BASARA×銀魂inとうらぶ

more
人の肉体を得てからはまるで長い悪夢を見ているかのようだった。
ある人の子に顕現されてから無理矢理強いられる主命、出陣、遠征その他諸々。

あの方と同じ衣装は既にボロボロでかつての記憶とは程遠い。
『漆黒の花嫁衣裳』は見るも無残なものになっていた。

「・・・・・・」

体が重い。目を開けているのも、それこそ指一本動かすのもひどく疲労していた。
自分を含めた刀剣という存在は自身を顕現した人物に『手入れ』と呼ばれるものをしないと怪我が治らない。
それどころか存在維持すら危ういのだがこの本丸の主は所謂非道な男だった。
物珍しい刀剣女士である事、薙刀なので成人女性の肉体を得たせいでこの本丸において誰よりもあの男と関わらなければいけない時間が多かった。


「・・・ぉ、市さ・・・」

ああ、肉体を得られるのであればあの方からならよかったのに。

腰程まである、艶やかで手入れがしっかりなされた黒髪。
夜空を切り取ったかのような黒曜石の瞳。
いつも不安で自信がなさそうに俯く横顔が脳裏に過ぎるも、彼女はもう微動だにしなかった。

「――――・・・」

己の行き着く先はきっと地獄だ。
本体ももうボロボロで刃こぼれも沢山ある。
薙刀としても使われないのならこのままいっそ―――。


・・・お市様、今――が参ります。

その言葉を最期に、瞼を閉じようとした瞬間。


「―――あー、お前が例の刀剣女士?
つかボロボロじゃねーか、ぼろ雑巾みたいな格好しやがって・・・とりあえず手入れか?おい帰るぞー」
「了解、大将」

現と夢の境目でひどく気怠そうな声がしたが、きっと幻聴だろう。
薙刀を本体とする刀剣女士もとい『散華』は意識を手放す。

自身の背中と膝裏に温もりを感じたような気もしたが、散華はそれさえも気に掛ける事は出来なかった。


 □■


次に散華が目を覚ましたのは見慣れた天井だったが漂う霊力は全然知らないものだった。
散華はまず現状を把握しようと上体を起こそうとするが全く動かせなくて一種のもどかしささえ彼女は覚えた。

思わず眉間に皺を寄せた瞬間がらりと襖が開き、それと同時に陽光が部屋を明るくさせた。

「お?・・・君起きたのか?じゃあ薬研を呼ばないとな。
ちょっと待っててくれ」
「・・・は、」

そう言ってさっさと去っていった白い男。
銀色にも似た髪、黄金色の瞳、白装束。
何処かで、見た事があるような―――?

散華は其処まで考えてまた意識を飛ばす。
体が休息を必要としているので微睡のさざ波からは逃れる事は敵わず、散華は再び眠りについた。

次に目を覚ました時、先程の白い男と白衣眼鏡の少年、そして何故か爆発し所々焦げた白髪を携えた男の三人を視界に捉える事になるのだがそれは別のお話である。
Comment:0