スリザリン寮生ドラコ・マルフォイは今非常に虫の居所が悪かった。長い廊下をズンズン進むその表情はさながら鬼の様だった、と、彼とすれ違った者が皆口を揃えてそう言うほどに。
彼の不機嫌パラメーターは上昇の一途を辿っていたのである。


「まったく、どいつもこいつもッ…」


その続き、どうなってるんだ!という叫びは辛うじて心のうちに収める。
右を向いても左を向いてもそこら中にカップルらしきペアが身体を寄せあっているではないか!このクソ寒い中そんな光景を一人で、しかも行く先々で見せつけられているとなればドラコの苛立ちが募るのも無理はない。彼らの間をわざわざ肩を張って突き飛ばしながら通過したのも一度や二度ではなかった。

「決めたぞ。今から僕の前でイチャついた奴には鼻曲がりの呪いをかけてやる」

「あら、ドラコじゃない!」

「……何だパーキンソンか」

「何だって何よぉ!」

「…お前、何持ってるんだ?」


ドラコはパンジーが大事そうに抱えている袋に気付き、訪ねた。パンジーはほんのり頬を染めて、それから焦ったように包みを背中に回した。

「べ、別に何でもないわ!それじゃあねドラコ!」

そそくさと足早に立ち去ってしまったパンジーをぽかんと見つめた後、ドラコは溜息を吐いた。もう苛立っている事にも疲れてしまった。

せっかくの日曜に、僕は一体何をやってるんだ。


「はぁ」

戻るか。雪を踏みながら、ドラコは力なく歩きだした。







ガチャリ。取っ手をひねると扉が開いた。おかしい、自分は確かに鍵を閉めたはずなのに!嫌な予感が頭をよぎり、勢いよく中に飛び込んだ。

「ナマエ!!」
「わ、ド……ドラコ?どうしたんですか、そんなに慌てて」

どうやら無事らしい。肩を下ろすドラコは、何やら甘い香りがすることに気が付いた。これは……

「チョコレート?」

にこりと微笑んだナマエはドラコの手を引いて、テーブルの所へ案内する。

「どうですか?フィオレと二人で作ったんです」

テーブル上に並ぶのはチョコケーキにチョコクッキー、そして暖かそうなココアだ。溶けたマシュマロも浮かんでいる。

「……あの、ドラコ」
唖然としているドラコに、ナマエが恐る恐る訪ねた。

「もう怒ってないですか?」
「……な、僕は、別に」
「さっきハリーとロンが来て、ドラコがカンカンだったって」

アイツ等め、余計な真似を!

「でも、これを見たらすぐに機嫌も直るから!ってそう言ってたんですけど…」
「別に怒ってないさ…ただ」
「?」

「僕は君に、嫌われたのかと」


言ってから、なんて情けないことを言ってるんだ!と思って恥ずかしくなったが、ナマエは真面目な表情で大きく首を振った。


「嫌うわけないですよ!だって、だ」

そこで言葉を紡ぐのを止めたナマエの頬は真っ赤に染まっている。ドラコは悪戯に笑って、ナマエの熱い頬を両手で包んだ。


「だって、何だ?」

「だ………だって…
 だいすきなんです、から」

ドラコは幸せそうに眼を細めてナマエを抱きすくめる。彼女の額にキスをして、そのまま

「はーい、フィオレちゃん見たらダメでちゅよー」
「ぁーう、ロぉ」
「僕らと遊んでようね」
「ぁーりー」
「パパとママはらぶらぶでいいでちゅねー」

ドラコは大慌てでナマエから離れ、辺りを見回した。二人の死角になったリビングのソファでくつろいでいたのは、ハリーとロンである。

「な、何でお前らそこにいるんだ!」
「僕らはずっとここにいたんだけどね」
「気付かずにイチャイチャし始めたのはそっちだろ!」
「フン!ウィーズリーには覗きの趣味もあったのか」
「何だと!?大体お前は存在がフィオレに悪影響だ!」

ギャースカ喧嘩を始めるロンとドラコを、少し離れたところで見るナマエと、フィオレを肩車するハリー。

「どうですか?二人も一緒に」
「ううん。ハーマイオニーが図書館で待ってるんだ。僕らは帰るから、今日はマルフォイとゆっくりしなよ」
「そうですか…」
「ねえ、ナマエ。知ってるかい?」
「え?」

「マルフォイのやつ、君がいないとてんでダメみたいだ」


おいポッター!お前何コソコソ言ってるんだ!そうがなるドラコを見た後肩をすくめて、ハリーは笑った。ナマエもくすりと笑う。

きみがいないと、
「…ふふっ」

何だかそれは、とても嬉しいことのように感じた。

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