虹色理想郷 | ナノ

!外伝03続編
!半纏side



この精神世界に来るのは二回目だ。

腑罪証明アリバイブロック』でつゆりは色々な所を回るがいずれにしても精神世界においては教室の風景だった。
だけど彼女の精神世界は真っ白らしい。

「・・・つゆり、」

彼女のいない世界はやはりモノクロだった。
彼女の影だった時は確かに色はついていたのに。

つゆりが死んだ時、確かに俺の中の何かも一緒に砕けてしまったらしい。
心は満たされぬまま、満たされる事はなく、依然枯れたまま。


「・・・」


最初はただ傍にいられるだけで良かった。
だけどいつからだろうか。
それだけでは満足出来なくなった。

名前を呼んで欲しい。抱きしめたい。温もりを感じていたい。
欲を挙げたらキリがないけれど。
それでも、一番の願い事は、


「・・・」


こつ、と不意に響く足音。
果ての無い真っ白な世界に静かに佇む少女の姿が空色の瞳に映される。
この角度から表情は見えず、その背中は誰よりも小さく見えた。


「・・・つゆり、」

最後に見たのは決して穏やかなモノとは言い難い表情だった。
当たり前だ、望んで殺された訳ではない。
覚悟していても割り切れるものではない。

例え自殺衝動を持つ自殺志願者だったとしても。


―――半纏はどう声をかけようか、数瞬迷った。
自分は確かに彼女を生き返らせようとした。
だけど彼女もそれを望んでいるとは限らない。
というか絶対に拒否するだろう事は簡単に予測出来る。

だけど、それでも。
自分は自分に誓ったから。
それに頼まれたから。否、頼まれなくても起こそうと決めていたが。
―――だが、いざとなると躊躇してしまうところを踏まえるとどうやら自分もまだまだらしい。


数回頭を振ると半纏は音も無く右手を差し伸べる、その一瞬。



「それは・・・嫌だな・・・」
「・・・」


ピタリ、


半纏は思わず触れるのを止めた。
次いでぐるぐると思考が混乱した。

嫌?
生き返るのが?
何、が嫌だと言っているんだ―――?

彼女―――安心院つゆりが続きを言ったような気がしたが半纏は聞こえなかった。
殆ど衝動的に彼女の肩を掴む。
・・・心なしか手加減出来なかったが敢えて其処は黙殺する。


「―――いつまで其処にいるつもりだこの自殺志願者」
「・・・ぇ、」
「お前がその気になるまで気長に待ってみようと思っていたが、やはり迎えに来て正解だった」
「・・・・・・な、」


その気―――つまり"生き返る気"だ。
半纏の台詞に、というよりは半纏そのものにつゆりは驚いているようだった。
確かにいきなり自分の精神世界に現れたら驚くか。
・・・今まで散々自分がしてきた事だろうに。

じわじわと瞠目したまま微動だにしない彼女に痺れを切らした半纏はよく分からない感情を心の奥底にして口を開いた。

掴んだ腕から伝わる温もりに半纏は懐かしさを感じた。
つゆりと死別してからまだそんなに時間は経っていない筈なのに。

「!」
「帰るぞ」
「・・・っは、んて・・・」



  △▼△



精神世界から現実世界に戻ってきた。
戻ってきた場所は、やはりというかつゆりが死した不知火の里だった。


「はんてん・・・」

半纏が音も無く涙を溜めるつゆりを見てこの世界の何よりも美しいと思った。
他の何にも心を動かされる事はない点から如何に彼女が俺に必要なのかが分かる。


・・・ごめん。悪かった。すまない。
本当なら謝らないといけないのかもしれない。
だけど謝らない。
謝ったら彼女が苦しい思いをするのは目に見えているから。

誰よりも世界に絶望し虚無の目で見る人外。
その人外が望むのは絶対の死だが、俺はそれを許さない。

なんて、なんて、自分勝手な願いだろう。
でも許して欲しい。
どうか、どうか。


「・・・な、で・・・ぼくを、おこし、・・・たの、さ・・・」
「・・・」

其処で漸く、彼女の口から掠れた声が紡がれる。
次いで予想通りの言葉に半纏は笑いそうになった。
嗚呼、やはり。
でも想像するより、ちゃんとこうして聞く方がずっと良い。

「・・・つゆり、」
「・・・ぼくは・・・ぃきか、ぇ、たの・・・か、ぃ・・・?」
「っああ」
「そぅ・・・か・・・・・・ね、はんて・・・、どうか、・・・」

殺してくれ、と言われるのではないかと内心身構えていたがそんなものは無駄だったようだ。
つゆりの頼み事を聞いた瞬間、半纏は殆ど衝動的に体が動いていた。


「・・・つゆり・・・!」
「・・・っ・・・いた、い、な・・・かげんしろよ、・・・ばかやろ・・・」


「どうか、僕を抱きしめてくれ。
僕が確かに生きているという事を実感する為に、どうか」


  彼が願ったのもただ一つだけでした。

半纏さんsideでした!
安心院さんのキャラがぶれているのはきっと間違いではない筈だ。
更にこの後の話も書きたいな。後この二人の邂逅編とか。
ぅあああ書きたい!でもネタが無い!どなたかネタを下さい・・・!

20130905