「お前が我が君と繋がりがあるのは、あの頃から気付いていた」
「う……」

私が言葉に詰まると、セブルスはやや申し訳なさそうに目線を下げた。

「盗み聞きしていたのは、すまないと思ってるが、あんなところで話しているお前やルシウス先輩にも非があると」
「いや、そんなことよりセブルスの我が君′トび気持ち悪い」
「今どうでもいいだろそんなこと!」
「全然良くないよ!友達がお母さんのことちゃん付けで呼んでるくらいの気まずさだよこれ」

私とセブルスは物置きで膝を抱え、セブルスいわく十数年振りの会話を弾ませていた。弾み方は、半分ほど空気の抜けたバスケットボール並だと思っていただければ正解である。


「でもあの会話でよく分かったね。私が卿と知り合いだって」
「いやそれよりも前に、ノクターンで」
「ああー!会ったねそう言えば!私が迷子になった時だ!」
「まあお前とルシウス先輩の会話を聞くまでは、まさかあの男が例のあの人だとは思ってなかったがな」
「ふーん。ていうかセブルス身長伸びたね」

セブルスの頭に手を伸ばしてぽんぽんと叩くと、すかさず払いのけられた。

「お前は変わらない……どころか、成長が一切見られないが、どういうことなんだ」
「だって私10年前から来たんだもん」
「全然おもしろくない」
「いや冗談ちゃうわい」

ハア?みたいな顔をしているセブルスに、要点のみをかいつまんで説明する。

「そういうわけで、私からしてみたら皆と別れたのも数日前の出来事なんだよね」
「ふざけた話だ。信じられない」
「私もよくわかんないんだけどね」

へらりと笑いながら腰を上げた。
セブルスはまだ聞きたいことがありそうだったけど、そろそろお尻が痛いし放置してきている卿が怖い。


「私、まだもう少しここに居ることになりそうだから、明日また話そうよ!」
「……僕はそんなに暇じゃない」
「ノンノン、甘いぜセブルス、今このお屋敷で私の権力は卿より高い!!」
「殺されるぞ」
「卿のちょい下くらいのところにはいるはず!!うん!たぶん!
――だからきっと大丈夫だよ!」

取っ手に手をかければ、セブルスは不服そうにしながら先に行けと顎を突き出した。

「こんなところから一緒に出て行くところを誰かに見られたらまずいだろ」
「朝帰りの不倫カップルか!」
「勘弁してほしい。」
「真顔止めて」

私は最後に振り返って尋ねた。「セブルス」

「私達、まだ友達だよね?」

聞かなければよかったかな、と少し後悔してしまったのは、セブルスの顔が途端に陰ってしまったせいだ。思い出を振り返ることを止めてしまったように、彼の瞳から色が消えたように見えたのだ。


「………分からない」

少しの沈黙をはさんで、彼は言う。


「昔は、確かにそうだったかもしれない………。でも、今は分からない」
「……セブルス」

私は肩を押されて外へ追いやられた。
何も言わずに立ちすくむ私を前に、少し大人びたセブルスが眉を下げて口角を上げる。

「……また明日、話すんだろ」
「、うん」

私はここへ来て初めて、時間というものを少しだけ恐ろしく思った。

彼はこの十年でたくさんの何かを失くし、奪い、見捨ててきたのだろうか。
私には共感できるはずもない時間の流れが、壁となって今、目の前にある気がした。
top