数分。
彼女はこれ以上無い位、考えた。
何せ今まで拾い物をした事はあれど拾い者をした事は無かった為である。
「ど、どうしましょう・・・・・・」
春歌の視線の先には体型と服の大きさが明らかに合っておらず、服に埋もれた状態で気を失った銀髪の少女。
銀髪、というと春歌の記憶の中で該当するのは唯一人だけで、他に銀髪の人間など見た事が無い。
その唯一人である草薙灰音は自分と一つ歳が離れており、真斗やトキヤと同い年だ。
そう、現在十六歳の自分とあまり変わらない筈なのだが。
「・・・・・・・・・・・・」
気絶した少女の顔を覗き込むと、春歌の中で一つの確信が生まれた。
体型と服が合っていない。
銀髪。
灰音と瓜二つの容姿。
「・・・・・・灰音さん、でしょうか・・・?」
半ば茫然と出た言葉は空に虚しく消えていった。
♪
「・・・・・・」
真斗が訝しげに携帯を見つめる事数秒。
海色の双眸に映る感情はまるで何かを待っているかのよう。
それに気付いたのは那月だった。
「真斗くん?
どうかしましたか、ずっと携帯を見てますけど・・・」
「四ノ宮・・・否、何でもない」
「嘘は良くないですよ、真斗くん。
何で、って目に書いてあります」
「マサに那月、どうかしたの?」
那月が侮れない、と思うのはこういう時だ。
普段は天然だが人の本質を見抜く目は結構鋭い。
そして話を聞きつけたのか、音也もやってきた。
「一十木か・・・否、大した事ではない。
今日灰音が一時に来ると連絡が合ってな、念の為先程から電話をしているのだが」
「繋がんないの?」
「ああ」
「それは心配ですねぇ。
ですが灰音ちゃんの事ですし、わざと無視しているって可能性も無くはありませんが・・・」
確かに面倒臭がりの灰音ならそれは充分に有り得るのだが、何故だろうか真斗はこの時嫌な予感を確かに感じ取った。
次いでこの後すぐにトキヤ、レン、翔がやって来た為この話は一時中断となった。
・・・それが十五分前の出来事である。
♪
バタバタバタ・・・!
一つの慌ただしい足音を六人の耳が捕らえると同時に開け放たれたレッスン室の扉に六人の視線が集中する。
「ひ、聖川さ・・・!」
荒い呼吸で真斗を呼んだのは、彼等の作曲家である春歌。
その彼女の両腕で支えられた存在に全員が首を傾げる。
・・・はて、一体何を抱えているのだろうか。
「七海君、君は一体何をそんなに急いで」
「一ノ瀬、さん、・・・聖川さ、は・・・」
「とりあえず落ち着いてレディ」
「ほら水だ、まずこれを飲んで・・・?
・・・・・・・・・・・・あ、れ?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
春歌が荒い息を繰り返す中、六人は全員沈黙した。
何故なら彼等は気付いたからだ。
彼女が抱える存在、服で埋もれてしまっているが其処には確かに自分達が知る彼女によく似た顔に。
「・・・・・・・・・灰音?」
ポツリ、とこの中で一番彼女との付き合いが長い真斗の声が異様に大きく響いたのは、間違いないだろう。
♪
「本当に草薙なの?」
「私も半信半疑だったので、聖川様に確認して貰おうと思って・・・」
「確かに草薙と聖川は幼馴染だし、的確だな!」
「ですが何故気を失っているのでしょう?」
「しかも子供になってますし、一体どんな若返りの妙薬を飲んだんでしょうね」
「もしかするとレディ本人じゃなくて、レディの隠し子だったらして」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
上から音也、春歌、翔、那月、トキヤ、レン。
口々に言い合っていた彼等の口は、最後の言葉に一斉に閉じてしまった。
が。
「有り得んな」
レンの言葉を真斗は鼻で笑うかの如く一蹴する。
「・・・マサ自信満々だね」
「当然だ、俺と灰音は十ヶ月以上離れ離れになった事は無い」
「え?何で十ヶ月?」
「・・・音也、貴方子供は十月十日で生まれる事を知らないんですか?」
「あ、そういう意味か!」
「それに、」
「それに、何ですか真斗くん?」
「灰音はそういう知識が一切無い」
『・・・・・・・・・・・・』
二度目の沈黙。
真斗の発言にどう返せば良いのか分からなかった為、音也達は揃って口を閉ざしたのだった。
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続きます、すいません!(汗
20121013