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たしかに骨のようだ、と家の裏でコウはスイにもらった流木を見つめた。
とても白くてすべすべした流木。元が木だったとは思えない。むしろ貝殻に近い質感だ。
骨に例えるならば、人間の骨ではない。魚の骨でもない。もっと大きくて、見たこともない骨……舟で沖に出たとき、ごくたまに見るあの大きな魚なら、こんな不思議な骨を持っているに違いない。
コウはその大きな魚が好きだった。深い青の波間に見え隠れする黒い頭。凝縮した夜が漂っているようだ。不気味だが惹かれる。ぶ厚そうな肉を触ってもみたい。時折、頭の天辺から勢いよく水を吐く。コウは、あの大きな魚はああやって海の水を生み出しているんだ、と考えている。
コウは流木を鼻に押し当てた。海の香りがするかと思ったが、それよりもっと深い、花のような女のような、何とも例えがたい香りがした。
コウは逡巡し、結局思い切って流木の端を切り取り、道具を使ってそれを削り始めた。いつも貝殻をそうしているように、丁寧に粉にしていく。貝殻よりは柔らかいけれど、粉にするには力が要り、コウの額に汗が滲む。
流木の粉を水や油と一緒に練り、型に詰めた。
数日寝かせてから、コウはそれらを型から取り出し、いつもは魚を干す家の裏手に並べた。
香を手のひらに乗せる。一見、貝殻で作ったものと変わりないように思える。しかしコウはいささか感動していた。燃す前からかぐわしさが伝わってくる。
――なんだ? 香を作っているのか。
新しい香の香りに潜っていたコウを、リャンの声が引き戻した。リャンは店先ではなく、コウの家の裏にまで勝手に上がりこんできていた。
――においがいつもと違うようだな。新しい香か?
リャンはコウの手のひらに顔を近づけ、香を嗅いだ。
――いつもと違う材料で作ってみたんです。
――ずいぶん風変わりなにおいだが、悪くない。大陸からの渡来品に似ているな。それ、売るつもりはあるか?
――……金になるのなら。
――気に入ったんだ。試しに買ってやる。
そう言うとリャンは、普段より割り増しの硬貨を放った。コウはあわててそれを受け止めると、できたばかりの香を木箱に詰めてリャンに渡した。
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