大理石のテーブルを囲み、黒の装束を纏うのは、男とも女ともとれぬ闇の魔法使い達。ある男の忠実な下僕。彼らはひそめきあいながら、この集いが始まるのを今か今かと待ち望んでいた。


「それにしても、最近屋敷をうろつく小娘……目障りなものだな」
「我が君は何故あのような娘を生かしておくのか。あの身体では夜の相手というわけでもあるまい」
「馴れ馴れしく我が君に擦り寄りおって……おぞましい」

彼らの言葉が途切れたのは、唯一ある扉から待ち望んだ我が君が姿を見せたために他ならない。ーーー小さな女の子を連れて。

「わ.......我が君、?」

死喰い人の一人が声を上げる。

「そ、その小娘は……」
「貴様には何か見えているのか」

いや見えてるっていうか.....。

素っ気無いヴォルデモートからの返答に、彼の膝の上に座る小さな少女、なまえの姿を認めたデスイーター達は狼狽し始めた。
少々には服がないのか、ワイシャツをワンピースのように着こなして、頭には赤いリボンを付けている。

反応を見せていないのは、彼女の起こす奇行には慣れに慣れたルシウスとセブルスのみである。

(我が君が容認してるようなのでもう何も言うまい)

ざわめくデスイーター達の中で、その巨眼がこぼれ落ちそうなほど驚愕しているのはベラトリックスである。

なまえはそれを目の淵で確認すると、にやりと口角を上げた。それを一瞬で隠し、彼女は再び愛らしい瞳に戻り、ヴォルデモートに懇願した。


「パパ、なまえおなかへっちゃった」

ヴォルデモートはため息を付いて、膝に乗せたなまえの額を優しく撫ぜる。

「屋敷しもべに言って好きな物を作らせるが良い」
「でも、あるくのもめんどくさいの」
「なら呼び寄せ呪文を使うといい」
「はあい!あ、パパ、パパのつえをなまえにかして」
「馬鹿を言うな。」

ここでヴォルデモートが目を向けたのはテーブルを囲う死喰い人たちだ。

「お前達、俺様の愛しい娘に杖を貸し与える者は居らんか。例えば.....ベラ、どうだ」

ベラトリックスは真っ青になって「我が君」と震えた声を漏らした。

「恐れながら、私の杖は、その小娘には扱いにくい代物にございます。ま、ましてや、今の娘は...」
「ベラ、私は尋ねているのではない。貸せと、そう言ったのだ」

主従の関係とはかくあるものだ。
身を低くしてなまえに杖を差し出したベラトリックスは、最後睨み殺さんばかりの目をなまえに向けて元の席へ戻った。

なまえはその目すらもにっこりとした笑顔で跳ね除け、再びヴォルデモートの膝元に戻ると、「アラーニア・エグズメイ」と唱え、周囲にいた蜘蛛をその場から散らした。
そして双子呪文でヴォルデモートの座っている椅子を一脚増やし、「現れよ」の一声で品のある小ぶりなテーブルと、その一箇所だけを覆える天蓋を設けた。
それだけに飽き足らず彼女は埃っぽい部屋を一掃し、ところどころ切れかけていたランプの火を灯すと、浮遊呪文で列を為して現れた葡萄酒のグラスを死喰い人それぞれの前に並べた。

「この調子で食べ物も魔法で出せたらいいのにな」
「それは不可能だ。何故なら」
「ガンプの元素変容の5つの例外でしょ?じょーしきじょーしき」

ヴォルデモートが微かに驚いた顔をする。
シュー、と彼らの足元でナギニが身をもたげ、なまえもそれに応じると部屋の片隅に居たネズミに失神呪文をかけて彼女の餌を用意した。

これだけの呪文を容易くこなし、魔力の底が知れず、加えて我が君と崇めるヴォルデモートと同様蛇語を操る少女。
もう彼女を「ただの小娘」と軽んじるものは一人もいなかった。

「杖、どうもありがとう!ベラさん」

なまえはヴォルデモートの膝に腰掛けたまま、ふわりと杖を浮かして彼女の前に置いた。
少女の目が、愛らしいそれから艶やかな色を帯びて面々に投げかけられる。

「私は死喰い人じゃないけど、あなた達と争いたいわけじゃない」

ワイシャツに収まっていた手足がすらりと伸び始めたのに気付き、まずセブルスが腰を上げた。自分のマントを剥ぎ取ってヴォルデモートの席へ近付く。同じように席を立っていたルシウスがそれを受け取った。

「あなた達は私が気に食わないかもしれないけど、大丈夫、だってーーーちょ、何セブ。ルシウスも?私まだ喋ってんですけど」
「いいから」
「あが!」

弁に熱をのせすぎて己の変化に気付いていないらしいなまえは、肩にマントをかけられながら最後の台詞を放った。

「つまり、これでもまだ私とドンパチかましたいって根性ある人がいるなら、いつでもどうぞ。今度はあたしも容赦しません」
「加えて、これは私の所有物だ」

ヴォルデモートが彼女のなめらかな太腿を撫で上げながら彼女を横抱きにし、(ここでようやく自分の体が元に戻っていることに気付いたなまえは、当然声にならない悲鳴を上げる)さらにそれを覆うように漆黒のローブを垂らす。

「よからぬたくらみを抱いたものは、相応の罰をもって死を与えよう」


その日以降、ベラ含め、なまえを相手に睨みをきかせる者が屋敷から居なくなったのは言うまでもなかった。

(セブルス、私のパンツ見たでしょエッチ)
(不可抗力で見たが、そんな理由で我が君に殺されてはたまらないし、さして大したものでもなかったので見ていないことにする。見てない)
(私今開心術使えたかも。なんか全部聞こえた)
(言ったからな)
(卿ーーーーーー!!!!)
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