「おじいさん、夜の服を受け取りに来ました」
 干された洗濯物の波から、少女の顔が覗いた。
 仕立屋の少女が呼んだのは洗濯屋の主人のはずなのに、夜の服を抱えて出てきたのは少年だった。
「これ、ハリじいに頼まれてたものだけど……」
 少年は両手に群青色の服をたくさん抱えていた。少女は少年を不服そうに見たが、どの服もきちんと洗濯されアイロンをかけられているのを確かめて、機嫌を直した。
 少年はうつむきながら、夜の服を受け取った少女の服をちらりと見た。このきらびやかな群青色の服を作った当人の服は、質素な生成の作業着で、ところどころ薄く染みが付いている。しかし汚らしいといった感じはなく、ほつれた箇所は丁寧に直されている。長い間使いこまれているのだろう。
「では、今度はこれに洗濯とアイロンをお願いします」
 少女はそう言って、少年の手に空色の服をどっさり渡した。出来立ての晴れの服だ。
 少年はそのなめらかな生地を手に取り、ためつすがめつ眺めた。腕を通したなら、水のように体にぴったりなじむだろうな。
「ちょっと、服が一枚足りないわ」
 少女の叱責で少年は我に返った。少女に返した夜の服の数が合わなかったのだ。
 少年はあわてて辺りを見回した。物干し竿の端に、まだ群青色の服が残っていた。少年は服を下ろし、「今すぐアイロンかけます」と言った。
「でも、おじいさんでないと……」
「大丈夫です、ぼくはもう見習いではないので」
 少女の懸念に返答しながら、少年はてきぱきとアイロン台を用意した。慣れた様子で台の上に服を広げ、アイロンを温める。先ほどまで自信無さげだった少年の目がぎらぎらとラインストーンのように輝いたのを、少女は見た。
 少女はまた、少年の器用な手つきを見つめた。少年は夜色の布にアイロンを滑らせた。白い蒸気がしゅーっと音を立てて空へのぼっていった。蒸気は空高くでかたまり、やがて飛行船のように立派な雲が二人の真上に浮かんだ。

(続)



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