最近うちの近くに引っ越してきた男の子は、わたしが思うに間違いなく150パーセントくらいの確率で、宇宙人です。

わたしがそう言うとパパはHAHAHAと笑って流しやがるしママにいたってはネット通販に夢中だし弟は「じゃあちょっと姉ちゃん確かめてくるついでにコンビニでアイス買ってきて」とあわよくば姉をパシろうとする有様だし。

こうなったら、と私は使い捨てカメラと虫あみとロープを持って家を飛び出した。
真実は、この手で掴んでやる!!


――

私はまず彼の住む家のマンションの茂みに身をひそめて、彼が出てくるのを待った。
あ、彼と言うのはトム・リドルという名の宇宙人で、パッと見有り得ないくらい整った顔をしている。私は17年間生きてきたけどあんだけ綺麗な顔面をお目にかかった事はかつて一度もない。
(あ・・・出てきた!)

黒いリュックを肩にかけて悠々と現れたリドル君は、手元の本に目を落としながらも道を逸れることなく道路の脇を優雅に歩行している。
私はポケットからメモを取り出してさっと考察を綴った。

(考察)
・あのリュックには宇宙と交信するための何かが入っているに違いない。
・蛇足にならないのは髪の毛に隠れている第3の目がるから!もしくは超平衡感覚が発達しているからだと思われる。
・英語びっしりの本読んでた。
・通りすがりの日本人に読解させない為の配慮と思われる

メモ帳をぱたんと閉じて私はリドル君を追いかけた。
そして相変わらず本から目を離さない彼が行き着いたのは、人でごった返す神社だった。
リドル君は参拝の人の列に並ぶと何を考えているのか全く読めない顔でポケットから紙幣を取り出した。私の2.0を誇る視力が捉えたその紙幣には0が4つ並んでいた。宇宙人にはお金の価値が分からないらしい。

リドル君はきっと何かお願い事をしにきたに違いない。
もしかしたら、地球の、しかも日本の文化を探りに来た友好的宇宙人なのかも、と私の中でそんな疑惑が湧く。
私はさりげなくリドル君の後ろに並び、願い事口に出して言わないかなーとほんのちょっと期待して耳を澄ませた。


「マグルが絶滅しますように」

思いの外聞こえた。聞こえてしまった。
紙幣を賽銭箱に捩じりこんだリドル君の憎々しげな言葉にすっかり固まってしまった私の横を、鐘を鳴らし終えたリドル君が涼しげな顔で過ぎてゆく。
私は震える手でポケットからジュースを買ったお釣りの10円玉を取り出して賽銭箱に投げ入れ、手をすり合わせて「世界平和」を何重にも重ねてお願いした。(マグルって何!絶滅とか怖すぎるんですけど・・・!!)10円玉達が10000円に匹敵する働きを見せてくれるとは思えなかったが、私はマグルという国だか生物だか分からないものの運命を彼らに託した。

かなり怖いけどリドル君の尾行を続行する。
人混みをすり抜けて神社の裏へと回ったリドル君。いよいよ動きが怪しい。きっと母星と交信する気だ。
私は安全と思われる距離を開けてリドル君の後を付けた。カメラを握りしめる手が汗ばむ。シャッターチャンスだけは、死んでも逃すまい!


神社の裏にある雑木林へ何の迷いもなく進んでいくリドル君。私は心に打ち広がる恐怖を頭をふって振り払い、その後をつけた。
林はだんだんと上り気味になっていき、10分ほど歩くと体力の無い私はかなりのダメージを蓄積してしまっていた。今この状態で襲われたら間違いなくKOされる。
やがて、薄暗い道が開け、小高い丘に出た。
黄緑色の葉で一面を覆われた丘の中腹に突っ立っているリドル君はぼんやり空を見上げていた。
私はさっと木の陰に隠れ、再びメモを取り出す。


・ついに彼が宇宙と交信を始めた!
・今からきっとあの現象が見ら

「あ!」

私の握っていたメモ帳がふわりと宙に浮いた。ペンもまた然りだ。
―――そう、私は先日彼が物を浮かす瞬間を目撃してしまったのだ。もちろん、彼が宇宙人だという疑惑もそれを目にしたが故である。


「やあ」
「!!!」

ふわふわ浮くペン達に気を取られていると直ぐ傍で声がした。私は飛び上がって驚き一目散に駆け出した。(や、殺られる!)しかし足は地面を蹴る事もできずひたすら空ぶっていた。そう、私も浮いていたのだ。

「うわ、う、浮いてる!!」
「・・・・・・へえ、僕が宇宙人ね」
「あ!」

リドル君の手には私のメモ帳が握られている。ちなみに表紙には「宇宙人リドル君調査ノート」と書かれているんで最早言い逃れはできない。


「冬休みにマグルの調査をしに来たはいいが、まさか僕が調査されていたなんてね」
「え・・・え!宇宙にも冬休みってあるんですか!」
「君バカでしょ」
「!」
今思えばリドル君は中々流暢な日本語を話している。
「翻訳魔法だよ」
君の分かる言葉で話してあげてるの。と、まるで私の心を読んだかのようにリドル君は教えてくれた。へえ中々優しいな宇宙人って。・・・あれ?


「まほう?」
「そう」
「超能力じゃなくて?」
「魔法だよ」

おっどろきー!
つまりリドル君は、宇宙人ではなく魔法使いだったというわけか。
どちらにしても凄い事に変わりはない。

「あの、リドル君、私と友達になっ」
「絶対嫌だ」
「!」
「マグルと関わるなんて吐き気がする。君みたいな馬鹿な子なら尚更ね」
「マ、マグル?私マグル?」
「そうだよ。魔法使いじゃない人間はみんなマグルだ」

マジか!じゃあ私ってリドル君にとって滅ぼしたい対象じゃないか・・!や、私だけじゃなくてママやパパも?そうなるとあの小憎らしい弟もだ。つーか私の知り合いほとんどじゃね?

「それはいかん!」
「煩いな」
「だめだよリドル君!」

リドル君はマグルのいいところを知らないからそんな事を言っているんだ。そうに違いない。
なら、私が教えてあげればいいんだ。

「リドル君、やっぱり私と友達になってよ!」
「嫌だって言ってるだろ」
「何でさ。新年早々一人でうろうろしてるんだからリドル君も暇でしょ」
「君と一緒にするな」

リドル君は私の持っていた虫あみをへし折った。あ、ちくしょう!

「もう怒った。友達になってくれなきゃ許さん」
「別にいいけど」
「やった!」
「違う、今のは許してくれなくてもいいって意味で」
「へっへーん。日本語は難しいんですぅ。武士に二言なし!友達確保!…それより私そろそろ地面が恋しいんだけど」

酷く面倒臭そうに舌打ったリドル君はポケットから杖的なものを取り出して一振り、私はべしゃっと地面に潰れた。
しかし打たれ強い私はすぐに立ち上がった。


「私はなまえ!よろしく、リドル君」
「宜しくする気なんてない」
「まあそう言わずに。明日はさ、近くの公園行こうよ!魔法使いの話を聞かせてね」
「嫌だ」
「リドル君ー」
「ついてくるな」

リドル君は宇宙人じゃなくて魔法使いだった。しかも冷たいしやたらと人を馬鹿にして来るし私達を完璧に敵視している。でも私はそんなリドル君とどうしても友達になりたくてうずうずしているのだ。
マグルの皆の命がかかっていると知っているけど、このわくわくはとても拭えそうにない。


「あ、リドル君、おみくじ引いていこうよ」
「何それ」
「今年の運勢が占えるんだよ。恋愛とか学問とか金運とか願望とか」
「(願望)・・ふうん」
「やる?」
「・・・しかたないな」

そしてリドル君はけっこう扱いやすかった。


新(しい)友(達)ができました

魔法:トム・リドル
 
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