恋に恋して | ナノ

!200,000hit企画18要素有



「ふあー・・・」

先日黄瀬君に借りを返してから数日。
散葉は軽く欠伸をしつつも、教科書やノートを机に片付けてる。
すると最早日常の一部になりつつある女子生徒の悲鳴混じりの声に一瞬散葉は顔を顰めた。

・・・きた。

「おはよーっス!散葉っち!」
「お早う。
・・・・・・・・・・・・・・・"散葉っち"?」

「おー黄瀬!
今日も朝練?よくやるよなー」
「そっスかー?でもオレバスケ好きだしあんまりキツイとか思わないっスよー・・・・・・赤司っちに比べたらね・・・
「?最後なんか言ったか?」
「っ別に何も無いっス!」

「・・・・・・・・・」

散葉は眠気も吹っ飛んだ頭で何とか情報を処理しようと健闘するも、残念ながら上手に纏まらなかった。
例えるなら臨也とその天敵の静雄が仲良く握手して友情を築き上げたって言われる位だ。

・・・自分で言っておきながら何だけど本当に有り得ない。何それ信じられない。池袋の常識に当て嵌らないもの。狩沢さんが聞けばきっとハンターの目になる。異常な位目が輝くね。私に被害が及ばなかったらイザ兄がどうなろうと関係無いけ・・・否ううん嘘。非常に癪だけど、不本意だけど!生活費を送ってくれるからやっぱりダメだ。グレーどころか真っ黒なお金で生活するのも複雑極まりない話だけど!
・・・・・・話が逸れた。

「あれ、散葉っち?気分が悪いんスか?」
「・・・その"散葉っち"って何?」
「オレ、尊敬とか認めた人には"っち"を付けるんスよ!」
「たま○っちか」

夕焼け色の双眸に冷ややかな光が僅かに宿る。
しかし向けられた黄瀬はそれに気付いているのか気付いていないのか。

「兎に角そのあだ名は止めてくれる?」
「何でっスか!?」
「・・・因みに中学時代、そのあだ名で呼んでた人は止めてって言わなかった?」
「それは、」

「全員に席に着けー」


『!』

黄瀬の台詞を遮る形で担任が教室に入ってきた為、二人の会話は中断する。

「・・・とりあえず席に着こうか」
「・・・そっスね」



  ♂♀



時は流れて昼休み。
現在彼女は裏庭にて舞流からの電話に出ていた。

『チル姉ー!今日は帰ってくる!?』
「GWには帰るからもう少し待って」
『冷たい!でも好き!チル姉の料理待ってるからね!後デザートも!』
「・・・まさかとは思うけど舞流。
私よりも料理の方に比率が傾いていない?」
『そそそそんな事無い!』
「・・・舞流の夕飯、野菜炒めね」
『ごめんなさーーい!!』

末っ子の叫び声に散葉は思わず携帯と自身の耳を遠ざけた。
耳が壊れる。

「・・・兎に角、GWには帰るから。それまで大人しく待ってて」
『!ね、ねえチル姉!夕食の事ウソだよね!?ウソだって言って!』
「お姉ちゃんは嘘は吐かない。冗談は言うけどね」
『チル姉ぇええ!!』
「舞流、叫ぶなら静かに叫びなさい」

無茶苦茶な姉の言葉は聞こえていないのか携帯の向こうは依然騒がしいままだ。
・・・昼休みが潰れかねないのでそろそろ終話ボタンを押しても良いだろうか。
否そんな事をしたら次の電話が怖い。マシンガントークは侮れない。これ経験済。

「・・・・・・舞流、用件はそれだけなら切っても良い?」
「っ待って待ってチル姉!
チル姉の事だから大丈夫だと思うけどイザ兄の誕生日忘れてないよね!?」
「誕生日?
・・・・・・ああ、もうそんな時期か」
『忘れてたのチル姉!信じられない珍しい!』
「五月蝿いな。・・・そうだね今年はアレでいこうか」
『?』
「パイ投げ」

散葉の爆弾発言を金髪の将軍辺りが聞いたら十割の確率で吹いていただろう。そして反復するよう促すだろう。
兄の天敵が聞いたら迷わずGOサインを出す上に中にタバスコを入れようと言っていたかもしれない。・・・否もっとえげつない事を提案しそうだ。

散葉は思考を放棄した。

『パイ投げ!?チル姉それ私もやりたい!勿論クル姉も!』
「じゃあ準備宜しくね」
『任せてー!クル姉ーイザ兄の誕生日なんだけどー・・・


ブツリ、


「・・・一体舞流はいつになったら落ち着きを覚えるんだろう・・・メールだと真逆になるくせに」

ツーツー、と通話終了と書かれた画面を見て散葉は静かに嘆息する。
妹からかかってきた電話の所為で大幅に削られてしまった昼休み。
・・・しまった蒲公英頭に朝の一件について言う時間はあまり無い。

散葉は残り時間に肩を大袈裟に落としつつ、これからの日々に平穏を祈るのだった。

  変化の切片

大変お待たせしました、第3章の開幕です!今回も舞流が出てきました。
そして作中にある臨也BDネタについてですが此方は一日限定拍手から。
なので本編にupはしません。今のうちに断っておきます。すみません。

20130926