巡ッテ廻ッテ乙女ト青 | ナノ
黒崎蘭丸とは浅くはないが深くも無い、そんな関係であると認識しているカミュは目の前の光景に微妙な感情を抱いていた。

彼の眼前にはその黒崎蘭丸とあまり面識の無い銀髪の少女が居た。
―――否、少女というのは相応しく無いだろう。
確か年齢的にはあの青い髪の後輩と同年齢だった筈だ。

此処でカミュは後輩に加え、全く関係の無い彼女の事を覚えている事に内心舌打ちをしたくなった。
自分以外の者等、所詮自分を引き立てる存在に過ぎない。

なのにどうでも良い存在のどうでも良い事を覚えている事など今まであったか。
答えは否、だ。

「あれ、またやってるねランランとあの娘(こ)。
ていうか!ランランを怖がったり泣かないって結構レアだよね!」
「・・・寿か」
「何気にあの二人って遭遇率が高いよね。
女嫌いに人間嫌いのあの二人をボクから言わせて貰うとただの同属嫌悪だよ」
「・・・美風もか」

先程まで一人だった筈がいつの間にか嶺二と藍が傍に居た。
気配に気付けなかったカミュは知らぬ内に眉間に皺を寄せる。

視線を再び件の二人に戻すと真冬特有の冷気を感じた様な気が、した。

「チッおいテメエ、俺の前に現れるんじゃねェって前にも言ったよな?」
「言われた様な気がするけど其れを了承した覚えは無いわね」
「減らず口が・・・・・・胸糞悪ィ」

互いが互い、存在其のものを嫌悪しているかのような光景にカミュは要らぬ火の粉を浴びる真似はしたくなかったので其のまま静観する事にした。
実際の所、あの蘭丸がどんな形であれ異性と長時間会話をする事などほぼ皆無だ。
勿論仕事の時は別として。


故に、彼女―――草薙灰音という人間は希少価値が高いとも言える。


「うわっ!あんな極悪な表情に体を貫通しそうな視線を向けられているのにあの娘、平然としてるよ!」
「レイジ・・・言われなくても分かるよそれ位」


呆れたように口を開いた藍が嶺二に更に何かを紡ごうとした瞬間、彼女の口から蘭丸にも負けない―――カミュの祖国、永久凍土の国を彷彿させる様な、氷の様に冷たい言葉が彼らの耳に届いた。


「だったらこの場で、今すぐに、風通しを良くしてあげるわよ」


・・・・・・・・・・・・。


どうやって、とは聞けなかった。
聞いたら後悔しそうな気がした為である。


灰音は何処からどう見ても手ぶらで、喧嘩や罵り合い等出来なさそうな容姿なのに、何故だろう今の台詞を聴いた瞬間彼女の右手には凶器が見える。
勿論幻覚だ。分かっているのにその凶器は消えてくれないとは。


因みにこういう現象は何も初めてでは無い。
いつだって悉く彼女は言動並びに行動で其れを完膚なきまで破壊する。
第一印象とは間逆の性格。


思わず遠い目をしたくなった。


「あ?やれるもんならや、」
「あーもう!二人ともこんな所で喧嘩なんて止めてちょーだい!」
「っ嶺二」
「・・・・・・・・・」


更に泥沼化してしまいそうな雰囲気を一瞬にして壊した嶺二。
いつの間に現れたのだ、と蘭丸は一瞬瞠目する。
灰音はというと静かに溜息を吐き、此方に向かってくる藍とカミュに視線を向けていた。

「チッ、テメエ等も居たのかよ・・・」
「居ちゃ悪いか黒崎?」
「別に疚しい事している訳じゃ無いんだし」

カミュに続き藍にまで突っ込まれた蘭丸は一瞬無言になるが灰音により再び火が点いた。

「・・・情けない」
「っ上等だ表に出ろ!」
「返り討ちにしてあげるわ」


血も凍るような微笑に嶺二は背筋を凍らせる。
しかし藍はそんな嶺二を他所にポツリと呟いた。


「・・・・・・二人とも仲が良いよね」
「誰がだ!」「誰が」


藍の一言に灰音と蘭丸が同時に反応し、同じ言葉を返した。
次いで二人は互いを見つめたかと思えば苦々しげに顔を背ける。

「・・・ほら」
「違いないな」
「ランランってばいつの間に親交を深めてたのさー?このこの!」
「ふざけんなテメエ等!!」
(屈辱だわ・・・)

藍達の台詞に青筋を浮かべる蘭丸に灰音は無言で打ちひしがれるのだった。

拍手にて続編希望のコメントがきたので書いてみました。
蘭丸と主人公の仲は藍曰く同属嫌悪。
でも此れは私の解釈だから多分他の人から見ると又違う解釈があるんだろうな、と思う今日この頃。

20120819