明け方は皮膚が薄いから
 残っていた夜が染み込んできて
 私の中の水を押し上げる
 涙は糸になり
 私は繭になって眠る


 暗闇に垂らされた一筋の糸
 それは誰かの涙だから
 伝っていけばたどりつける 悲しみの先へ


 夜が私の表面をつまみ食いするから
 私と世界の境界は希薄になる
 すみやかにその点線に沿って私を切り取ってください


 眠れない真夜中三時
 世界は私を置き去りにして終わりつつある
 心躍るからっぽの寂しさ 不健康で憂鬱な愉悦
 もう絶望さえできなくなった


 明け方の襞に顔をうずめる私は
 あなたの涙を奪ってしまった
 熱を侵してしまった
 しっとりとした体温を汚してしまった


 闇に垂れる一筋の涙に群がるのは
 泣くことを忘れた無数の人びと
 生まれてすぐに出来たことなのに
 今ではそれも難しくなっている
 それでも人びとは涙が希望だと
 泣くことは生きることだと知っている本能で
 触れたら切れそうなその涙にしがみつく


 私は私の繭の内側で
 一筋の糸を紡ぎ出す
 まるで殻座のような
 臍の緒のような糸
 その糸を通じて外に呼びかける
 もしもし、そこに光はありますか






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