過去企画 | ナノ

名前も分からないある海の底深くに、人魚達が住んでいました。
そして、この海の更に深いところには人魚の王様とお姫様たちが住む美しいお城が建っていました。

人魚のお姫様は全部で六人いましたが、中でも一番末っ子のお姫様はどのお姫様達よりも美しく、その肌はバラの花びらのように透き通るほどきめが細かいと有名でした(あくまでも噂)
彼女はそんな容姿が他の人魚よりも優れていると自覚していました。
なので事ある毎にナルシスト甚だしい台詞を言ってくる事もありましたが周囲の人魚は完全無視を決め込んでいます。
それでもめげない人魚姫の鋼の精神に俺は素直に感心するけど其処は割愛。


「前回に引き続き悪意しか感じねえ!!」


人魚姫が何か言っているけど無視しよう。
さて、人魚姫達には十五歳になると海の上にある人間の世界を眺め見ることが許されていました。
先日ようやく十五歳になった人魚姫は好奇心が旺盛です。
当然人間の世界に強い興味を持っていたのですぐに海の上に上がろうと行動を起こしました。



  ♂♀



「これが皆が言ってた空ってヤツっスか!皆が言うだけあって綺麗っスねー!
・・・あれ?」

空を見上げていた人魚姫でしたが、ふと視点を変えると其処には大きく豪華な一隻の船。
どうやらその船の上で煌びやかなパーティーを行っている様子。
人間の世界の王子の誕生パーティーが盛大に開いているようでした。

「・・・!」

遠目ではありましたが人魚姫の琥珀色の双眸にはしっかりと王子の姿が映されていました。
夜空を切り裂いたかのような黒髪、夕焼けを切り取ったような柘榴色の双眸。

どれくらいの時間が経ったのでしょうか、人魚姫はこの若く美しい王子から目を離す事が出来ません。
夜がふけても人魚姫はずっと其処で王子を見つめていました。


「・・・」
「・・・?あれは、」

王子がふと海上に視線を向けると、人魚姫と偶然目が合ってしまいました。
人間に見つかってはいけないという決まりがあるので当然人魚姫は一瞬動揺しました。
が、次の瞬間には突然稲妻が光り、嵐がやってきたのです。
その所為で大きく船が傾き、王子は咄嗟の事もあり船から落ちてしまいました。


「っきゃああああああああ!!!」


「ッッ散葉!!」


・・・人魚姫、この時点ではまだ王子の名前を知らない設定だから。
この前も散々言ったよね。

「(無視)散葉ーーー!!」

・・・・・・。

海に落ちてしまった王子を助けるべく、人魚姫は急いで海に潜りました。
嵐による荒波で王子は思うように動けず、人魚姫が王子の身体を掴んだ時には気絶していました。


「散葉!散葉!大丈夫っスか!?
・・・息してねーし此処はやっぱり人工呼吸しか・・・!!」
「!?」

一晩中泳いで砂浜まで人魚姫によって運ばれた王子は返事をしません。

「幽さん!?」

返事が無いと言ったら無いんだよ。

「・・・はい」

・・・というより黄瀬君、暴走するのも止めてくれないかな。
アドリブに合わせるこっちの事も考えてよ。


「(更に無視)折角助けたのに死なせてしまう訳にはいかないっスから・・・ゴメンね」
「え、」

台本と違うと何かを言おうとした王子の口を自分のそれを重ね合わせた人魚姫。
・・・因みに人魚姫は王子が抵抗出来ないように押さえつけていたりする。

「は、・・・」
「んっ、ぁ、はっ」

王子の夕焼け色の双眸が人魚姫を映す、ギリギリの所で人魚姫は姿を見られる前に海へと身を隠そうとしました。

「んんっ」
「・・・」

・・・・・・ねえ人魚姫。自重しようか。
台本通りに動いてくれる?
後それから、

「っ、いい加減にしなさいこの変態ぃぃいいい!!」
「ってえええええええ!!!」

スパーーンっ


・・・やはりというか姿を消す前に人魚姫は王子から渾身の一撃を食らったのでした。
よくやったね散葉もっとやって良いよ。



  ♂♀



そんなこんなで人魚姫は若く美しい王子に一目惚れをしてしまいました。
しかし人魚は人間に姿を見られてはいけません。
にも関わらず、人魚姫はもう姿を見られ、更に平手打ちを受けていましたが人魚姫は「問題無いっスだって愛の手形なんスから!!」の一言で終了させました。
・・・それで良いの?

「という事で青峰っち!オレを人間にして欲しいっス!」
「面倒くせえ」
「其処を何とか!散葉と赤い糸で繋がってるのはオレなんスからオレ以外にその隣りを譲るワケにはいかないんスよ障害になる奴は全員××す(自主規制)」
「オイ発言が赤司みたいになってんぞ。後お前仮にもモデルだろーが。
誰も見せられねー顔してる事気付いてるか?」
「だから青峰っち早く!!オレに魔法を!!」
「無視か」

人魚姫は海の魔女魔法使い、青峰にお願いをします。
会話が成立しているようで全くしていません。
平行線のまま噛み合わないかと思われたまさにその時、もう一人の魔女魔法使いが現れました。

「人間になりたいんだろ?
だったら魔法でも薬でもかけてやったら良いじゃねーか」
「・・・平和島さん」
「ただしお前の声を代償にして得られる魔法だ。
それでも良いなら人間にしてやるよ」

金髪の魔法使いは何処か投げやりに人魚姫に言いました。
一方で青髪の魔法使いは魔法使いが持っていそうな、いかにもと言うような杖をくるくると弄んでいます。

「それでも良いっス!だから早くお願いします!」
「あー分かった分かった。
どうなろうとオレは知んねーからな。
・・・えーと確か呪文はー・・・ピーリカピリララポポ、」
「それ違う作品の呪文!!」

魔法使いが杖をひと振りすると人魚姫の体に変化が起こりました。
下を見ると見慣れた魚のヒレは無く代わりに人間の脚があったのです。

『うわああああ有難うっス青峰っち!!』(パクパク)
「礼なら堀北マイちゃんの新しい写真集を寄越せ」
『(無視)この恩は忘れないっス!三分間だけ!!』(パクパク)
「おい待てコラ」

声が出ず口パクなのにも関わらず会話を成立させる青い魔法使いと人魚姫は流石です。
これが・・・『キセキの世代』・・・!

こうして無事?人魚姫は声をという代償を支払い、王子の元へと急ごうとしましたが其処で声をかけたのが金髪の魔法使い。

「待て」
『?』
「散葉に会うんだろ?
だったらこれを渡しとく」
『・・・何スかこれ。しかも何でナイフ?』(パクパク)
「これ使ってアイツの兄貴・・・否王様を刺してこい。
出来るだけ苦しんで貰いたいからな、肺で良いぞ」
『殺人をお使いみたいに頼まないで!!』(パクパク)


此処までも犬猿の仲を発揮させる兄さんは揺るぎない。流石。
其処に痺れる憧れるー(棒読み)



  ♂♀



人間の姿になった人魚姫。
しかしどうやって王子に近付こうか。
其処まで考えていなかった人魚姫は正直言って馬鹿以外の何者でも無、・・・ごほん。
途方にくれていました。
すると其処に一人の女性が現れました。


「あれー黄瀬ちん?」
「む、むむ紫原っち!?何スかその格好!?」
「黄瀬ちん声出して良いの?」
「あ゛」

砂浜に座り込んでいた人魚姫でしたが、声の持ち主を見ようと顔を上げました。
・・・其処には遥か上から見下ろす進撃の巨人紫色の姫が。

『・・・で何スかその格好・・・』(パクパク)
「何でってオレ隣国の姫だしー」
『はあ!?』

「紫原君・・・!此処にいましたか」
「あー黒ちん」
「黒子っち!」
「だから黄瀬ちん声出てるってば」
「黄瀬君、物語にちゃんと従って下さい」
「・・・スマセン」

隣国の姫に続き、今度はその従者もやってきました。
そもそも何故隣国の姫が此処にいるのか。
人魚姫はもう訳が分からなくなりました。
しかし人魚姫にはそれを聞く術はありません。

此処に来て声が出ないというもどかしさを人魚姫は実感したのです。

「黒ちん、こんなところに黄瀬ちんを置いておくのも物語の進行上いけないから王子様にお願いして何とかして貰おうと思うんだけど良いかなー?」
「はい、そうして貰いましょう。
王子様は優しいですからね、きっと何とかしてくれますよ」
『紫原っち黒子っち・・・!』

じぃぃぃんっ

願ってもいない二人の台詞に人魚姫は感涙しました。
そして当初の目的通り王子とお近付きになれたのでした。



  ♂♀



そして人魚姫が城に招かれて数日後。
人魚姫は突然城の王様と名乗る人と遭遇していました。

「声が出ない女性というのは君だよね。
全く紫原君だけでなく黒子君まで情に絆されるなんて。
あれ程動物は拾ってくるなって言ったのに」
『・・・・・・・・・』

人魚姫は誰に言われるまでもなく理解しました。

あ、この人が平和島さんが言ってた相性最悪の人だ。
ていうか王様ってこの人なんスね、後衣装似合いすぎっス。
赤司っちも絶対に似合うけどこの人も負けてない。前回が嘘のようだ。

最早自分を動物扱いした事はスルーしました。
でないと身が保ちませんから。色んな意味で。

「・・・何やってんのさイザ兄」

・・・と此処で王子がふらりとやって来ました。
夕焼け色の双眸は父の王様に向けつつ、さり気なく人魚姫を後ろに誘導しています。


「ねえ散葉、早くあの化物を何とかして海の藻屑にしてやりたいんだけどその作戦に彼女を使っても良い?」
「良いわけ無いだろ」
『・・・・・・』

王様と王子が不穏な会話をしていますが本当は声を出せますが人魚姫は沈黙を貫いていました。
要らぬ火の粉は出来るだけ浴びたくないもの。
火傷するのがオチだしこれも一種の防衛本能だよね。


「とにかく彼女は私のお客なんだから口出し無用だよイザ兄・・・じゃなかった父上」
「早く慣れなよ」
「(あやっぱり父上呼びは無理)イザ兄五月蝿い。
またドレス着せられて静雄さんに笑われてしまえ。
・・・見苦しいところを見せてごめんね。
向こうの部屋にお茶の準備をしているんだ、良かったら一緒に行かない?」
『!!』(ぶんぶん)

王様との会話を強制終了させた王子の台詞に首を勢いよく縦に振る人魚姫の心は王子の優しさでいっぱいです。
幸せな日々が続くと思われていましたがその幸せも長くは続きませんでした。


『結婚・・・!?』
「そうなんだ、イザ兄の言いつけでね。
明日結婚式を挙げるから良かったら君も来て欲しい」
『・・・散葉、』

何処か寂しそうな微笑を浮かべる王子の衝撃な告白に人魚姫はショックを隠せません。
しかし王子はそんなシリアスな空気を壊すような発言をしました。

「・・・それ、で・・・その時は是非どれ、ドレスを着てほし、ふっ」
『・・・・・・』

何とか笑いを押し殺している王子に人魚姫は一瞬口角を引き攣らせましたが其処はぐっと我慢します。

「何着か選んだ、し・・・、その中から、一、着選んで、着て貰えたら、なあって・・・っ」
「・・・散葉後で覚えとけよ」
「っあはははははは!!!」
「・・・・・・(ブチッ)」


・・・とりあえず散葉逃げて、超逃げて。



  ♂♀



その日の夜。
人魚姫は海をじっと眺めながら思案していました。
しかし突然誰もいないにも関わらず、聞き覚えのある声を人魚姫の耳が捕らえたのです。

「黄瀬!
聞こえているのならば何か反応するのだよ」
「緑間の言うとおりだ。全く勝手に行動するからこういう事になるんだ。
声を盗られたんだって?
これでは会話も成立しないじゃないか・・・」
『赤司っちに緑間っち!?』
「話は後だ。
とりあえず静雄さん・・・黄金の魔女から受け取ったナイフはまだあるか?」
『黄金の魔女ってあれスか、復唱要求、』
「撃つぞ」
『何を!?』


話を戻して。
黄金の魔女から受け取ったナイフ。
それは恐らく、王様を殺して来いと暗殺の為に渡されたモノだろうと思い至った人魚姫。
彼女がコクリと頷くのを見て、ならばと人魚姫の姉はある一つの提案をしました。

「簡潔に言うよ、今夜中にそのナイフを使って王子を殺すんだ」
『!?』
「そうすればお前は泡になって消えずに済む。
王子には悪いがお前を失うわけには行かないからな」
「っおい赤司、もう少し言い方を、」
「だが事実だ」
『二人共・・・』
「・・・タイムリミットは夜明けまでだ。
それまでに王子を殺せ。良いな黄瀬」

「・・・赤司・・・。
(赤司・・・配役の名前を言っていないのだよ・・・)」

人魚姫の姉の一人、緑色の人魚がそう内心で呟いた事は誰も知りません。
知らない方が幸せな事もあるんですよ、とだけ言っておきましょう。

赤色と緑色の姉が帰った後、人魚姫は一人葛藤します。
王子を殺せば自分は死ななくて済む。
だが自分は王子のいない世界に耐えられるだろうか。


自分が生きながらえても王子がいなければ意味が無いと、人魚姫がそう考え抜いた瞬間。


「・・・こんなところで何しているの?」
『・・・・・・・・・・・・・・・』

ひょっこりと音も無く新たに現れたのは何と王子。
ぶっちゃけ自分から殺されに来たとしか思えないんだけど。


「・・・何で泣いているの?誰かに苛められたの?」
『・・・・・・散葉』
「困ったなあ、泣いている理由がわからないから慰められないよ」
『(凄く抱きしめたいんスけど何この可愛い生き物よく今まで食われなかったスねちょっと困り顔滅茶苦茶可愛い虐 め た い ・・・!)』
「(ゾワッ)!?」

王子の優しい問いかけにも人魚姫には答えられません。
しかし内心ではとても王子には聞かせられない欲望が渦巻いていましたのであまり同情は出来ませんね。自業自得です。
そして一方の王子はそんな人魚姫の欲望を敏感に感じ取ったのか背筋に悪寒が走りました。


「(・・・えっと、)泣いてばかりじゃ分からないし・・・仕方無い。
此処は少し強引に行こう」
『・・・え?(台本にこんなのあったっけ?)』
「ほらちょっとこっちに来て」
『?』


暗 転



『ちょ散葉、それアレっスよね人に向けちゃいけないもの、』

「じゃあ歯を食いしばってね。行くよー・・・」

「っっああああああっっ!!!」
「よしっ成功!!」



こうして王子のおかげで声が出るようになった人魚姫。
しかしこの時の反動なのか暫くベッドから離れられず、隣国の姫に同情されながら看病を受けるハメに。
隣国の姫と王子の結婚もこの後の人魚姫の必死の行動により破棄され、数ヶ月後には王子と人魚姫は末永く幸せに暮らす事になるのは―――この時はまだ誰も知らない。

おまけ≫

  人魚姫劇場

お待たせしました500,000hit企画第一弾は雷香様に捧げます!
いつも素敵なリクエストをして下さり感謝しています!
というより感謝しかありません(キパッ
こんな感じで宜しかったでしょうか?
宜しければ貰ってやって下さい、企画に参加して下さり有難う御座いました!(*^^*)

キャスト
人魚姫:黄瀬 王子:主人公 隣国の姫:紫原 従者:黒子 王様:臨也 
人魚姫の姉:赤司、緑間 魔女:青峰、静雄 ナレーター:幽

20131123