冷蔵庫の中で目が覚めた。
何年、何百年、眠っていただろう。冷たい指に熱が戻っていく。
陽の届かない地下だった。先へ続く通路の、ところどころに明かりがある。大昔の灯籠みたいな形だけど、電気で動いている。
明かりに引かれて羽虫が飛んでいた。左手でつかまえる。手のひらを開くと、虫は生き物ではなく機械でできた玩具だった。
真っ暗な洞窟の中を進んでいく。
大きな歯車が剥き出しになっているけれど、錆び付いていて、長い間動いた気配がない。
錆は赤く、また濃い緑に輝き、鉱石のようで美しかった。
宝石のはまっていた部分が欠けた指輪が落ちていた。
拾ってみると、それは情報端末だった。暗い壁に映像を投影する。君の画像と、君の書いた文章が映し出された。日付は10年前のものだ。
10年前、君が僕に宛てて書いた手紙。10年前には君はここにいたということか。
画面の向こう側の君は答えず、ただ微笑んでいる。
僕は手紙に書かれた場所へ向かう。洞窟は上へ向かっているようだ。
やがて僕は外の世界へ抜け出る。生温い空気を真っ先に感じた。
世界は春だ。そして陽はいつまでも沈むことなく、地平線を這うように回り続けている。月も沈むことなく、ずっと同じ高い場所にとどまり続けている。白夜と白い月。白い春。
たくさんの星が落ちてでこぼこに抉れた地面の向こう、水銀の海に広がる海市の彼方から、君が僕のもとへ歩いてくる。



第39回フリーワンライ参加作品
使用お題:白い春 10年前の手紙 画面の向こう側の君 欠けた指輪 冷たい指







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