「もう、こんな事は終わりだ」


部屋に入るなり早々に三成は早口でそう告げる。
握られた掌が震えている辺り、ワシにそれを告げるためだけに相当な努力を有したのだろう。
少しの優越感。


「セフレのことか?」
「それ以外に何がある」
「それはまた唐突だなあ。いきなりどうした?」


とぼけてみせればそれが気に入らなかったらしく、三成の琥珀色の瞳が真っ直ぐにワシを睨んだ。
それさえも美しい男だとは思うが、でもそれだけだ。


「貴様には恋人がいるだろう!こんな関係は裏切りだと何度も言った筈だ!!」
「でも終わらせられなかった」
「違うッ…!私は、…今日こそは終わらせる!!」
「いいのか?」
「!!」


ぴくり、肩が揺れた。
三成はワシとは違って融通が効かなくて、嘘も吐けないから、動揺しているのが手に取るように解ってしまう。

バカだなあ、三成。
だからワシみたいな男につけこまれるんだ。


「な…にを…」
「ワシとの関係を、終わらせてしまってもいいのか?」


くしゃり。
端整な顔が歪んだ。
眉間にいっぱい皺を寄せて、それでも真っ直ぐにワシを睨む。
最早、睨んでいるのかも解らないが。
三成の頬へ手を伸ばせば、少しだけたじろいていっそ泣き出してしまいそうに顔を歪める。
美しい顔をしているから、歪んだ顔も綺麗なんだろうな。


ああ、可哀想な三成。
何を言われてもワシの事が好きな三成。
何を言われても、断れないのだろう?
ワシの嘘を愛してしまっているのだろう?



「おいで三成。ちゃんと可愛がってやるから」
「…ッ…、」


ほら、断れない。
結局、お前はワシにすがるしかないんだ。





眩暈がするような愛を
(お前はワシから離れられないだろう?)



text by ポケットに拳銃