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「馬鹿馬鹿しい」吐き捨てた声も、震えて聞こえた。ジェイダーの表情から見て取れたのは、動揺よりも、困惑だった。

「俺に、そんなものは」
「必要ないのかもしれない。でも、私はもう抱いてしまったもの」

ハンナは微笑んだ。

「待ってるわ。いつまでだって……」
そう呟きながらジェイダーの耳元に息を吹き込んだ。それによって意識を手放したジェイダーの身体を支えて、ハンナは私達に向き直った。




「ジェイダーのかわりに、あなた達に謝るわ。―――ごめんなさい、酷い事をして。それに」
ハンナと視線が交わる。
私はキッドさんの隣で、じっと言葉の続きを待った。

「なまえ。……わたしの恋を、見届けてくれてありがとう」
「……うん!」
「結局私は逃げていただけだったんだわ」

ジェイダーに愛されたい心を麻痺させて、道具としてでも彼の傍にいたがったハンナ。――もし私が彼女と同じ立場だったら…?
私はそっとキッドさんを見上げた。


「…何だよ」

視線に気付いたキッドさんが見てんじゃねェと睨みつけてきたけど、やっぱり嬉しい。うん、嬉しいのだ…!


「ハンナ!」
「?」
「触れられる距離に大事な人がいるなら、愛を叫ばなきゃ勿体ないよ!」


ハンナは驚いた顔をして、すぐににっこりと笑顔を見せた。
やっぱ恋する女の子はこうでなくっちゃ。


その時、どこからともなく歓声が会場全体に響き渡った。そういえば見通し良すぎるし、スクリーンも復活していたようで、私達のやりとりは客席まで伝わってしまっていたらしい。

「チッ、うざってェ……!」
キッドさんは歓声の中にいるのが慣れないのか、居心地悪そうに髪を掻き回している。

「それより!早いとこ怪我の治療を」
「ほっとけ!こんなモン」
「唾つけときゃ治るとか原始的な事言わないでくださいね!…でも待って」
「(嫌な予感)待たねぇ」
「唾をつけて欲しいっていうなら私いつでもお役にたっちゃう!ほーうらウゲヘヘ」
「待たねェっつったろド変態野郎!!!近寄んな!」
「声ひっくり返ってますけど……そんなにイヤ…ですかぐすん」


『ご無沙汰しております!実況です…!!ええええと、何と言う事でしょうか!この状況!過去に類を見ない事態となっております!』

そりゃそうだ。
迷路は(キッドさんの破壊攻撃によって)瓦礫の山である。


『機能している伝電虫の映像から見ても、今、この迷路内で確実に立っているのはたったの2チーム!!エントリーナンバー21番のエドワードとサリー、そして31番、海賊、ユースタス・キッドとなまえの両チームのみとなっております』


「もうゴールがどこか分からないし……これは引き分けですかな?」
「あ゛ぁ!?ンな温ィ真似許さねェぞ!!」


『ということは両チームの引き分けか!!??―――と思いきや、ここで新たな情報が入ってきました!!』
ザザ、ザーとノイズ交じりの音声が聞こえてくる。

――
【それより、嬢ちゃん……なんでこんな所にいるんだ!?】
【ま、まさか……悪魔の実の能力を?】
【使ったら即失格だぞ!!審判に言いつけてやる!】

私はハッとして自分の襟元を見た。
「あ…」
そこには、ワッペンと対になって無線の役割を果たしている「D」の襟章が付いている。(ちなみにハチマキワッペンの方はハデスちゃんとの戦闘中に損失)
「こ、これ……まさか、そんな機能が…?」
じゃあ私が次に言った言葉は…確か、

【失格?退場?―――上等だボケェ!!】

「……」
うーん、キッドさんからの視線が痛い!

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