刀語×とうらぶ7(番外編)
more父であり刀工でもあるその男の名前は四季崎記紀。
まず最初に覚えたのがそれだった。
父は合計千本の刀を作り、最後から数えて十二本の刀はより特別なのだと教えてくれた。
教えてくれたその【刀】はその特別な十二本の刀の長兄であり、【わたし】は六番目の【きょうだい】だという。
何処かおなざりに、だけど優しい声音で教えてくれる長兄と、その説明に補足して穏やかに教えてくれる長姉の存在はありがたく、もっと話をしたかったけれど、変体刀として後期に作られたわたしの意識は沈んだり起きたりと安定しなかった。
しかし、それでも。たった一つだけ、不思議と【きょうだい】の声だけは覚えている。
ずっとこんな日が続くんだと思っていた。
本当は分かっていた筈だったのに、ずっと目を逸らしていたわたしに対してととさまは現実を突きつけた。
「・・・よし、じゃあ適当に全国歩いて刀をばらまくとするか」
最後の【きょうだい】が作られた後、ととさまが言った言葉の意味を理解したくなかった。
『いや、いやです!兄さま!姉さま!』
『 ・・・!!』
ととさまの手には二番目の【きょうだい】―――【姉妹】である刀が握られている。
おかげで微睡んでいたわたしの意識も一気に浮上し、思いつくまま言葉を発していた。
ちょっと待ってくださいととさま!姉さまを連れて行くならわたしも!わたしも連れて行って下さい!
姉さまをお守りするのはわたしの役目です!
え?何ですか"鉋"の兄さま、姉さまの対は俺?知ってますよ!わたしの対は"針"の兄さまだって?
知りませんよあんな見た目貧弱な刀のことなんて!!
わたしに意地悪ばっかりする”針”の兄さまのことなんてええええええええ!!
わあっと泣き崩れる六番目の【兄妹】の背中を微妙な顔で見る四番目の【兄弟】。
"完成形変体刀"長兄、"絶刀・鉋"は何だろうこの光景、と思ったのは言うまでも無い。
■■
やってきました、蝦夷の踊山。
ととさまに警告してきた村の人達いわく第壱級災害指定地域、らしいんだけど。
えええええ?
なんですかそれ?
踊山っていうからには山なんですよね?
その踊山とやらを見たら雪山なんですけど。山頂どころか全体的に白いんですけど。
山の麓に住んでいる人たちは全員冬用の服をしているんですけど?
ととさま寒くないの?
わたしは平気ですよ、だって刀だし!
日本刀というより鞘も鍔も刃文もない石刀ですけど!
結局兄さまとも姉さまとも弟とも妹とも離れ、一振りだけととさまに連れてこられたわたし。
そしてだいだら法師が祖先らしい"凍空一族"のえらい人にわたしは手渡された。
・・・え?
と、ととさま?
「そういえばこの刀の名前は?」
「あー、そういや言ってなかったか?そいつの名は―――」
わたし、どうなっちゃうの?
■■
そんなこんなで、わたしの雪山生活は始まった。
正直ととさま以外の"人"をあまり見た事が無かったから一体どうなる事かと思ったけど、人というのは面白い。
どうやら"わたし"の初めての所有者は奥さんに負けっ放しの旦那さんだ。
「私に勝とうだなんて百年早い!!」
「ちょっ待って!それはマズ、」
あああああああああああああ。
一方的な夫婦喧嘩をにこやかな笑顔で見るわたしを、彼らは当然見えていなかった。
ととさまの元にいた時には全く気付いてなかったけど"わたし"は超重量級の刀であり、この踊山に住む凍空一族の能力、怪力は"わたし"を振るうには最上の使い手だ。
『そういえば鉋の兄さまが言ってたなあ・・・』
―――刀には魂が宿る。
他の刀は知らないが、俺達十二本の刀は持ち主を、使い手を、所有者を選ぶ。
ただし斬る相手は選ばない。
だからこそ、自分達"完成形変体刀"は自分達の特性により相応しい相手を所有者として選定する。
彼女にとって、それはこの土地に住まう一族が"それ"だった。
だからあの父がわざわざ自分をこんな雪山に連れてきた。
『あ、わたしを使ってくれるの旦那さ・・・え、今日は奥さんの方なの?
ええ?旦那さんじゃ物足りないからちょっと一狩りしてくるって・・・ちょっと旦那さんもうちょっと頑張ってよ!
あ、聞こえてないと思うけど奥さん一応言わせてね、"針"と違ってわたしは頑丈だし大丈夫だと思うけど大事に扱ってね!』
この時、わたしは知らなかった。
まさかまさか、完成形変体刀十二本が国一つ買える程の価値を得る事になろうとは。
そしてその刀で対人間ではなく狩りで使われるようになるとは。
百余年後、凍空一族が一人の女性によって壊滅させられるとは。
この時は全く、思いも知らなかったのである―――。
それから数百年後。
日ノ本は所謂内乱状態にあった。
歴史を賭けた戦いに参戦していた筈の刀が一振り、雪山登山するにはあまりにも無謀な軽装で歩みを進めていた。
「はあっ、はあっ・・・!」
どくどくと心臓が暴れているのをぐっと堪え、白い刀は雪山を見据える。
白い刀、もとい鶴丸国永は出口の見えない雪山を彷徨っていた。
徐々に重くなる四肢を叱咤しつつ彼は只管歩き続けた。
―――彼はもともと雪山に行く予定など無かった。
予定があったのは戦場である厚樫山だったが正直もうあそこには行きたくない。
「・・・現実逃避も此処までにしておくか」
はあ、と白い息を吐く。
溜息を吐いたつもりが此処では全てそれになる。
「それにしても此処は一体何処の時代だ?
雪山が戦場の時代なんてあったか・・・?」
かたかたと震える体には気付かないふりをして一心に歩き続ける鶴丸だったがついに体が悲鳴をあげた。
黒い手袋から覗く指先は青紫色。
震えがずっと止まらず、数分経たずして限界は訪れた。
「う、そだろ・・・?!」
がくりと膝が地に着く。
己の本体も満足に視界に移す事が出来ない位、身体の機能が低下していた。
これ、は。
もしかしなくてもヤバイ状況じゃないか・・・?
「おれ、は、」
死ぬのか?こんな、道半ばで?
それは、だめだ。かえって、あいつ ら を 救 わ なけ れ ば、
とうとう上半身が雪の地に倒れた。
寒く冷たい筈なのにそれさえ感じない事に鶴丸は焦りを募らせるが体はそれでも動こうとしなかった。
思考とは裏腹に閉ざされていく視界。
金無垢の双眸が瞼の裏側に隠れようとしたその刹那。
「―――大丈夫ですかっ?」
「・・・・・・は、」
「この でそんな軽装で来るなんて地表人としてはなかなかの根性ですね!
ととさま・・・んん、あの幕府からの凸凹使者を思い出します」
震える瞼を何とか持ち上げ、若いというか幼い少女の声の持ち主を見る。
其処には雪色の髪と衣装が特徴的な―――【鶴丸国永】と類似点が多々ある雪女が一人、佇んでいた。
ゆらり、と視界が揺らぐ。
視線の先にあるのは洞窟のようで、少し離れたところには火が焚いてあるのを横目で確認する。
「・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?」
はあ!?
ばっと上半身のみを腹筋で起き上がらせ、すぐに本体の刀を探す鶴丸だったが、目的の刀は思いの外早くに見付かった。
改めて自分の今の現状を鑑みると、暖かい毛布や毛皮が何枚も体に掛けられている上に山狗らしき動物が鶴丸に寄り添っている。
・・・本来動物は気配に鋭い。
鶴丸がこうして上半身を起き上がらせても無反応という事はつまりそれだけ相手にされていないという事で良いのだろうか。いや、それは無いと思いたい。それが本当ならあまりにも切なすぎる。
ぐるぐると思考を巡らせる鶴丸だったが、ふとした一つの軽い足音に頭を上げる。
―――そうだ。
此処は明らかに生活拠点。
ならば作った本人がいる筈だ。
鶴丸は自分の迂闊さに内心で舌打ちしつつ、本体に手を伸ばそうとしたその刹那。
「あ、目が覚めたんですね!」
軽快な足音と共にやってきたのは天真爛漫な笑顔が似合う、まだ幼さが残った少女だった。
■■
「どうですか、鶴丸のおにーさん!
何か欲しいものはありますか?」
「・・・いや、大丈夫だ」
もさもさと兎の干し肉を食べる鶴丸は何処かよそよそしいが、この少女めいた雪女は笑顔を絶やさない。
鶴丸は体力を回復させるために干し肉を食しつつ彼女を眺めた。
―――白や灰色がかった毛皮を身に纏い、背中には彼女の身の丈程ある不格好な石刀を背負っている。
髪の色は自分と同じく雪色だが毛先だけは大倶利伽羅と同じく赤みがかかっている。
瞳の色は夏の森林を思わせる常盤。
外見年齢は十歳前後で、短刀達と同じ位に見える。
・・・地獄のような本丸に置いてきてしまった短刀達には無い、明るさと純粋な笑顔がひどく眩しい。
ふと思い出してしまった本丸の事を振り払うように鶴丸は頭を一度振る。
次いで話をしようと口を開いた。
「なあきみは一体何者なんだ?」
「わたしですか?うーん・・・おにーさんの質問に答えられるか自身が無いんですけど・・・」
「は?自分の事なのに分からないのか?」
「そう言われても・・・わたしは見ての通り雪国育ちでずっとこの地にいたので、改めて自分の事を問われてもちゃんと答えてあげられないと思いますよ?」
まあ俗に言う世間知らず、って奴です。自分で言ってなんですが!
明るくそう言われてしまえば何も返せない。
鶴丸は一つ嘆息しつつ、彼女をもう一度見る。
容姿は人間だが、その身から溢れる気は間違いなく己と同じ神気。
そしてそれは彼女が背負う石刀からも感じる。
つまりこの少女の正体は―――。
「―――まず名前から聞いて良いか?」
「名前ですか?」
「そうだ。・・・もしや名前も無いのか?」
んん。
名前、名前・・・刀の銘、で良いでしょうか。
「ととさまは私の事を"鎚"と呼んでましたよ!」
「カナヅチ?」
鶴丸はまさかの銘に困惑した。
それはそうだろう。無銘なら良い。まだ良い。
だが告げられたのは無銘ではなく"金鎚"だという。
金鎚?
金鎚ってあの、金鎚だよな・・・。
え、どう見ても石刀だろ?この刀を作った奴は一体何を考えて、
鶴丸が其処まで考えた時、鎚はその思考を読んだのか笑顔でさらりと毒を吐いた。
「ととさまは変人ですから!」
「・・・・・・」
この時、敢えて言うならば"双刀・鎚"という刀は悪意があってその言葉を言ったのではない。
決して毒舌でも無く腹黒でも無く、ただの事実として告げただけであり、それを知る由もない鶴丸は口角を引き攣らせるしかなかった。
・
・
・
その日の夜。
鶴丸は魘されていた。
―――声が、聞こえる。
苦痛に満ちた声が、助けを求める声が、
「・・・っ」
寝るのが怖い。
闇が怖い。
目を閉じて、朝が来て、目を開けたら、あの本丸に戻っているような気がして。
その夢が自分の心を駆り立てる。
残してきた仲間は無事だろうか、何故自分だけを逃がしてくれたのだろう、逃れるなら自分ではなくもっと追い詰められていたあいつの方が、
「ちくしょ、」
暖かい筈の毛皮の毛布をきつく握りしめる。
身体は温かくても心が冷たい。もっとやり方はあった筈だろうと、答えの出ない思考が頭の中をかき回す。
毛布を千切ってしまうのではないかと思う位拳に力を入れていたら、ぽんぽんと背中を優しく叩かれる。
「此処にはわたししかいないんです、だから、夢の中くらい安心して寝て下さい」
彼女の神気が満ちたこの場所は最も彼女の力が発揮する。
力強く、だけどさざ波のようにゆっくりとその言葉は鶴丸の身に浸透していく。
―――程無くして鶴丸は力なく意識を微睡の海に沈めたのだった。
鶴丸を保護して数日後。
それは鶴丸の一言がきっかけだった。
「え、鶴丸のおにーさん帰っちゃうんですか?」
きょとん。
真ん丸になった翡翠の双眸が鶴丸を射抜く。
「ああ、随分世話になった。そろそろ行かせて貰うぜ」
「ううん・・・この を下山するのも結構無謀というか・・・ああじゃあ目的地を教えて頂けますか?
わたしが案内しますよ!」
「え?だがきみは、」
刀剣男士ではないだろう。それにきみは歴史修正主義者というものを知らないだろう―――。
その言葉を告げるよりも早く、鎚が鶴丸の手を握るのは早かった。
彼女は自身の怪力で鶴丸の指を壊さないよう力加減をしつつ、踊山に似せた神域から飛び出したのだった。
「此処で合ってますか?鶴丸のおにーさん!」
「・・・・・・・・・え、・・・は・・・?」
「何と言うかおどろおどろしい場所ですね・・・あ、鶴丸のおにーさんが帰ってきた事を早く言わないといけませんね!
きっと皆さん心配して、」
「いや、きみはもう帰、」
黙っていたが鶴丸の主は良い人間ではない。
同胞から逃がされてきたが、やはり同胞が気になってこうして戻ってきてしまった。
主である審神者は自分を見たらどう思うだろう。
仲間は、同胞は一体何人残っているだろう。
いや自分は良い。まだ良い。
せめて自分を助けてくれた、この優しい石刀の付喪神だけは逃がしてやらないと、
最悪の状況を思い描くと、それだけで鶴丸の指先が震える。
本能が叫んでいる、何故戻ってきてしまったのかと。
祟り場のような雰囲気を物ともしないような声で鎚はにこやかに足を進めた。
―――いっそ残酷な程、無邪気な声音だった。
「あ、人の気配がしますね、じゃあお邪魔しましょう!」
「金鎚!きみはもう帰―――」
血と何かの液体が撒き散らされた縁側を駆け上がり、適当な襖を引いて中に入った彼女の後を追った鶴丸。
不穏な未来を想像し、襖に手をかける。
がらりと大きな音を立てて部屋に入った鶴丸の視界に飛び込んできたのは、濃紺の月と新雪を彷彿させる少女、そして―――恰幅の良い、壮年の男。
「っ!」
「何故、戻ってきた、つるま―――」
「・・・ほう・・・?」
正気を失いかけた打ち除けの月。
瘴気を帯びた、紅い月に鶴丸は息を呑む。
恰幅の良い男もとい、審神者は舐めるように鶴丸を、そして鎚を見る。
十代半ばの幼い少女という容姿は審神者の琴線に引っかかったらしい。
鶴丸の思考が止まりかける。
しまった最悪の事態だ、
「かな、いやお前!今すぐ本丸から逃げろ!」
かなづちと呼びかけた己の口を慌てて閉ざすがそれも一瞬。すぐに彼女に警告する。
審神者という者は付喪神の名を縛る事で主従関係を結ぶ。
それは石刀の付喪神である彼女も例外ではない。
緊迫する空気を壊すように彼女はきょとんと翡翠の瞳を丸くするだけで、逃げる素振りを見せない。
くそ、と悪態をつきつつ鶴丸は彼女と審神者の距離を稼ごうと飛び出すが、それよりも審神者の方が早かった。
「"鶴丸国永"、"止まれ"!!」
「!!」
「"三日月宗近"、お前もだ!"止まれ"!」
「ぐっ」
「鶴丸のおにーさん?其処の青いおにーさんもどうかしたんですかっ!?」
彼女は真っ白だ。
雪国育ち、ずっとあの雪山にいたから世界をよく知らないのだと、そう言っていた。
―――ああ、だから。
彼女は悪意というものにひどく鈍感なのだ、と鶴丸はこの時漸く思い至った。
悪意に鈍感で、純真無垢。
裏切りも人の浅ましさも何も知らない、身も心も真っ白な石刀。
その事がひどく羨ましくて、妬ましくて―――そのままでいてほしいと思ってしまう。
「にげ、ろ」
「つるま、」
「おい其処の」
「え?」
「初めて見る顔だな、もしかして新しく実装されたレア刀か?」
「れあ・・・?」
「しかも女士ときた。
やはり男より女の方が色々都合が良いな―――・・・おい"鶴丸国永"、"三日月宗近"。命令だ、"下がれ"」
「っ主・・・!」
「待ってくれ主!そいつは、そいつはちがうんだ!!」
言葉に霊力を乗せて自分達二人の付喪神を拘束し、体の自由を奪い、意志さえも拘束する。
鶴丸の脳裏には彼女が折られる未来が過ぎった。
横を見ると三日月宗近が精神が混濁しつつも必死に抑えようとしているのが分かる。
しかし現実は無情。
どんなに足掻こうとも鶴丸と三日月の体は部屋から縁側へと追い出されてしまった。
鶴丸と三日月の神格は他の刀剣よりも上だ。
しかし主である審神者の言霊は強力で一筋縄ではいかないのは分かっていた。
だけどあの石刀の彼女を逃がそうと鶴丸が言霊の呪縛から逃れようと力を込めた、その瞬間。
「ぎゃあああぁああぁぁあぁああっっ」
ボキンッと何かが折れた音、次いで襖が壊れる音。
自身を縛る言霊が解けたのと同時に崩れる三日月の体を咄嗟に鶴丸は支えた。
「こ、れは・・・」
「あ、あ、あーーー!!ご、ごめんなさい、わたし、そんなつもりじゃ――ごめんなさい、まさか貴方が此処まで弱いとは思わなくってーーっ!」
『・・・・・・』
男の矜持と沽券と自尊心―――その他諸々が彼女によって砕け散ったのを二人は確かに聞いた気がした。
確かに聞いた気がしたが、聞こえないふりをする事にした。
「あ、鶴丸のおにーさん!
おにーさん、何処に―――あれっ?どうしたんですか何かお顔の色が悪いですよ?
わたしが運びましょうか?」
「き、きみ・・・」
真っ白な少女に変わった様子は無い。
何処までも澄み渡った、森林よりも尚純粋な光を宿らせた翡翠の瞳を見た瞬間、強張った肩を撫で下ろす。
「そなた、何者だ・・・?」
一方で、最早上体を起こすのも苦痛な程重傷な三日月が口を開いた。
「おい三日月、」
鶴丸が非難めいた目を向けるも三日月はそれを黙殺する。
これだけは。
これだけは聞いておかなければいけない気がした。
翡翠と三日月模様の視線が交差する。混交する。交錯する。
会った事は無い。
だがその翡翠色にふと夜色の刀が何故か頭に過ぎる。
何故、何故。
顔立ちは似てない。髪の色も瞳の色も、仕草も。
だけど何かが引っかかる。
その何かが、三日月の心を駆り立てる。
『三日月、―――』
目の前にいる翡翠の瞳と、最期に見た蒼穹の瞳が、何故、何故―――重なるのか。
「わたしですか?わたしは―――」
純粋無垢。純真無垢。純情無垢。
問われた言葉に、彼女は素直に答えた。
いっそ残酷な程素直に。
「わたしは四季崎記紀が作った完成形変体刀十二本が一本、"双刀・鎚"です!」
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