過去企画 | ナノ

!『恋々』
!時間軸:本編第2章終了後



「ちょっとイケメンでモデルだからって、調子乗ってんじゃねーよ」

暗闇の中、不穏な雰囲気を醸し出すのは一人の男。
明らかに第三者が見れば異様としか言い様がない。
だが男はそんな事を気にしていないのかくつくつと低音の声音で歪んだ微笑を浮かべる。


―――男の両目は剣呑な光が宿っていたのだがそれを指摘出来る者は誰もいなかった。



  ♂♀



「・・・あれ?」

黄瀬は朝、靴箱を開けると一通の手紙が入っていた。

・・・いつもはもっと入っているのが今日は一通。
否違和感は其処ではない。

一番の違和感は宛名も差出人の名前も記載されていない点だった。


「・・・?」

明らかにいつもと違う手紙に無意識に眉間に皺が寄る。
恐る恐る中を見ると、真っ白な紙に書かれていたのはたった一言。


『調子に乗るな』


「・・・まーた嫌がらせっスか・・・」


黄瀬は不快な表情を一瞬浮かべた、次の瞬間。


「・・・あ」
「え?って、散葉っち!お早うっス!」
「お早う、じゃなくてその散葉っちって呼び方止め、・・・その手紙って」
「手紙?
・・・っち、違うんスよ!べ別に告白とかそんなんじゃ、」
「そっか告白か・・・見ちゃってごめんね」
「だから全然違うんスよ!」


ぎゃあぎゃあと玄関前で話していた会話。
それが、新たな騒動の幕開けだった。



  ♂♀



「・・・」

可笑しい。

散葉は現在目の前にいる存在に胡乱気な表情を向ける。


二、三日前から妙に机の中やロッカーを探しまくっていたりしていたが、今日はモデルの仕事で途中から授業に参加してきた黄瀬の表情は何故か青褪めていた。
・・・本当に一体何があったのか。


「・・・黄瀬君、大丈夫?」
「な、何がっスか?てか、オレは大丈夫っスよ!」
「・・・本当に?」
「本当っスよ!」


怪しい。
前々から思っていた事だけど黄瀬君って隠し事とか出来ない人なんだろうな。
畜生、イザ兄もそういう一面もあったら良いのに・・・否そんなイザ兄、想像出来ないというか見たくない。
・・・話が逸れた。


「・・・」
「・・・お、オレちょっと用があるの思い出したんでまた明日っス!」
「待っ、」


脱兎の如く素晴らしい逃げ足っぷりを披露しながら去っていく黄瀬に散葉は静止の声をあげる暇もなく終わった。

・・・は、早い。
流石バスケ部レギュラー兼エース。
その名前は伊達じゃないという事か。


「・・・うーん・・・?」


本人が何でもないというのだから放っておいても良いのだろうが、自分は彼に借りがある。
幽が自分にくれたシルバーリングを見付けてくれた、借りが。

彼はそんな風には思っていないかもしれないが私的にそういう訳にはいかない。


「・・・」

ちょっと調べてみるかな・・・。


いつもの大きな瞳がこの時、きゅっと目が細くなる。
それだけでガラリと印象と雰囲気が変わったのだがそれを本人が知る由も無く。



  ♂♀



くつくつと笑う男はつい先程までしていた事を脳裏に描く。
それにより対象者が浮かべるであろう歪んだ表情を想像すると更に愉悦が増してくる。


昨日はあの男の撮影場所に嫌がらせを仕掛けておいた。
更に事務所にも脅迫文とまではいかないが嫌がらせの手紙を送っておいた。

あんな男よりも俺の方が、ずっと―――。



そう思ったのが数分前の出来事。
何故、俺は床の上に転がっている?


「な、・・・・・・んで」


こつ、


「!」
「―――名前は○○○○。
海常高二年、××事務所所属のモデル。
家族構成は両親と弟二人。
父親はジュエリーデザイナー、母親は専業主婦。
端から見ても、実際調べても家族円満、理想の家族図だけど・・・昨日貴方がした事はそんな家族の一員とは思えない行動だね。
黄瀬君の所属事務所や撮影場所に嫌がらせとは・・・理由は彼に人気を取られたからとかそんな所かな」

こつ、こつと足音を響かせながら此方の情報を一通り話す存在に男は恐怖した。
声音からするとどうやら女。
身体の自由が利かない所を考えると薬でも盛られたのか。
頭の中に得体の知れない恐怖が支配し、思考に焦りしか生まれなかった。


こつ、


「おま、・・・え、なん」
「私の事なんてどうでも良いでしょ。
というかそんな事を言ってる場合じゃないだろ?」

この男に対し、学年とかそんなもの関係無いと散葉は思っている。
だから敢えて敬語は使わない。

それはそうと一応性差の事も考えて軽めの薬を用意しておいて正解だった。
力ずくで押し切られたら流石に敵わない。


「ああ、そうそう白を切ろうとしても無駄だから。
貴方のやった事、警察に送りつけておいたし、もう言い逃れ出来ないよ」

此処で漸く男は悪魔の様に囁く女を視界に納めた。

フードが付いた漆黒のコートを始めとして全身黒色の服を身に纏っている。
髪も帽子の下で纏めているのか顔も全然分からなかった。


「・・・お、ま」
「自業自得、因果応報。
君が黄瀬君にやった事を考えたら当たり前の結末だよ。
まー君にとって最も不運だったのは私がいた事かな」


凄腕の情報屋、折原臨也の妹。
まだまだイザ兄の域にまで達していない私だけど何とかなって良かった。
・・・さて、これで借りを返したからね黄瀬君。


彼のこの後についてどうなったのか、それは散葉のみが知る。



  ♂♀



「お早う黄瀬君」
「・・・散葉っち・・・」
「・・・何かに悩んだりしてない?」
「へ?あ、え、何にも無い、っスよ?」
「・・・そっか・・・ま、大丈夫だよ」
「へ?」
「んーん・・・何でも無い。
あ、早く行かないと邪魔になっちゃうよ?」


小さな小さな言葉。
だがその「大丈夫」という言葉通りに、彼の身の回りで起こった出来事はぴたりと止んだのだった。

  自称半人前の情報屋実力発揮事件

お待たせしました、200,000hit企画第十八弾は青桜様に捧げます!
リク内容はタイトル通りに仕上げたつもりですが如何でしょうか・・・?
主人公が情報屋として動く時は臨也の服装を真似ているだろうなーと思ったので、ラスト主人公の服装は臨也を想像して頂けると良いかと思います。
今回は企画に参加して下さり有難う御座いました!(*^^*)

20130409