「まあ、暫くはこの作戦であの馬鹿を引き留められるだろう」
「あの方はお人好しなところがありますからね」
「だがこのまま食い物を与え続けていてはさすがに肥えるか……。何か別の方法も」

「我が君」

ヴォルデモートの書斎で交わされていたルシウスとの会話に、ベラトリックスは険しい表情で口をはさんだ。

「何故、あのようなものに執着なさるのです」
「……」
「忠実なしもべならこのわたくしが……!貴方様の御傍に居りますのに」
「奴はしもべではない」
「では、あの小娘は一体」

「あれは私のもの≠セ」

ヴォルデモートの声がぞっとするような冷たさを孕んで書斎に響いた。

「何度も言わせるな、ベラトリックス」

それは、ヴォルデモートが死喰い人や、他の、追従させたい者共に向ける声色に他ならなかった。


「あいつを生かし甘やかすのも、苦痛のうちに殺すのも、全ては俺様の気分次第だ。
――それは奴を拾った俺様のみに許される権利。
お前や、他の者共の勝手で、この俺様の権利が奪われるようなことがあった際には……」

「ああっ、我が君、!!」
ベラトリックスはたちまち膝をついて、震えながら頭を垂れた。

「身の程知らずの物言いを、どうかお許しください……!このベラトリックス、命に代えても我が君の命をお守りいたします」


壁際でひっそりと身を縮めていたルシウスは、一種の畏怖のような、そして強い強い不安にも似た感情が胸に生まれたのに気が付いていた。

(なまえ様が姿を消されて10年……。)

我が君は崇高な支配力を強め、闇の力を魔法界に広めていくその一方で、いつも彼女の姿を探しておられた。
それでも見つけ出すことがかなわず、無常に年月が流れるたび、我が君の中のなまえ様へ対する執着は一層強まり、――何の因果か、今日あの頃の姿のまま≠フ彼女が我々の前に姿を現した。

(なまえ様……)

あなたは気付いておられないだろうが、
もしまた我が君の前からあなたが姿を消そうとした時、その時は、きっと我が君はあなたを殺しますよ。
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