初めて顔を合わせた瞬間、彼の琥珀色の瞳が大きく見開かれた瞬間、彼の形の良い唇がゆっくりと息を吸い込んだ瞬間。 ワシの口から出たのはやはりため息だった。 「…あ、ああ…ああああ!!!」 (案の定、発狂してしまったか) 街中(運良く人通りは少ないが)で見開いたままの瞳で叫び出した彼はおそらく自分の考えている人物で間違えていないだろう。否、間違えるわけもないのだけれど。 予想はしてたがめんどくさいことになった。 「大丈夫か?」 「気安く私に触るな!!!!」 ばち、と叩かれた手がじんじんと痛む。 震えたその手が相も変わらず細いので、またため息が出そうになった。 威勢だけはいいのだ、昔から。 「何故貴様がここにいるッ!!!」 「何故って、ワシはこのあたりに住んで…」 「うるさい黙れ黙れ!!!」 ああ、今回も発症してしまった。 周囲の視線が痛かったが、なんとか彼をワシの部屋まで連れていくことに成功した(アパートの近くで出会えてよかった)。 彼はもう自分でもわけのわからないことを叫んでいる。こうなってしまったら、もう戻れない。 「、あ、あああああ、」 「…喉が潰れるぞ」 「貴様、よくものこのこと私の前に現れたなッッ!!!!」 「落ち着けよみつなり」 「…は、?」 ほら、ね。 また同じだ。 「…貴様今何と言った?」 「何もおかしくないだろ、みつなり」 「みつなり?」 「誰だそれは」 ―――もう、何回転生したのかわからないが、どれだけ生まれ変わってもワシは三成と会った。そしてその度に三成は発狂するのだ。 何も覚えてなどいないくせに。 鋭い琥珀色が大きく見開かれて、戸惑ったように震える。ああ、やっぱり、こんな時まで美しい男だ。 仕方がないからゆっくり三成をこわがらせないように手を伸ばして、腕の中に閉じ込めた。細い腰。 「離せッッ!!!私に触るな!!!!」 「三成」 「違う違う違う違う違う違うあああああああああ!!!!!!」 暴れる腕が当たって地味に痛い。 この痛みももう何度目になるのだろうか。 数えるのも飽いてしまった。 ―――あの日関ヶ原でワシが三成を手にかけてから、ずっと呪いは続いてる。 何度生まれ変わっても、何度三成と出会っても、どんな形であれ三成はワシを見た瞬間からおかしくなってしまうのだ。 ワシはその度に三成の、あの悲痛な叫びを聞かなければならない。それは呪いだから。ワシと出会って三成が狂ってしまうならいっそ出会わないようにと何度祈ったかしれない。だが、ワシと三成を結ぶそれはあまりにも強固で揺るぎないものだったから。 「違う…ちがう、私は…」 「…うん、そうだな、ごめんな、おまえは三成じゃないもんな、ごめんな」 「…ちがう……ちがう…」 優しく頭をなで続ければ腕の中で大人しくなった三成の二つの琥珀色から滴が溢れた。ああ、美しい三成、ワシと出会ったがためにこの世でも狂ってしまった哀れな男。 (それでも、) ワシと三成に結ばれた強い呪いが、ワシの豪語していた絆なのだと、この呪いこそがワシの欲していたものなのだと、確かにそう思ってしまうワシがいる。 この呪いすら愛しいと思ってしまうワシがいる。 ああ、三成。 狂っているのはお前か、ワシか。 小指に絡まった呪い (ワシはどうしても幸せを感じてしまうよ)
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