刀語×とうらぶネタ5

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しゃりん、と金属の音が一つ木霊する。
肉を斬る感触に僅かに眉間に皺が寄るが、どうにかして割り切らせる。

私が敵を斬らないと後ろにいるあの女の子が危ない。
戦場に立ったことが無いのはすぐに分かった。
あの怯えようでは満足に逃げる事さえも適わない。


―――守る者がある奴は強い。


"斬刀・鈍"の最後の所有者、宇練銀閣はそう説いた。


―――何かを守りたかっただけなのに、守るべきもんが俺には、これっくらいしかなかったんだ。


あの人はそう言って戦って闘って、そしてその生を終わらせた。
・・・そんなあの人の唯一無二の刀であった私が出来る事は―――。


「・・・やれやれ、二度と目覚めるつもりは無かったのですが・・・」


鍛刀部屋にいても尚響く戦闘音に鈍が小さく呟いた声はかき消される。

「・・・まだ敵がいるようなので私は様子を見てきますね」

口角を上げて少女に向かって笑みを浮かべる。
しかし、上手く笑えていなかったのか、審神者の表情が強張ったのを鈍は的確に感じ取る。

"斬刀・鈍"は瞼を閉ざしているから審神者の容姿もその表情も分からない。
だけどその者が纏う空気を読み取る事は出来る。
だからこそ、鈍は敵意も殺意も害意も手に取るように分かるのだ。

"斬刀・鈍"。
かつて千人切りという偉業を成し遂げたその刀の斬れ味は、かの伝説の刀鍛冶が命名したその名とは裏腹に、衰えた様子は微塵も無かった。



―――・・・ただ俺も、何かを守りたかっただけだよ。


脳裏に木霊する、かつての主の声。
何かを後悔しているような、感情を持て余しているかのような声が脳裏に蘇る。


・・・ならば私が、何かを守りたかった貴方に代わって守りましょう。
あの時は出来なかったけれど体を得た今の私なら、きっと出来るだろうから。


そうして彼女は鍛刀部屋に迫りくる敵を【零閃】で斬り伏せた。
―――それを、小さな天狗と濃紺の月に見られているとも気付かずに。

  ■■

しゃりん、と音が鳴る。
その音と同時に砂と還る敵を見て、三日月と今剣は其処でようやくあの刀が倒したのだと気付いた。
身体能力、動体視力と共に人間以上とされる刀剣男士達の目をもってしても、その刀が振るった軌跡さえも見えなかった。

―――恐るべき速度の居合抜きだ。

下手にあの刀剣の間合いに入り込めば最後、胴と足がさよならな未来は確実だ。

今剣の背中に冷たいものが伝う。


あの黒い刀は此方を向いていない。
正体不明、腰に差している刀を見ても敵味方さえも不明だ。
今剣はどうしようかと目線だけ隣りにいる三日月を見た瞬間、不覚にも止まってしまった。


「み、」
「っ鈍・・・?」

普段ほけほけと笑う姿も、戦場で見せる険しい表情も、その美しい顔に無く、あるのはただただ迷子のような表情。

まるで母親を探す幼子が、ようやく母親を見付けたような、そんな表情。


「鈍、・・・?そなたは鈍なのか・・・?」

三日月は一歩ずつ正体不明の刀に近付いていく。
今剣はそんな三日月を止めようと声を荒げた。

「っ三日月!」
「貴方は、誰ですか?」

今剣の悲鳴にも似た声と、正体不明の刀が此方を向いてそう尋ねた声は奇しくもほぼ同時だった。
そして三日月が何かに傷付いたような目をしたのを、この時今剣は気付く由も無く―――気付いた時には相手の刃の切っ先が眼前に迫っていた。

「え、」
「っ今剣!鈍!」
「―――"零閃"」

しゃりん!

再びあの金属音が鳴る。
それが鍔鳴りだと気付く頃には今剣は三日月の背中に庇われていた。

「・・・これは驚きました。
私の"零閃"を衣一枚で避けるとは」

そう嘯く正体不明の者を今剣ははっと三日月を見る。
依然背に庇われていてどうなっているのかは分からないがこの刀剣が言う通りならば、三日月の狩衣が斬られたという事だ。


この刀は一体なんだ。
目を閉じているくせに此方の動きを把握している上に太刀とは思えぬ、短刀さえも上回る機動力。
厄介な事この上ないが、三日月はこの刀剣を知っているという点が気になる。
・・・かつて何処かで知り合ったのだろうか。


「鈍頼む、話を聞いてくれ・・・!」
「・・・私の銘を知っているようですが、私は貴方を知りません。
貴方方があの青い幽鬼の仲間だと言うのならば―――容赦は、しない」
「な、ちが、」

青い幽鬼。
三日月にとっては敵であり仇でもある。
今でも覚えている。
光を失っていく空色の双眸を、消えゆく身体を、か細くなっていく最期の声を。


「っだまってきいていれば、いいたいほうだいですね!
ぼくも三日月もけびいしのなかまではありません!
すこしはこちらのこえもききなさい!」
「い、今剣、」
「・・・検非違使・・・?」


今剣の声に鈍は反応する。
眉間に皺をよせる彼女は抜刀した状態では無く、刀に手を添えたところで止まっている。
それだけで彼女がいかに抜刀術を得意としているのが分かる。

―――間合いは三歩程。
それが彼女の絶対領域。


三日月が何かを言おうとした口を開いた瞬間。
第三者もとい彼らの主である審神者が鍛刀部屋から姿を現した。

「その声は、今剣?今剣なの・・・!?」
「審神者様、まだ廊下側は危険です!新しい刀剣様がお戻りになるまでは鍛刀部屋にいて下さいいいいい!!」
「あるじさま・・・!?」

どたどたと転がるようにして廊下に出てきた審神者は涙と嗚咽を必死に耐えていて、十四歳の少女がそれをするのは非常に心苦しいものだった。

そして。
本丸襲撃から数十分後。
検非違使全員、刀剣男士と正体不明の刀剣により殲滅されたのだった。


  ■■


「主は、『刀狩令』というものをご存知ですか?」

本丸が落ち着きを取り戻した頃、大広間にて長谷部が不意にそう尋ねたのを皮切りに、戦国時代を生き抜いた刀達を筆頭に緊張が走った。

「・・・刀狩令って、豊臣秀吉が行ったっていうあの?」
「はいその刀狩令です」

「・・・かつて戦国を支配したと言っても過言ではない刀鍛冶が一人おりました。
素晴らしい出来と特異な機能を持つ"変体刀"と呼ばれる彼の刀は最終的に千本にも達し、そのすべてを手中に収めれば戦国の世を思うがままに支配出来るとまで言われました」
「支配、ってそんなの、」
「はい、普通なら絵空事だと鼻で笑ったでしょう。
しかし当時の武将達はこぞって所有する彼の刀の数が大名としての格を示す基準にし、自然と武将たちは彼の刀を求めました」
「・・・でも何処にもそんな刀のことは載ってなかったよ?」
「・・・・・・・・・それは、」

困惑の色を示す審神者に対し、説明をしていた長谷部は此処で口を閉ざした。

違う。
あくまでもそれは"表"の歴史であると刀剣達は知っている。
後に人間達は次第に四季崎の変体刀の存在は後世に伝えていくのはあまりにも邪道であり反則であると気付いた。
故に、あらゆる文献も含めて闇に葬ったのだ。

「・・・その刀鍛冶の名は"四季崎記紀"。
あの刀剣は、千本という数ある変体刀の中でもより完成度の高い"完成形変体刀"十二本が一本・・・あの三日月宗近含む天下五剣よりも重きに置かれ、更にはその当時最も武士達から求められた刀の一振りです」

長谷部のその言葉に審神者はその黒曜石の双眸を瞠目する。

その言葉が意味するモノ。
それは、つまり―――。


  ■■

某日、某掲示板にて。

【我】三日月宗近専用スレ【天下五剣ぞ】







161 ななしの月
流れを切ってすまん。
話を聞いてほしい。

162 ななしの月
どうした。

163 ななしの月
俺が困っている。

164 ななしの月
ははは、語って良し。

165 ななしの月
いや、まず何と言って良いのか・・・。
大分落ち着いたと思ったがまだ混乱しているらしい。

166 ななしの月
そんなに深刻な問題なのか。

167 ななしの月
大丈夫なのかそちらの俺は。

168 ななしの月
骨喰の記憶が無い事か?だとすればそちらの俺は顕現して間もないという事になるな。
ああ、それとも見習いか?

169 ななしの月
いやもしかしたら最近実装された数珠丸殿かもしれん。

170 ななしの月
まずこれを見てくれ
つ【両の瞼を閉じた、長い黒髪と黒い和服が特徴の中性的な女性の写真】

171 ななしの月
どれ・・・、・・・・・・・・・・・・・・・

172 ななしの月
ほう、しゃしn

173 ななしの月


174 ななしの月


175 ななしの月


176 ななしの月


177 ななしの月


178 ななしの月


179 ななしの月


180 ななしの月


181 ななしの月


182 ななしの月


183 ななしの月


184 ななしの月


185 ななしの月


186 ななしの月


187 ななしの月


188 ななしの月


189 ななしの月


190 ななしの月
・・・うん?

191 ななしの月
な、

192 ななしの月
あなやあああああああああ

193 ななしの月
あなやあああああああああああああ

194 ななしの月
あなやああああああああああああああ!!!!!!!!

195 ななしの月
アナヤァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

196 ななしの月
ああああああああああああああああああああああ

197 ななしの月
なまくらあああああああああああああ!!!!!??






・・・この時、このスレを見ていた三日月が心から絶叫するのを全国にいる審神者達によって目撃されたという。
その際、全ての審神者達が口を揃えて「あんなに取り乱した三日月は初めて見た」と証言したのは余談である。
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