フィオレが居ないだって!?グリフィンドール寮から上がった声と同時にガタガタと慌ただしく立ち上がった二人の青年は、床に這い蹲るようにして少女の姿を探した。それに続いて、未だ困惑気味であった生徒達も自分の足元や身の回りに目を配り始める。
何やらただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、所々で赤子の泣き声が上がり、それにつられてまた別の赤子が泣き始め…とうとう教室は騒々しさで埋め尽くされた。すっかり気が滅入ってしまった様子のスネイプは何も言わずにふらふら自室へ閉じこもってしまった。
「ご、ごめんなさいっ、ドラコ…!わたしすっかり」顔を真っ青にしたナマエが今にも泣き出しそうな表情でドラコに駆け寄った。
「良いんだ、ナマエの所為じゃない。君に任せきりだった僕にも責任がある」
とにかく今はフィオレを探さないと。そう言いかけたドラコの目に、ほんの少し開いている後方の扉が写り込んだ。…まさか
「ナマエ…外だ!」
「え?」
ナマエの腕を取って教室の外へ飛び出したドラコは、通りすがったゴーストを問い詰めた。
「ここに来るまでに、小さな女の子と会わなかったか」
「ええ。会いましたよ」
「そうか……何だと!?」
「会いましたよ」
「それで、どこへ向かったんだ!」
恐ろしい剣幕で噛みつくドラコを物珍しそうに眺めたあと、ゴーストはホッホッホと笑いながら小首を傾げた。
「さて…奥の階段へ向かったような…はたまた厨房の方へ向かったような」
「くそ!」
笑いながらどこかへと消えていったゴーストを恨めしげに睨みつけているドラコに向かって、ナマエは意を決したような表情で口を開いた。
「二手に分かれて探しましょう」
「私が階段の方を探しますから、ドラコは厨房の方を探してください」
「分かった」
「それじゃあ、後で」
「…ナマエ!」
駆けだしかけたナマエの背中に向かってドラコは呼びかけた。ナマエは振り返らない。
「な、…何でしょうか」
「こっちへ来い」
「だ、ダメです。今はフィオレを探さなきゃ…わたし」
「いいから来い」
それでも動こうとしないナマエの腕を掴んで引き寄せれば案の定倒れ込んできた身体。驚いて上がった顔と、黒真珠の瞳から今にも零れ落ちそうな涙を見て、ドラコは思わず微笑んだ。
「何て顔してるんだ」
「な、泣いてません」
「誰もそんな事は言ってないだろう。それに、泣いてる」
どうしよう。の気持ちでいっぱいいっぱいであろうナマエを優しく抱きしめて、その背中を手のひらで軽く叩いた。
「大丈夫 だ」
僕らでフィオレを護ろう。ドラコの暗示がかった台詞を聞いたからかナマエは肩の力がスウと抜けていくのを感じた。そうだ、わたしたちで、護るんだ。
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