「それでね、このヒロイン好きな男の子のこと一回フッちゃうんですよ!信じられます!?でもそれには理由があってね、この二人実は血のつながった」「失せろ」今日もクロコダイルさんはダンディに格好いい。

「嫌ですよ死ねって言うんですか!私に」
「死ね」
「それはそれで言うんだ」
「何故毎日俺のところへ寄ってくる。邪魔臭ェ、失せろ」
「そ…そんなに毛嫌いしなくても」

確かに毎日毎日クロコダイルさんのいる檻の前にパイプ椅子をセッティングして一日中お話したり眺めたりお話したりしてさんざっぱらウザがれてるけど…それが何か!?

「看守を好きになれってのが無理な話だろう」
「えええ…告白する前からフラれちゃった。血も繋がってないし二人を遮る壁は何もないのに」
「テメェ目ェ見えてんのか」
「いや柵はあるけども…でもこのくらい愛でいくらでも乗り越えられ」

「やめとけよォ!なまえ!」
どこからか飛ばされた笑い声交じりの文句になまえは顔を上げた。

「シャバじゃそいつの悪行は誰でも知ってるぜ!」
「そうそう。お前みたいな夢見がちな乙女にゃ不釣り合いだ」
「な、なんだと!?大体アンタ等が悪行うんぬん言うなよ!」

囚人に向かってシャウトしたなまえを、クロコダイルは細い目を眇めて見た。

「私にはね!見えたの!運命の赤い糸が」
「ああ、吹っ飛んだもんなお前。」
「ありゃ流石にビビったぜ」
「ハンニャバルも目ぇ引ん剥いていていてたな、ギャハハ」
「ええい、うるさい!笑うな!」

ギャーギャーと言葉をかけあうなまえと囚人たちを睨むように見続けるクロコダイルに、壁越しに女の声がかかった。

「不思議に思うわよね、初めは」
「…あ?」

声の主の姿を見る事は出来ないが、雰囲気で、微笑むのが分かった。

「私はジェリー・エバーズ」
「…聞いた名だ」
「そうでしょうね。昔はやんちゃしたわ」
「……なぜ囚人共はあの女の言う事を聞く。それも」
「親しげに?」

そうだ。クロコダイルが甚だ疑問に思っていたのはその点であった。
こんなフロアに投獄されたなら余程の危険人物が占めているはずだろうに。囚人たちがこの女に接する態度は、まるで仲間内のそれだ。

「何かの能力者か」クロコダイルがそう言うと、ふふっとまたもジェリーは笑った。
「いいえ。違うわ」
「なら何だ」
「彼女はね……暇なのよ。」
「は?」
「暇で、暇で暇で暇すぎて、誰かに話しかけられずにはいられないの」

檻の中から冷やかされて頬を膨らますなまえ。あまりに無防備すぎる彼女の頭に、檻の中から伸びてきた手はぽすんと置かれた。――その距離なら、その間合いなら、振り下ろして気絶させることも可能だろう。


「なまえは孤児なんだそうよ。理由は知らないけど、幼い頃からずっとこのフロアで遊んでたんですって」
「…」
「あの子が主任看守になったのはこの前。名前がダサいって嘆いてたわ」
「…まだガキだろう」
「ええ。それでも、強さは確からしいの。まあ、私達を力で屈服させようとしたことはないけど…こんなフロアを任されるくらいですもんね。強いに決まってるわ」

そこで、くるりと振り返ったなまえが「ああ!」と悲痛な声を上げて、光の速さでこちらへ移動してきた。流石にギョッとしたクロコダイルだったが、なまえが飛びついた先は隣の檻だ。

「だ、だめだよジェリー!クロコダイルさんを誘惑しないで!」
「やだ、してないわよ誘惑なんて」
「ジェリーと競ったらあたしなんてアリクイも同然なんだから…ううっ」
「アリクイって…泣かないでよ。ばかね」


めそめそと涙をぬぐいながら再びクロコダイルの檻の前に現れたなまえ。クロコダイルは柵の間から自身の腕を突出し、胸ぐらを掴んで引き寄せた。どよどよっと辺りから声が漏れる。
漆黒の瞳を大きく瞬かせたなまえに、クロコダイルは顔を寄せて、地を這うような低い声で言い放つ。

「俺を他の雑魚共と同等に見るんじゃねェぞ…。それにテメェと慣れ合う気なんざ毛頭無ぇ。惚れただ何だぬかす暇があるなら、囚人に殺られねェ方法でも考えとくんだな」
「だが断る!」

間髪入れずに言い放ったなまえ。クロコダイルと同じように腕を突き出して胸倉をつかみ、辛辣な言葉を紡ぎだす口を唇で塞いだ。
突如湧き上がる絶叫や、歓声の中、唖然と固まるクロコダイルからパッと離れたなまえは満足げに、しかし照れたように頬を染めて口を開いた。


「レモン味、ではなかったけど」

 なんだかすてきだ…!こうして、世間知らずな看守と何か色々疲れきるクロコダイルの物語は始まったのである。
 
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