巡ッテ廻ッテ乙女ト青 | ナノ
灰音は幼馴染に会う為、気が進まない事この上ない芸能事務所に居た。
幼馴染に会ってとっとと帰ろうと思った矢先、ある人物と接触してしまった事でそれは叶わぬモノとなった。


「・・・・・・あ゛?」
「・・・・・・・・・・・・」

灰色に近い短髪に薄い赤、髪と同色の灰色の異色眼(オッドアイ)という滅多に見ない容姿を持つ青年が目前に居る人物にこれでもかと言わんばかりに不快な表情を浮かべた。

もう一方は前者に負けず劣らず珍しい蒼銀色の髪に加え青灰色の双眸を持った少女。
その彼女は目の前に居る人物に無言で眉間に皺を寄せていた。


この組み合わせは彼と彼女を知る人間ならば最悪の組み合わせ、と称しただろう。
しかし悲しいかな、それに気付いた時にはお互いがお互い、その存在を認知した後だった。


「何でテメェが此処に居んだ、部外者だろうが」
「・・・好きで来てる訳じゃないわ。
用が済めば誰に言われなくても帰るわよ」

真冬に吹き荒ぶ風よりも冷たい視線と声。
灰音は自身の幼馴染の先輩に当たる人物に、まるで親の敵にも似た態度をとった。
・・・否、彼女の場合、それはある例外を除き殆どの人間に対して同じ様な態度をとるのだけど。

しかし、自身と同様に好意的とはお世辞にも言えない態度を敏感に感じ取った青年―――黒崎蘭丸は米神の血管が波打つのを自覚すると同時に地を這うような声音を出した。


「分かんねェな。
テメエが嘘吐くかもしれねェじゃねェか」
「いい加減にしてくれるかしら。
貴方が女嫌いなのは知っているけど私に当たらないで頂戴」

灰音がシャイニング事務所の一角に居るのを見て蘭丸は部外者立ち入り禁止な事も相俟っていつも以上に強く当たるが彼女にとっては何処吹く風と言った所。
地を這うような声にもノーリアクションだ。


「うっせぇ俺に口出しすんな、女なんぞ俺には必要無ぇ。」
「その発言だとまるで男にしか興味無いと言ってる様に聞こえるわね」
「ふざけんなテメエ俺を馬鹿にしてんのか」
「ふざける?
私はただ思った事をそのまま口にしたまで。
それをどうと捉えるのかなんて貴方の勝手であると同時に私がどう感じ、口にするのも私の勝手。
貴方に私の行動並びに言動を制限する権利は無いわ」


灰音はバッサリと相手を切り捨てる。
面倒臭がりな彼女にとって此処まで嫌悪感丸出しの台詞を口にするのは珍しい事なのだが、それを知る人間は此処には居ない。

とは言え、灰音が此処まで感情を剥き出しにする理由は存在する。

「ぐだぐだ御託を並べんじゃねェよ、あんまなめた口きいてっと後悔するぜ?」
「・・・後悔?私が?
やれるものならやってみなさい。
馬鹿馬鹿し過ぎて笑えない冗談だし、私にその手の脅しは通用しない事位分かってるでしょ?」

鼻で笑いそうな表情に更に蘭丸の表情が怒りに染まっていく。
子供が見れば間違いなく泣いてしまう代物である。
泣く子も黙る、ではなく更に泣かせる、と言った方が正しいかもしれない。

しかし灰音はそんじょ其処等の女性と、かなりズレた感覚並びに性格の持ち主だ。
"昔"の経験と比べると今の状況とでは違いすぎた。


「チッ・・・テメエやっぱいけ好かねェ」
「別に好かれたいなんて毛程にも思った事無いし」


感情任せにその澄ました顔をした彼女を心底殴りたいと思った。
しかし、自分がアイドルという事もあって世間に露見すれば痛い目を見るのは自分だけである事、更に殴ろうと思っても目の前に居る人物は例え視界を封じられても自分の攻撃等掠りもしない事は簡単に予想出来る。

以前、シャイニング早乙女が隠れている場所を簡単に当てた上に一撃を喰らわせたという事実は記憶に新しい。


「ま、貴方の場合は女嫌いというのも理由の一つなんでしょうけど」


寧ろ自分が悪化させている原因とも言えるが灰音は敢えて口に出さない。
代わりに蘭丸が吐き捨てるように灰音と自身の相性が最悪な理由を口にした。


「そう言うお前は人間嫌いだろうが」
「あら、じゃあ私の勝ちね」


女嫌いの蘭丸に人間嫌いの灰音。
それが、二人の相性が最悪な理由だ。

女そのものに不信感を抱く蘭丸に対し、灰音は(一部の例外を除く)全ての人間を嫌悪する。
そんな二人が良好な人間関係を築ける筈が無い。

「は!?待て何で勝ち負けの話になるんだ、可笑しいだろうが!」
「貴方は異性限定、私は全ての人間に適応されるから?」
「何で疑問系なんだ、テメエが最初に言ったんだじゃねェか!」
「私の座右の銘は人類皆平等。
貴方みたいに一部の人間に偏った感情を抱いていないもの」
「言ってる意味が分かんねェよ!」

怒号する蘭丸と冷静に返す灰音。
二人が良好な人間関係が築けるのは当分先の話と言える。
・・・この二人が仲良くなろうと思う日が来るのか分からないけれど。


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今回は『乙女』主人公と蘭丸のお話。
女嫌いと人間嫌いという事で絶対にこの二人は相性が最悪だろうな、と思ったので書いてみました。
それにしても主人公、口喧嘩する時は饒舌になるなぁ。

20120805