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俺が、海賊を捕らえ海の秩序を守らんと海へ出たのは数年前の話だ。


「―――これが」
「………エドワード」


左右で視界を狭めていた迷路の壁は遙か先まで粉々に打ち砕かれ、未だに霧が漂ってはいるものの、観客席まで見通せるほどになっていた。
自分とサリーの目の前にある背中の他に、立っているものは見られない。


「……ユースタス・キャプテン・キッド」


――これが海賊。偉大なる航路を、手に入れようとしている男の実力。




**


「キッドさん!」突如として現れた少女は、キッドの傷を見ると顔を真っ白にして、空中にぶら下がった。(正しくは、空中に空いた丸い穴に手をかけて、である。)そこからそうっと地面に足を延ばして着地する。

「………なんて面してやがる、情けねぇ」
「ギ、…ッギッドさん、ごべ」
「謝んなっつってんだろクソチビ……」
「いだそう・・」
「痛くねェ。泣くな」


キッドはなまえの頭を乱暴に撫でつけ、自分の方へ引き寄せた。
――戦いは終わったのだと錯覚しかけた時、前方で倒れていたジェイダーが、血を吐いて体を起こした。



「まだだぁ…―――!!まだ、終わっていないぞ」

誰が見てもキッドの勝利は明らかであった。しかし、それでもジェイダーだけは、それを認めてはいない。怨みのこもった目をキッドに向け、なまえや、その場にいる全ての人間に向け、己の思うがままに叫び散らした。――キッドは煩そうに眉を寄せて、ジェイダーの小言を聞き流す。

「そんなに続きがしてェなら、次こそ息の根止めてやるよ」

しかし、片腕を上げたキッドの横を、音もなく白いものが過ぎ去った。




「ジェイダー」


ハンナの呼びかけは、透明な響きをもってジェイダーの耳に届いた。怒りに身を任せ、ただ喚き散らしていたジェイダーの動きが止まる。


「もう、終わりにしましょう」
「……何…だと」
「これ以上戦っても、あなたが殺されてしまうだけ」

俺を裏切るのか、ジェイダーの言葉に、ハンナは静かに頷いた。


「私は始めから……裏切り者」
「…っならば退け!!使えない道具は必要ない」
「いいえ。ここは退かない」
「何だと…?」
ハンナは続ける。
意志のある、強い瞳で。

「あなたは今までずっと、愛を殺すことでしか自分の存在を証明できなかった」
ジェイダーの目が見開かれる。
「そうでしょう」
「…黙れ」
「でも、私は」
「黙れ!!!貴様、」

ハンナに向けて振り上げられた拳が、その白い頬を捕らえるより先に、ハンナはジェイダーの唇に自分のそれを押し当てていた。

「私の中で生まれたこの気持ちを、私はずっと大切に隠し続けていた。……ごめんなさい、ジェイダー。
あなたを愛しているの」

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