「愛と、勇気だけがとーもだちさー」
「……寂しい奴だな」
「卿だけには言われたくないよね」


懐かしのワンフレーズを口ずさめば隣にいた帝王様の小耳に入ったらしい。失笑付きでそう言われた。ついでにちびっと呟いた反撃の言葉は、杖を無言で構えられたため尻窄みもいいところだ。

「大体、お前どうして俺様の部屋に居るんだ」
「そんなの私に聞かないでください」
「そもそもお前は何故俺様の屋敷に居る」
「私が聞きたい」

とんでもなく幸薄そうな顔ぶれのど真ん中に落っこちて会議ぶち壊しにした挙句殺されかけた事はまだ記憶に新しい。

そもそも、どうしてトリップ先がこのお屋敷なんだろう。会議中にしてもさ、ホグワーツの職員会議とはわけが違うんだよ?「マグル狩ろうぜ」とか「魔法省に内乱起こさせるというのはいかがか」とか「スパイ入れてこい」とかって内容の会議だよ?おっかなくね?

「お前の貧相な思考回路だと精々その程度か」
「なにを!」
「俺様達の会議がそんなものだと思ったら大間違いだ。……今度貴様も参加してみるといい」

身の毛もよだつぞ、と白々しく言ってのける辺りこの人は意地悪だ。

「……ヴォルデモートさん」
「何だ」
「何で私が来た時、殺さなかったの?」

ヴォルデモートさんは黙ったまま、私に言葉の続きを促した。

「私言っとくけど何も出来ないよ?人殺しはもちろん、掃除、洗濯、皿洗いから書類仕事に至るまで死んでほしいと思ってるほどに」
「分かりきったことを」

ヴォルデモートさんは書斎の戸を紳士的に開けていてくれた。日本ではあまり見られないレディファーストには、未だにどぎまぎしてしまう。

「魔法だって今のところ、呼び寄せ呪文と死の呪いくらいしかできないし……」
「ああ…」


ヴォルデモートの脳内に数週間前の記憶が蘇る。
あの日、彼はふと気が向いてなまえに魔法を教えていた。順を追って教えていくよりも、まず力試しにと死の呪文を。……まあ、無理だと思っていたが。


「卿ー!!教えてもらった呪文で部屋のゴキブリ一掃してやったよう!」
「…」
「なんなら屋敷中のあいつを殲滅してあげよっか?くふふふ」

一発で成功させたことには心底驚いた。加えて、何度やらせても疲弊の色を見せない。
(この際始末したものについては何も言わない事にしよう)


「興味があるからおいているだけだ」
「野放しで?」
「無害な女だとは思っていないが、ここで謀反を起こすほどの馬鹿でもなかろう」
「……」
「それにはお前の魔力の底が見えん」
「……え!私そんな凄いやつだったの?最強?」
「調子に乗るな。俺様には劣る」
「けっ、いつか追いこしたる」
「やってみろ」
「じゃあヴォルデモートさん。私に杖買ってくださーい」

心底面倒臭そうに眉をしかめられた。
ヴォルデモートさんはローブを翻して窓の前に立つ。そしてちょいと私を指先で呼んだ。

「…ほら。庭にいくらでも転がってるから勝手に取っていけ」
「やっほーい!って言うと思ったら大間違い。あれどう見ても木の枝だよね」
「不満か」
「不満ですよ。先っぽ二つに分かれてるし」
「奥のはどうだ」
「むき―――!長すぎでしょうが!」
「折ればよかろう」
「折って先っぽギザギザになった杖はもう杖とは言えません!!ただの先がギザギザの棒です!!」

窓辺で繰り広げられている間抜けな言い争いを遠目に見て、ルシウスは深いため息をついた。

数分前。
中から確かに声は聞こえるのに、10回ほどノックしても応じられず、仕方なしに「失礼します」と入れば気付かれず。ああ、私って……と嘆くルシウスに、なまえが気付いたのはその更に十分後である。


「ありゃら?どしたんルッシー」
「……いえ、あの……お茶をお持ち致しました」
「お茶?そんなん頼んだっけ」
「ええ先程確かに紅茶とクッキーを持ってこい、と……まさかお忘れに」
「あはは!お忘れになってたごめん!アンドサンキュウ!」
このくそアマ、というのは心の中の台詞だ。

「ルシウス」
「何でしょうか、我が君」
「……後でなまえの杖を買いにオリバンダーの店へ行け。このアホも連れてな」
「………」
「ルッシー、顔面が全力で拒否してるんだけど気のせい」
「気のせいでしょうとも……」

どうやら庭にある枝じゃ不満らしい、と溜息を吐くヴォルデモートになまえはタックルをかます。だがそれもすらりと優雅な仕草で避けられて、なまえはドガシャンと机に突っ込み目をまわした。

「どこまで阿呆なんだ」
ルシウスはヴォルデモートの呟きに小さく同意して、手に持っていたカップをそっと傾いたテーブルに乗せたのだった。

やっと魔法使いらしくなってきたわ!
(いや、そんな態勢で言われましても)
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