甘い、匂いだ。



「……、んん…」
「おはよう、長曽我部」


目を開けば、少し悲しそうだが、今まで見た中で一番穏やかな表情の石田が俺の髪で遊んでいた。
枕のように頭の下にあったのは石田の膝で。
所謂、膝枕というやつ。
ああ、甘い匂いはお前だったんだな。



「……ああ、おはよう」


答えてその真っ白な頬へと手を伸ばす。
ちゃんと触れた。
くすぐったそうな石田はそれでも俺の手を振りほどこうとはしなかった。



「長曽我部、」
「んー?」
「すまなかった」



見下ろされる形で真っ直ぐに俺を見つめる鋭い瞳が揺れる。
眉をぐっと寄せ、今にも泣きそうな顔をしている。
…馬鹿だな。



「すまない…、私は……っ、私は……!」
「…もう、いい。石田」



ぽたり、頬に落ちた石田の涙は確かにぬくもりがあって。
懐かしいな、石田。
寒がってるんじゃないかと心配してたんだ。
お前は寒がりだったから。



「どれ、もう起きるか」
「長曽我部」
「なんだ?よっ…と」
「…家康も、いる」



ああ、そうだ。
家康にも会わなくては。
言いたいことが山ほどあるんだ。
家康、家康。



「そうかい。じゃあ、行かなきゃな」
「…私は刑部の所にいるから、」
「……幸せそうだな」



石田が、本当に安らかな顔をしていたから、安心した。
そうか、ここはこいつにとっては何よりも幸せなのか。
話だけ聞けば家康とも仲直り出来たらしいし。



「次は、俺の番だな」
「……すまなかった。長曽我部」
「なあに、お前が気にするこたねぇさ。さあさ、家康のところに案内してくれ」



あたたかくて柔らかなぬくもり。
幸せの、空間。




終わったんだね。


「三成くん、」

「半兵衛様!!」

「家康くんが探してたよ。元親に会いたいって騒いでる」

「半兵衛様のお手を煩わせてしまい申し訳ございません!」

「いいよ。それより、元親くんを送り届けたらお茶でも飲もう。秀吉が待ってる」

「はいっ!!」