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リヴァイ班に抜擢される少し前のこと。

私は深夜の訓練場に忍び込み、対巨人への仮定訓練に励んでいた。
それはその名の通り、巨人と対峙した時のあらゆる状況を仮定、想像して行う私考案の自主訓練だ。まあ、それを知っているのも私だけなのだけど。



右足首の腱、左膝裏の腱、首の後ろに指したアンカーを素早く巻き取り、うなじを削ぐ。
「はあっ、」
その場に膝をついた私は、刀傷だらけの木を見上げて目を細めた。
「ううん、浅いなぁ」
すぐさまポケットからノートを取り出して内容を書き込む。
「動かない敵相手に21秒だから、実際の巨人だったらたぶん46秒くらいで、奇行種となると………80秒は越すなぁ」

アンカー刺してからの回収スピードはそんなに遅くなかったから、最初の二打撃に時間をかけすぎたんだろうか。
「よし、もう一回」
「おい」
地面を蹴った瞬間かけられた声に、激しく動揺した私は全力で木にぶつかった。
鼻血がでなかったことが唯一の救いである。

「何してんだ、馬鹿」
「ぐっぅぅ、……」
顔面を覆ってうずくまる私の前にいるのは、ほぼ間違いなくリヴァイ兵長だ。夢じゃない。でもさすがに、今回ばかりは夢であってほしかった。

「見せてみろ」
「だ、大丈夫です……!」
「いいから見せろ愚図」
「あ、」

顎をつかまれて顔をあげさせられる。たり、と鼻から何かが垂れるのを感じた時には、兵長の眉毛はすっかりひそめられてしまっていた。
「俺の顔見て鼻血なんて出しやがって」
「いや兵長。」
「冗談だ」

差し出されたハンカチを受け取って、私はおそるおそる兵長を見上げた。
「怒らないんですか……?」
「何がだ」
「こんな時間に出歩いて、立体起動装置を持ち出して、訓練場の木を切ったりして……」
言葉尻がどんどん小さくなっていってしまうのは、話しながら自分の行動がどんな処罰に値するか考えたためだ。

「お前の成長の理由はここにあったわけだ」
木の傷跡を撫でながらぼそりと呟いた兵長。
「え……?」
「いや、夜更かしして訓練でうたたねしてやがるわけでもねぇなら、俺が怒る道理は一つもない」

水を差して悪かったな。
そう言って立ち去っていく兵長の背中を、私は敬礼もせずぼうっと見送った。

「………どきどき、とまんない」

服の袖で鼻血をぬぐって、私はハンカチを胸に抱き締めた。
好きです。
大好きですよ、兵長。
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