虹色理想郷 | ナノ

!外伝03続編
!主人公side



原因は何だっただろう?
否、そもそも始まりはいつで、終わりは何処だった?

それすらも曖昧のまま、彼女の精神はただただ記憶の海の中彷徨うだけ。



  △▼△



「・・・今何て言った?」

半纏は耳を疑った。
どんな事があっても彼が動揺するなど無いが、こと"彼女"が絡むとそれは一変する事を彼と"彼女"を知る者は全員知っている。
故に。

今彼が海色の瞳を限界まで瞠目しているのも、何ら可笑しい事ではない。


「今言った通りだよ反転院さん・・・多分、ていうか確実に安心院さんは生きている」
「・・・言彦が直接つゆりを殺したんだぞ」


獅子目言彦。
その名前は半纏にとって許し難い存在。
愛しくて愛しくて堪らなかった彼女―――安心院つゆりを容赦無く殺した。

完全無欠、全知全能、森羅万象。
そんな彼女が太刀打ち出来なかった存在が獅子目言彦だ。

破壊されたものは治らず、殺されたものは生き返らない。
それは永遠を約束されたスキルを持つ彼女も例外なく、死んだのだ。


「―――・・・」
「だったら俺達の傷はどうなんだよ?
言彦から受けたダメージも回復するようになったんだ、なら安心院さんだって、」


人吉の言葉に半纏は沈黙する。
そして彼がとった行動は―――。



  △▼△



とん、


つゆりは何も無い真っ白な世界の中、何をするでもなくただただ佇んでいた。

「・・・?」

今、確かに―――


「・・・音がしたと思ったんだけど・・・気の所為かな・・・」

この精神世界に音がする訳がない。
何せ、この世界にいるのは自分だけなのだから。

「やれやれ僕はまだ疲れているのかなー、まぁこの状態をもう少しだけ楽しむっていうのもアリか。
現実世界では球磨川君が例のプレゼントを受け取ってめだかちゃんと手を組んで言彦を何とかしている頃か・・・否、それとも案外負けているかもしれない」

どっちにしたって此処にいる間は現実世界の動向が分からない。
何せ何も無いのだから仕方が無いと言えば仕方が無い。

「言彦と戦って負けたからと言って別に僕は軽蔑はしないけどね。
相手が相手だし、その前に僕にとっては全て平等だからそんな風には見ないし・・・」

つゆりの瞳が徐々に昏い光が灯る。

・・・一体自分は何がしたいのだろう。何がしたかったのだろう。
『出来ない事』をずっと探し続けた僕。
目的を達成しようと取り組んだ事もやっぱり苦労せずに出来てしまった僕。
・・・言彦から逃げる時間を稼ぐ為に残った僕。

「球磨川君に言った手前、生き返らないといけなくなったけど・・・」

球磨川君に会って賭けに勝ったとして。
それじゃあその後は?

今はめだかちゃんや皆、あのカラフルな彼等もいる。
だけど、それは永遠じゃない。
いつか別れの時が必ず来る。

・・・それは、


「それは・・・嫌だな・・・」

ぽたり、ぽたり


今まで数え切れない出会いと別れを繰り返してきた。
その度に胸の最奥が軋んで、だけど平等主義を掲げる事で割り切れた。切り捨てられた。
・・・だけど、


「僕は、・・・」

やはりこのままの状態でいた方が良いのでは、とつゆりの中で何かがそう囁いた瞬間。
彼女ではない別の誰かが精神世界を震わせた。


「―――いつまで其処にいるつもりだこの自殺志願者」
「・・・ぇ、」
「お前がその気になるまで気長に待ってみようと思っていたが、やはり迎えに来て正解だった」
「・・・・・・な、」


低く、抑揚の無い声。
つゆりの後ろから声をかけるその存在はこつ、と足音を響かせながら彼女の腕を掴んだ。


「!」
「帰るぞ」
「・・・っは、んて・・・」

真っ白な世界で彼女が見た最後の色は、いっそ泣きたくなる位真っ青な空色だった。



  △▼△



最後に見たのは真っ青な空色で。
次に目を開けたその先にあったのは眩しい位の太陽と―――


「はんてん・・・」

ぽた、

上手く舌が回らない。
その所為で拙い発音になってしまったがつゆりには関係無かった。
名前を呼ばれた側の半纏も。

お互いそんな事は二の次だ。
今はそれよりも。


「・・・な、で・・・ぼくを、おこし、・・・たの、さ・・・」
「・・・」

沈黙した元影武者につゆりは笑いたくなった。
全然笑いどころじゃないのに。


何故半纏が此処にいる?
言彦から受けたダメージは決して消えない筈じゃなかったのか?
めだかちゃん達はどうなった?

聞きたい事は沢山あるけれど。
今はそれよりも確認したい事がある。

「・・・つゆり、」
「・・・ぼくは・・・ぃきか、ぇ、たの・・・か、ぃ・・・?」
「っああ」
「そぅ・・・か・・・・・・ね、はんて・・・、どうか、・・・」

つゆりは思いっきり文句を言ってやりたかったが、そんな気力も残っていない。
代わりにつゆりが発した続きの言葉は半纏を嘗て無い位瞠目させた。

そんな反応するなよ。傷付くな・・・。
もうそんな軽口を言える体力は残っていないけれど。


・・・もう生き返らなくても良いや、って思っていたけど・・・もう少しだけコイツの為に生きてやろうかな・・・。


ぼんやりとそう思っていたら油断していたのもあり、華奢な体躯のつゆりにとって非常に力強い抱擁を半纏から受ける事になった。

「・・・つゆり・・・!」
「・・・っ・・・いた、い、な・・・かげんしろよ、・・・ばかやろ・・・」


「どうか、僕を抱きしめてくれ。
僕が確かに生きているという事を実感する為に、どうか」


  彼女が願ったのはただ一つだけでした。

目高原作最終回、お疲れ様でした!
辞典も一緒に買ったんですが・・・まさかのノータッチ、だと・・・orz
安心院さんと半纏さんの邂逅とか裏話について載っていたら・・・という淡い希望を持っていたのですがやはりというか儚く散っていきました。

20130905