なまえ、お前勉強しろ。妙な浮遊感で目を覚ますと床が遙か真下に見えた。やだなァ変な夢だわさっさと目を覚まさないと。
試しにホッペを叩いてみた。痛って!この野郎!もう一回平手をかます。鋭い痛みが、自己の覚醒をありありと示しているのに気付いたころには全身に嫌な汗をかいてしまった。絶叫は、飲み込む。


「そこで自虐に浸っている暇があるならさっさと勉強しろ」
「…き、きょ卿ウウウウウウ!何やってんですか何やってんの!?自虐じゃなくて現実逃避ですけど!早く下ろしてェエ!!」
「勉強しろ」
「ちょ、聞こえてるよね無視してるよね!勉強ってもこんなとこじゃ何も」
「そうか」
「そうか…って、どええええええええええ!!!」


身にしかと感じた重力に逆らえぬまままっさかさまに床に落ちる。卿の部屋の天井があり得ないほど高いのが悪い。
私がスプラッタな死に様を晒さずに済んだのは、ヴォルデモートさんが床ギリギリで落下をストップさせたからだ。リアルフェイスは好きだけどこんなにギリギリで生きていたくは無いです。


***


「と言う訳だ、ルシウス。この阿保に一般的な魔法を教えてやれ」
「……(お言葉ですがと言いたい)」
「お願いしますごめんなさいお願いします」
「私が教えてやると言っても珍しく遠慮しおってな」
「あんなスパルタがこの世に存在するんですね。生きてるってすばらしい。」
「(一体何が…)畏まりました」
「ひとつ言っておくが、こいつは許されざる呪文と『笑い続けよ』『踊れ』しか使えんぞ。まったく阿保らしいものばかり覚えおってこの馬鹿が」


私とルシウスを残してさっさと部屋を出ていってしまったヴォルデモートさんを軽く恨む。だってルシウスの私の事を見る目がゴミクズを見る目なんだもの。


「ルシウス先生、わたし呼び寄せ呪文が使いたいです」
「…」
「他意は無く!ほんとに他意は無いよめんどくさいからとかそんなん無いからその目止めてェエ!!」
「……まあいいでしょう。それでは、まずは私がやってみせるので覚えてください」

頷くとルシウスは杖をさっと振り、呪文を唱えた。

「アクシオ、本よ来い!」

「わああお!すんげっ」
「では、やってみてください」
「了解!…アクセス、本よこい!」
パリンベチャアッ
「…」

違うよ違うよ。今のは私が魔法に失敗したとかそんなんじゃなくて、ルシウスが壁にチーズケーキを叩きつけた音なんだよ。

「…随分とお上手ですな」
「今のはレダクトだよ?ほら!レダクト!」
ガガンバリボキ!
「レダクトは一発で成功されましたね」
「おうとも!デストロイヤーと呼んでくれたまえハッハ…修復魔法はできません」
「ほう。ならひたすら壊し続ける気ですか。この屋敷を?殺されますよ」

誰にとは聞かない。知ってるもん。

「貴方様のおかげで私の主君へ捧げた貴重な時間が削られていくのは耐えがたい事ですが」
「(そこまでか)」
「しかたありますまい……。今日一日は呪文練習に付き合ってさしあげましょう」
「どうしてだろう。敬語なはずなのに遥か高みから見下されている気がするのは。オイ見下ろすな!オイ」

お勉強会
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