人を殺してしまった。
彼は冥い雨の中、何度も後ろを振り返りながら走った。
誰にもまだ見つかってない。
でも誰かに追われてる気がして。
まだ手の中にかたい感触が残ってる。
鼻の中に生ぬるい臭いが残ってる。
彼は裏通りに逃げ込む。
ここに入れば誰も追ってこないけど
ここからは二度と出られない。
彼はそれでも、ためらいなく走り込む。
何人かの少年たちが、狭い道の両側に立ったり座ったりしてボンヤリしている。
彼は息を切らして、その中に紛れ込んで座った。
ここならまだ安全だ。もう少し奥に入ったらどんなに荒れてるかわからない。
時々彼らより年を重ねている男の人がやってきて、彼らのうちの一人を連れて行った。
彼は不意に危険を感じた。こいつらは買われているんだ。
彼はそろりと逃げ出そうとした。すると腕をつかまれた。小さく悲鳴をあげて振り返ると、きれいな顔の青年がいた。無表情なその顔は冷たく彼の殺人と言う罪を見抜き咎めるようで、彼は奥歯をかみしめたが、青年は突然口端を上げて微笑んだ。目は笑わずに、口だけで、淫靡に。

「そいつがもし、どれだけ汚してもきれいなままだったら、どうする?」
青年が彼に尋ねる。彼は青年と一緒に住んでいる。彼は答えない。ただ心の中で呟く。
「きれいなものは、殺してやる」
むっつりと黙った彼を青年は眺め、紳士的に笑う。彼は青年をいとしく思う。そうだ、僕はこいつとずっと一緒にいよう。僕がこいつを殺してしまうまで。






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