正直、こんなふうに落ち込んでいるなまえを見るのは初めてで、焦る反面少し嬉しかった。


「なまえ……抱きしめていいか?」
「………はい?」
何言い出してんのこの駄犬、とでも言わんばかりに顔をしかめるなまえ。失礼な奴だ。
「突然抱きしめたくなった」
「聞き間違いかと思ったんだけど、え、なん……何で?」

ジリジリと後退するなまえに迫る。

「どうしたの突然!いつものヘタレっぷりはどうした!」
「俺はお前を元気付けたいんだよ」
「いやシリウスのハグで元気出る女の子は一部だけだから!ちなみに私は別にって感じです!」
「なんだと!?」
「ちょっとイケメンだからって調子のるなよ!」
「お前だってよく俺らにハグするだろ」
「私のハグが嫌な人なんて存在しませんー、はぎゃ!」


嫌がって暴れるなまえを力強く抱きしめる。
彼女にするハグっていうよりも、ジェームズ達とじゃれあう時に近い気がした。
なまえにいつもの軽口が戻り、俺はほっと息を吐く。

「なまえ。今後お前が世界最強の魔法使いになるようなことがあったりしたら、……いいか、忘れるなよ」


「叫びの屋敷の隣に、でかい家を建てろ」

「………は?」
「五階建てな。」
「え?」
「一階は俺とジェームズの悪戯専門店、二階はムーニーとワームテールのカフェレストランで、三階と四階には俺達の家族が住む。あ、庭には温泉な。ニホン式のやつ。そんで五階は」

なまえの底知れぬ魔力に、一番怯えているのはコイツ自身。
俺達はお前のことをバケモノなんて思ったりしねぇ。何があっても、これだけは言える。

「なあ、五階は、俺達だけの隠れ家にしよう」

なまえの肩に顎を乗せながら、そんな未来を想像してにやついた。

「でかいソファがいるな。ホグワーツまで見渡せる望遠鏡も」
「……チェス盤と、ハンモックもほしいよね」

黙っていたなまえが笑ったのが分かった。

「ああ。それに」
「チョコレートをたくさんしまっておける冷蔵庫がいるね」
「僕は隠し扉がほしいな。屋根裏に入れる」
「本棚と、……あったかいブランケットがあるといいなぁ」

その声を聞いてなまえからバッと離れる。
当然のように廊下に佇んでいたのは、悪戯仕掛人のメンバーだった。

「パッドフットったら、こんな昼間から廊下でいちゃつくなんて非常識じゃないかい?」
「ウサ耳生やしてるやつに非常識とか言われたくねぇよ」
「なまえ。実はずっとつけてたんだ。ごめんね」
「リ、リーマス!言わなかったらばれないのに…っごごごめんねなまえ」

「もし君が自分でも魔法を制御できなくなったら、僕らが君を助けてあげるよ」
「ジェームズ……」
「大丈夫。僕らは君の事なんてちっとも怖くないから。むしろそんなに便利なら顎で使いたいよね」
「はっ倒すぞ」
「なまえー!!」

バタバタと向こうから走ってきたのはエバンスとスニベルスだ。(そういやコイツらも一緒に探してたんだっけ。)
まあ俺が一番に見つけたけど、と優越感に浸りかけたところへ、エバンスがなまえに飛びついた。俺も大概驚いたが、ジェームズはもっと凄惨な顔で目を剥き出していた。

「ばかっ!アナタどこに居たのよっ、私心配で」
「り……リリー、授業は?」
「そんなの出てられるわけないじゃない!」

目を白黒させるなまえの頭を今度はスネイプが教科書で叩いた。スパンッ、といい音が廊下に響く。


「僕に言う事は」
「……出会い頭に可愛らしいウサ耳生やしちゃってごめんなさい」
「あとは」
「…借りてた魔法史の教科書ヒバードに変えちゃってごめんなさい」
「まだある」
「リリーの無遅刻無欠席記録に泥を塗ってすいません」
「最後に」
「…………心配、かけた?」
スネイプは黙ると、ふいと顔を背けて小さく告げた。

「あたりまえだ」


なまえは顔を上げて俺達全員を見回すと、申し訳なさそうな、はにかむような、微妙な顔をして笑った。
言いたいことや聞きたいことは色々あったけど、ひとまずなまえの不安は拭い去れたらしい。小さく吐き出した安堵の息は、幸い誰の耳にも届かなかった。


ドォン

その一瞬
胃の底から震え上がるような負の感情に襲わた。
崩れ落ちる俺達の傍で、只一人立っているなまえは、まっすぐに広間の扉を見つめている。

「、なまえ……?」
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