虹色理想郷 | ナノ

!高校編@
!黒子原作13巻第113Q/目高原作11巻第93箱ネタ


「・・・どうやら戦挙編の決着はついたようですな。
そして首尾良くマイナス十三組の設立も完了したようです。
一時はどうなる事かと思いましたが―――全ては落ち着くところに落ち着きましたかな」

そう朗らかに口を開くのは一人の翁。
対面するのは一人の白髪の少女だった。

「そしてフラスコ計画的に言えば戦挙戦ではめだかちゃんのデータが沢山とれて万々歳って感じかな?不知火君」

本来なら敬うべきなのは翁である筈だがこの少女の口ぶりではまるきり立場は逆のようだった。

「ま、万々歳なのは僕たちも同じだけどさ。
めだかちゃんが球磨川君の心を救ってくれたおかげで『却本作りブックメーカー』による僕の封印も多少は弱まったんだから」

白髪の少女は微笑を浮かべているが巫女装束を纏うその身体は異常の一言に尽きた。
何故なら、掌、上腕、脚と合計六本の螺子が突き刺さっているのだ。
出血もなくただ平然としているその姿は何処からどう見ても異様である。

「今までは色んな奴の夢の中のちょろちょろするだけだったけど、漸くこうして転校して来れたぜ」
「いやいや―――ではお二人はこのままマイナス十三組に入って頂くという事で宜しいですな?」
「んーどうだろう、それは遠慮しておこうかな。
正直今更マイナス十三組?って感じだし、そもそも僕達は別にマイナスじゃないしね」
「でしたら・・・」
「それに、」

翁―――不知火袴の台詞を遮り、白髪の少女は言葉を紡いだ。

「めだかちゃん達に会う前にちょっと野暮用があるんでね。
そっちを優先にさせて貰おうかな」


不敵に、かつ無敵に微笑する少女の名前は安心院つゆり。
現在無所属、『遅れてくる二人』の内の一人。
そんな彼女の『野暮用』に翁は内心首を傾げるのだった。



  △▼△



「この世は勝利が全てだ。
勝者は全てが肯定され、敗者は全て否定される。
僕は今まであらゆる事で負けた事が無いし、この先も無い―――たった一人を除いて」

緑間から借りた鋏を使い自身の赤い髪を切り落とす。
その行為に一切の迷いは無い。

「全てに勝つ僕は、全て正しい」

はらはらと赤い髪が地に落ちる。
それまで髪に隠れていた異色眼が眼下にいる火神達を見据える。

「僕に逆らう奴は、親でも殺す」

彼の名前は赤司征十郎。
言わずもがな、「キセキの世代」最後の一人である。
そんな彼が、満を持して黒子達の前に現れた―――その時。刹那。直後。



「それは君の言い分だろう、全く自分の考えを他人に押し付けるのは君の悪い癖だぜ?
僕からすれば勝利なんてくだらない―――敗北でも全然あがれない。
だったらそんな差別は無意味極まる。
要するに勝利プラス敗北マイナスも僕達の前ではおしなべて普通に平等なんだよ」



音も無く、気配も無く。
いつの間にか招かれざる客が現れた事にこの場の全員が瞠目した。

『!!』

「やっほー久しぶりだね皆。
僕の事覚えてるかな?」
「っ!?」
「あじ、」
「誰だアンタ!?
一体いつから其処にいた!?」


朗らかに挨拶をするつゆりはいつの間にか火神の背後にいた。
白衣緋袴―――巫女装束を纏ったその姿はこのバスケの試合会場には酷く浮いている。
そしてその大きな螺子を六本捩じ込まれた彼女を見れば誰もが救急車を呼ばないといけないと思わざるを得ないだろう。
しかし周囲の人間を見るとそんな様子はない。
これ、は一体どういう事なのか―――。


いつからでも・・・・・・、さ。
腑罪証明アリバイブロック』という僕の持つ囁かなスキルでね。
僕はいつでも好きな時に好きな場所にいられるのさ。
密室でも宇宙でも天国でも地獄でも夢の中でも心の中でも君達の中でもねえ」
「な、」
「つゆり!?」

火神の戸惑いの声をかき消したのは、彼女の事を名前で呼ぶ数少ない人物―――赤司だった。
赤色と黄色の異色眼を限界まで瞠目させた姿につゆりは一瞬目を細める。

「・・・征十郎君」
「つゆり、何だその姿は・・・!」
「・・・え」
「螺子を外して、・・・いえ無理に外すと出血多量で危険ですよ、ね・・・!?
え、合ってますよね!?」
「あ、安心院っち!?その螺子、痛くないんスか!?」
「それにその白髪は一体どうしたのだよ!」
「つか普通救急車だろ!
ちったあ痛そうにしろよ一瞬流しそうになったじゃねーか!」
「安心院ちん、例の一京分の一のスキルでその螺子取れないのー?」


火神と降旗が彼女と面識がない分、何がなんだかついていけなかった。
誰か、彼女について説明してくれないだろうか。


「んー・・・順に説明すると螺子についてはこれは仕方が無い事だ。
見た目はグロテスクだけど実は痛みも何も無いから大丈夫だよ。
ただ見ての通り両手を封印されてしまってるし、僕のスキルではコイツを外すのは無理なんだ。
後髪の色についてだけど、これもこの螺子が関係しているんで放っておいてくれ」

中学時代、身長と殆ど同じ位だった艶やかな黒髪。
それが今や真っ白な髪に変化している。
赤司は一年以上会う事の無かった幼馴染に拳を震わせた。


「つゆりの髪の色も螺子についてはどうしようも無い事も分かった。
だが肝心の、何故こんな事になったのか聞いていないぞどういう事なのか説明しろつゆり!」


がっ、と肩を強く掴まれる。
それと同時につゆりを見る双眸が酷く揺れているのを見逃さなかった。
他のキセキも赤司の迫力に呑まれたのか何も言わない。
つゆりの瞳がゆらり、と昏い光が灯る。


「・・・別に大した事じゃあないさ。
何故こんな姿になったのか―――それは一応内緒にしておくとするよ。
言えばきっと君は無茶をするだろうからね」
「な、」
「さっきも言った通り、こうして表舞台に出てこられるようになったけど僕は半分以上封印されている身でね―――"あの子"に封印を解いて貰ってからまた改めて君達の前に現れる事にするよ」
「巫山戯るなつゆり!
僕がどれだけお前の事を、」
「皆が僕の事を忘れた中、君達は僕の事を忘れなかった。
それだけ分かれば充分・・・充分過ぎる。
だから征十郎君、もう少しだけ待っててよ。
一年以上待っててくれたんだ、なら後二ヶ月や三ヶ月なんて一緒だろう?」
「ま、」


赤司の手が彼女の手を繋ぐ、それよりも早く彼女は現れたのと同じように、最初からいなかったように掻き消えた。
恐らく『腑罪証明アリバイブロック』だろう。


これから大事な試合が始まるというのに、黒子達は言いようの無い感情を心に宿しながら、試合会場に向かう事になったのだった。

+おまけ+

「・・・・・・」
「あ、赤司君・・・?」
「おい大丈夫か・・・?」
「赤ちーん」

黒子達が戦々恐々とする中、赤司は長い沈黙の末に出てきた言葉はキセキ達が予想したどの言葉にも当て嵌められない物だった。

「・・・・・・お前達、」
「っ」
「・・・先程は気付かなかったが・・・見たかつゆりのヘッドバンド!」
『・・・は?』
「つゆりが、つゆりが僕のあげたヘッドバンドを付けて・・・!」
『・・・・・・・・・・・・』

  無闇に驚かせてはいけません

微妙に帝光編01続編です。
無理矢理感が否めないですが書きたかったシーンを詰め込んだ結果がこれです。
申し訳ないです(汗
そしてネタの提供、有難う御座いました!

20130712