虹色理想郷 | ナノ

!目高原作20巻第168箱ネタ
!外伝01続編?



とん、と足音が響く。
次いで鈴を転がしたかのように響く一人の少女の声。

「―――あのねえ球磨川君。
底辺の頂点、球磨川君。
自覚が足りないようだから教えてあげるけど―――」
「『?』」

ふわりと抱きしめられた。
その事に気付いたのは体温を感じられた、その一瞬の後だった。

「絶望を知る者にとって君は希望の星なんだぜ。
君の勝利が弱者にどれほど勇気を与えるか、ちゃんと考えたまえ」
「『!!』」
「君が弟のように可愛かった。
『勝ちたい』と『勝てる』はきっと一緒だよ」


球磨川と呼ばれた男はその体温にかその台詞にか―――あるいは両方が原因なのか赤面した。
黒髪の少女はそれに気付いていないのか分からないが、体勢は変わらないままで。


「『・・・』
『弟、みたいって・・・』
『酷いなぁ安心院さん』」

赤面していた球磨川の表情はその台詞を皮切りにゆらりと暗い光を宿したモノに変わる。

「『・・・其処は"弟"じゃなくて"男"としてじゃないの?』」
「・・・ごめん。
残像だから、聞こえない」

つゆりは球磨川の背中から手を離し、くるりと背を向ける。
そして開けっ放しにしていた窓の柵に肘を付けた状態のままで口を開いた。

「『本当にいつだって残酷だよね安心院さんって』」
「聞こえない。
ていうか球磨川君まだ其処にいるのかい?
死んでしまった僕とは違って、君はまだまだやるべき事が山のようにあるだろう?
その『手のひら孵しハンドレット・ガントレット』と『実力勝負アンスキルド』を持って早く起きちゃいなよ」
「『・・・』」

つゆりの表情は背を向けられているから分からない。
球磨川はその事実に寂しさが心に募った。

分かっている。
自分がこれから何を為すべきか。
そうやらないといけない事は沢山ある―――。


・・・だけど。


「『ねえ安心院さん』『一つ、』
『一つだけ聞いても良いかな?』」
「聞こえない、―――だけど君の行動は何となく分かるので答えようかな」

本当に聞こえないのか。
こうして会話が成立しているところを見ていると本当にその言葉は怪しいのだが其処は置いておこう。
重要なのは其処じゃないのだから。


「答えは否。
僕はもう生き返る事は無い。・・・出来ないんだ。
さて、これで満足かい?
分かったら早く行、」
「『・・・・・・・・・』
『ふーん』『そっか』
『ていう事は安心院さんは』『素直に認めちゃうんだ?』」
「・・・は?」
「『全知全能の安心院さん』
『そんな安心院さんがあんなに出来ない事を探していたのに、』
『そんな答えで』『諦めちゃうんだ?』」

背を向けていた彼女だったがこの時漸く振り返った。
それにより露わになった彼女の表情は何処か呆気にとられたモノだった。
一方球磨川はゆるり、と笑みを浮かべたまま話を続ける。

「『僕の知っている安心院さんは、』
『そうじゃないよね?』」
「・・・な、に言ってるんだい?
僕はずっと"出来ない"を探していたんだぜ?」
「『出来ない事を探していたのは知っているさ』
『でも"生き返る事が出来ない"』
『安心院さんはそんなのが望みだったの?』
『それが、ずっと望んでいた内容だったの?』」
「・・・・・・」
「『違うだろ?』
『僕の知っている安心院さんは』
『そんなんじゃない筈だよ』」
「・・・・・・」


「・・・待っているから」
「!」


思いも寄らなかった展開だったのだろう、今度こそつゆりは呆気にとられているようだった。
球磨川は新しく見れた彼女の表情に内心してやったりの感情を覚えていた。
まさか死んでから見れるとは。

だからなのか、思わず括弧付けずに話してしまった。
でも、悪い気はしない。
寧ろ―――。


「『ていうか生き返らなかったら、僕に負けたって事で』
『はい約束!』
『僕に負けたくなかったら早めに生き返った方が良いよ?』」
「は?」
「『そうじゃないと忘れちゃうかもしれないし!』
『だからなるべく早くお願いね安心院さん!』」


次の瞬間には球磨川の姿は消えていた。
つゆりは満足に彼に返す事が出来ず、ただ教室に立ち尽くし彼のいた所を眺め、一言。


「・・・・・・・・・残像だから聞こえない!
あの球磨川君に僕が?負けるだって?
おいおい、何でそういう発想になるんだよ?
あれかな敗北の星を消したからかな・・・」

つゆりは呆れを滲ませながら空、ではなく天井を仰いだ。
・・・視界が揺らぐのは気の所為だ。


「・・・待っているから」


「・・・馬鹿な事を言うなよ球磨川君。
何の為に『弟』と言ったと思っているんだ。
人外を、それも死んでいる存在を好きになったままでいさせるなんて、それこそ縛り付けるなんて事はさせたくなかったからそう言ったのに。
まるで意味がないじゃないか」


死んだ存在をずっと想っているなんて。
僕は常々言っていたじゃないか、「くだらない」って。
「無価値なものに過ぎない」って。
何も分かっていないのか彼は。


「論外にも、問題外にも程があるぜ。
そんな事―――」


「どんな手を使ってでも、必ず生き返らせるから―――」


「・・・そんな馬鹿はあいつだけで充分だ」


・・・彼女は俯かない。
俯いたら更に視界の揺れが酷くなるのが分かっていたから。


「そういえば何千何万、何兆年と生きてきたけどここ最近は退屈はしなくて済んだな・・・」


半纏がいてめだかちゃんがいて球磨川君がいて。
後はあのカラフルな彼等もいて。
・・・うん退屈は確かにしなかった。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


「・・・はぁ。分かったよ球磨川君」


脳裏に過ぎるのは球磨川の言葉と笑顔。
そして、後一人。
再びあの声が反復した。


「どんな手を使ってでも、必ず生き返らせるから―――」


意識が途切れた筈なのに、聴こえた声。
分からない訳が無い、あの声はずっと行動を共にしていた彼のモノ。


「・・・・・・うん。
半纏、正直あまり生き返りたいと思っていなかったけど球磨川君に彼処まで言われちゃったら素直に引き下がる訳にはいかなくなった。
僕は認めないし諦めない、負けない。
だから―――」



もしも、

もしも僕が生き返ったらその時は―――。


つゆりは緩やかに瞼を閉じる。
それにより瞳を覆っていた水の膜が頬をつたい、跡が残ったが彼女は気にしなかった。
涙を拭う事もしなかった。


(どうか、僕を抱きしめてくれ。
僕が確かに生きているという事を実感する為に、どうか)

  世界の片隅で声にならない声で叫ぶのは、

衝動書きに近い作品です。
書きたい台詞を兎に角メモ帳に書きまくって完成させた小説なので可笑しい箇所は大いにありますが見逃して下さいorz

個人的に安心院さんは本当に聞こえていないのかな・・・と思いながら書きました。
また違った台詞を思い付いたら別verで書こうかな。
主人公と球磨川君、両想い設定とか。
今回は球磨川・半纏両方寄り、かと思います。

20130517