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自分の部屋に引き込もって、隅の方でうずくまる。トラファルガー、トラファルガー、トラファルガーあの野郎!!!
見えないあちらの自分の手をがむしゃらに動かしても、すぐに押さえつけられてしまう。(たぶん)
まだ、痛みを与えられていた方がよっぽどいい。

「ぅ、」

手の甲を指の腹で撫でられる。
拘束するために絡んだ指の先が、ぬるりと何かに触れた。

「や、っ……やめ、」

声に出そうが、当然それは相手に届くことはなく虚しく宙に消えた。私は目をぎゅっと閉じてその奇妙な感覚にひたすら耐える。飽きれば終わる。極力、反応しなければいいんだ。

部屋の扉が開いたのはその時だ。

「オイ、なまえ」
「!!……キッドさ、」
「いきなりどうしたテメェ、何か……」

キッドさんには絶対気付かれまいと無理やり平静を装って笑うが、今もなお右手を襲うぞわぞわとした感覚に気をとられ、何を話せばいいのか全く言葉が出てこない。

「あ、あのあの、……っぅ、…あ、の、ひゃ!」

中指の先に舌が巻き付き、付け根までくわえられたと分かってますます顔が紅潮した。かり、かり、と時々当たっているのは歯だろうか。
もういやだ、じんわりと目に涙が滲んで、キッドさんを見上げると、彼はかつて無いほど凶悪な顔で私の、本来右手があるであろう場所を睨み付けていた。

「………あの野郎、殺す」


有言実行は厭わないと言わんばかりの顔つきで部屋を出ていこうとしたキッドさんの背中に飛び付いて引き留める。
「だっ、だめです!!」
今また島に出ればどこで海軍と鉢合わせするか分からないし、何よりキッドさんは怪我をしているのだ。

「離せ……!とりあえず殺さねェと気がすまねぇ」

私のために怒り狂ってくれていると思えば、不謹慎に嬉しくて、でもやっぱり行かせてはいけないと常識ある私が告げる。

「わ、私が少し我慢すれば済む話です!」
「あぁ!?テメェは嫌じゃねぇのか!!自分の体好き勝手されて」
「いやじゃないわけないでしょ!!!明日必ずぶん殴りま、っ、いづ」

噛まれた!
小指の付け根あたり噛まれた!!
立て続けに手首にもヂリッとした痛みがはしる。

「畜生、!」
「え、わ……!」

腕を掴まれて、ベッドに突き飛ばされた私は、混乱する思考が落ち着く隙もなくキッドさんに荒々しくキスをされた。
呆然と、事態が飲み込めずに固まる私を見下ろしながら、キッドさんは眉をひそめた。

「キッ、」
「“そっち”なんざ、気にする暇もやらねェ」

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