花雪シンフォニア | ナノ

!両想い

コンコン


「・・・・・・!?」

栞は深夜零時を過ぎた頃、突然聞こえたノックの音にビクリと内心身を震わせた。
一切表情に出ないが性格がチキンである彼女にとって恐怖以外の何物でもない。

油をさしていない人形の様に動く事がままならない身体を叱咤しつつ、栞はインターホンのボタンを押した。

「・・・はい」
「・・・・・・一ノ瀬です、今宜しいですか?」
「・・・・・・・・・トキヤ君?」

はて、今日は遅くまで仕事ではなかったか。
それにいつもなら事前に訪問する旨を連絡するトキヤなのに今日はそれが無い。
栞は内心首を傾げつつもガチャリとドアを開けると同時にトキヤに抱きしめられた。


「・・・・・・・・・!?」


これはどういう状況!?

栞は内心絶叫している間にトキヤはいつもより覇気の無い声で栞に謝罪する。

「すみません・・・ですがどうしても会いたくて・・・」
「・・・とりあえず中に入らない?」

言外に玄関にいつまでも居るのはどうか、という意味も込めて言ったのだがトキヤはそれに気付いたらしくそうですね、と頷くと徐に部屋に入ったのだった。



  ♂♀



場所はリビングに移ったのは良かったものの、状況はあまり変わらなかった。
というのもトキヤは珈琲を持ってきた栞に背後から抱きついて動けなくなった為だ。

「トキヤ君・・・?」
「もう少し、このままでいて下さい・・・」

本当にどうしたというのだろうか。
仕事でミスでもしたのか。
彼は本当に真面目なので、些細なミスでも結構気にするタイプだ。

(うーん・・・?)
「・・・やはり栞さんが落ち着きますね・・・」
「・・・ぇ?」
「・・・・・・実は先程までドラマの撮影をしていたのですが・・・その・・・」

言いたくないのか口篭るトキヤに栞はコテリ、と首を傾げる。
こんなトキヤはあまり見ない。
こんな風にさせたドラマって、一体どんな撮影だったというのか。
というかドラマ!絶対に見なければ。

「ある女性の相手役で・・・キスシーンもあったんです。
ですが・・・少々・・・否結構・・・辛いというか、」
「・・・・・・・・・」

何となく言いたい事が分かったので栞はくるりとトキヤと向き合うように身体を動かす。
次いでもう良いよ、という意味も込めてゆっくりと頭を撫でる。
その行動にトキヤは一瞬ビクリ、と身体を震わせるが栞の温もりを確かめるように強く抱きしめる。

「栞さん、愛しています。
本当に、私は、」
「うん、・・・わた、しも」

気恥ずかしさもあったが確かに想いを返した栞にトキヤから口付けられるまで後三秒。

トキヤside


今回はシリアス風味。
おかしいな、もう少し明るくなる筈だったのに。

20121011(20140721再録)